※ Mの悲劇 ※










オレとしたことが。

職務怠慢と言われても仕方が無いだろう。事実オレはその瞬間、意識を別の所へ向けていた。
そして、それを敵に気付かれ傷を負い、任務を断念せざるを得なくなった。
里に戻り、病院へ搬送された所までは覚えている。けれどそれ以降の記憶はない ───── というよりも、
そこで意識を失い、気が付けば病院のベットの上に居た。





「カカシ先生っ!?」
「耳元っ…で大声出すんじゃない…。」

オレが目覚めた事に気付いたのはナルトのようだ。驚きの声を上げ

「オレねーちゃん呼んでくるから待ってるってばよ!」

そう叫んで病室を飛び出していく。
病院から店まで走ったとして、彼女が部屋に来るのは30分以上後になるだろう。
オレは自分の身体の何処が痛むか?を確認しようとゆっくり身体を起こそう ───── として。

「っカカシさんっ!」
「えっ!?」

病室に飛び込んできた彼女の姿に驚いた。
何故こんなにも早く彼女がここに?
そんな疑問を浮かべ ───── ようとしたが。オレの疑問は驚きへと変わる。

「…ちゃん?」
「アタシっ…このままカカシさんが目を覚まさなかったらどうしようって…」

飛び込んできたちゃんは、オレがどうにか起こした上半身にしがみ付き抱きしめ
嗚咽を堪えながらそう吐露した。目に涙を浮かべ、僅かに震えながら。

そして、そんな彼女の様子を見て、目覚めたオレを見てナルトはホッとしたのだろうこれまでの事を教えてくれる。

「カカシ先生が目ぇ覚めるまで離れないってねーちゃんずっとここに居たんだ。」

オレが病院に担ぎ込まれたと聞いた彼女はその日から店を閉め、オレの側から離れなかったという。
オレの手を握りオレの名を呼び続け、かたとき離れる事もなく ───── ずっと。
現に今も、彼女はオレにしがみ付いたまま離れようともせずただ涙を流し続ける。

「ねーちゃんさ、もしカカシ先生がこのまま…死んだりしたら自分もって…」

何が起ころうとも、ちゃんにとってオレの存在は二の次三の次。
第一がナルトとサスケで第二が店で、第三は他のガキ共で第四が他の里のガキで。
ともかくオレは常に彼女の中に存在する数々の人の最後尾を走っていた筈が。
ナルトが彼女に聞えないよう、こっそり耳打ちした言葉にオレは耳を疑う。

─── オレの為…に?

不謹慎だと思う。けれど、実は彼女がそんな風に自分を想ってくれていた事実が胸に染みる。
今まで受けた数々の仕打ちなど帳消しになる程の喜びがオレの中を満たしていく。

「ちゃん…。」

オレは、こうやって彼女の元へ生きて帰って来れた事を心から感謝した ────────── のだが。





「もう大丈夫なんだからそろそろ…。」
「ダメっ!だってまだ退院出来ないでしょ?」

オレが目を覚まして二十日が過ぎ、身体もほぼ治癒した現在も尚、彼女はオレに付きっ切りだった。
大丈夫だから、と説得しても頑として首を縦に振らず、店は閉めたままナルト達も放ったまま、
彼女はオレだけに掛かりっきりで。

「ナルト達だけじゃ心配だろ?」
「大丈夫。二人とももう大人だから…。」

子供だから、と猫っ可愛がりしてたのは何処の誰でしたっけ?と聞きたくなるような、
彼女の物とは思えない台詞も出てくる。それだけじゃない、オレに対する態度も言葉も全て違う。
まぁ、それはオレが彼女に掛けた心配がさせている事なのだろう、とオレは思っていたのだが。

「あのねカカシさん。もし良かったら…なんだけどね?」

照れながらもはにかみ、小さく呟いた彼女は

「結構荷物とかも持ってきてるついで…っていうか延長?で、それで…。」

もじもじしつつ、どう切り出そうかと視線を漂わせそして。

「いっそのことウチに住めばいいんじゃないかな…って。」

俯いた顔を真っ赤に染め、オレの上着の袖口を握り締め、

「良かったら…じゃなくて…っその…お願い?だってカカシさん一人だと危なっかしいっていうか…。」

しどろもどろになりながら、けれどオレの顔をまともに見る事が出来ないのだろう俯いたままそう呟く。

「本気?嘘でした…なんて事は無しで、本気で言ってる?」

そして、コクリと頷いて

「嘘なんか言わない…絶対。」

そうハッキリとした口調でそう言った。
怪我の功名ってのはこういう事を言うんだろう、オレはそれを身を持って体験する事となる。

結局、それを機にオレは彼女の家に転がり込み、ナルトやサスケの目を気にする事なく
新婚気分を味わう ────────── 筈だった。けれど現実はそういう訳にはいかない。
何に不足がある訳じゃない、何の不足も不満もない。ただ、オレの中に釈然としない思いがあった。

彼女 ────────── ちゃんと出会い数年。オレは彼女の彼女たる所以を身を持って知っている。
ちゃん程漢らしい女はオレが知る限り存在しない程、漢前な彼女は天と地がひっくり返ってもオレに対して
こんな風に愛らしく可愛らしい仕草一つ見せた事はない。
そう、オレは慣らされていた。慣らされ過ぎていた彼女の漢らしさに。
罵声も罵りもない優しい思いやりのある数々の台詞。
オレはそれをずっと望んでいた筈だというのにいざそれが手に入ってみれば物足りなさを感じる。

─── 何て贅沢な悩みなんだ…。

贅沢にも程がある。オレはこんな風に彼女との生活を夢見、望んだんじゃなかっただろうか?
なのに、彼女の言葉に胸を抉られ泣き崩れたあの日が懐かしい ───── そう思うとは。

─── やめよう。

彼女が変わったのはオレが望んだからだ。オレがちゃんを変えたのだからそれでいい。
こんな幸せな生活など普通、いくら望んでも手に入れられるオレではない。
だからもうこれ以上、昔を懐かしむのは止め ────────── てもいいのだろうか?

悩みというには贅沢過ぎる悩み。
葛藤というには余りにも贅沢で無駄な葛藤。
本当に、まるで夢のような生活 ────────────────────────────── 。




















「カカシ先生っ!?」
「耳元っ…で大声出すんじゃない…。」

オレが目覚めた事に気付いたのはナルトのようだ。驚きの声を上げ

「オレねーちゃん呼んでくるから待ってるってばよ!」

そう叫んで病室を飛び出していく。
病院から店まで走ったとして、彼女が部屋に来るのは30分以上後になるだろう。
オレは自分の身体の何処が痛むか?を確認しようとゆっくり身体を起こした。

それから1時間後。

「カカシ先生…あのっ…さ?」
「どうした…?」
「ねーちゃんなんだけど…っその…。」
「何かあったのか?」
「クソ忙しい時間に目ぇ覚ましてんじゃねぇ!一発殴って寝かせとけ!ってすげぇ剣幕で…。」
「はは…はははははははははは ────────── は…。」

どうやらオレは、長いにも程がある夢を見ていたようだ。
でも、案の定な彼女の反応にホッとしたのも ────────── 事実である。









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長すぎるにも程がある壮大な夢ヲチ。
その上マゾイにも程があんだろ!?なカカシ先生の悲劇(喜劇)。









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