※ 続・Mの悲劇 ※










「カカシ先生おかえりっ!」
「ただいまー。」
「……………。」

もはや、自宅よりも頻繁に帰る(来る)先となった主:ちゃん、同居人:ナルト・サスケ宅。
こんばんは、だとかこんにちは ───── よりもただいま、と言った方がしっくりくるその家に
今日もオレは戻ってきた。
そこで、オレへの出迎えの言葉をくれるのは悲しいかなナルト一人。
サスケは”何しに来やがった”的視線を向けてくるしちゃんに居たっては完全にシカトである。
そんな出迎えにめげる事なくオレは我が家が如くこの家に帰り、朝任務へ出掛けるのだが。

相変わらずなちゃんの過保護っぷり ───── というか何というかその愛情表現なのか何なのか判らない
それらは勿論健在で。

「ご飯の準備出来たからー風呂!さっさと入ってご飯!」

その掛け声を合図に、ナルトとサスケは風呂場へ向う。
そしてその数分後、二人が入っている風呂へとちゃんは消える。一緒に入る為に。
この衝撃の事実を初めて知ったあの夜(※本編参照)、汚れた大人なオレ達は子供な二人を羨ましく思った。
オレ達だけじゃない、男なら誰でもそう思うだろう事情が光熱費の節約の為だったとしても。
事実、まだまだガキなナルトとは違い、サスケは相当困惑しているようだ。ただ、困惑しているからといって
拒絶する事はなく大人しく一緒に入っているのが気に入らないが。

オレがそんな事を考えているとも知らないちゃんは、やっぱり今日も

「はぁ〜っ…いい湯だった。」

そう満足気に風呂上りの牛乳を飲み干す。左からナルト・サスケ・ちゃんの順に横並びに並んで。

ぶっちゃけ本音を言うならオレだったあの横並びに並びたい。一緒に並んでぷっはぁしたい。
が、それを言い出せないのは大人の事情っつーかマトモな大人なら口が裂けても言い出せない。

そんな、毎日を羨んでばかりの日々を送る中。
オレに思わぬ幸運が振って沸いた。それは、ナルトとサスケが任務で急遽家を留守にする事になったとある日の事。



「えーーーーーーーーーっ!?」

二人が帰って来ない事を伝える為、ちゃんの待つ家へやってきたオレ。
流石に二人が居ない夜に上がり込むようなマネはしたくない。そう思って伝える事だけ伝えて帰るつもりだった。それが。

「仕方ないか。どうせご飯食べてくんでしょー?遠慮しなくていいよー余らせたり捨てるよかマシだから。」
「っそう…。」

ちゃんは気にもしていないのだろう普段通りで。
それはいい、それはいいんだけどその理由はせめてもうちょっとマシな言い訳が良かった。
捨てるよりマシとかオレはゴミ箱以下な扱いなのか?
と、オレが心の中で涙している事など察する筈もないちゃん。

「準備終わってるし…お風呂先かなぁ。じゃどうする?先に入る?後から?」
「えっ!?」

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオレの聞き間違いか!?
や、単に入るだけだからそんなに焦らなくてもいい、そう焦るなオレ!

「一人だったら溜めなかったんだけどさぁ、溜めちゃったもんは仕方ないしもったいないし?」
「いやいやそういう事じゃなくてね?」
「どうせ風呂入ってないんでしょ?別に気にしないからさっさと入るなら入る!」
「それじゃ遠慮なく入らせてもらおうかな。」
「あー身体洗ったら呼んで。一緒に入ったらガス代浮くから入っちゃうし。」
「は?」
「は?じゃねーし。同じ事何回言わせんの?知ってんじゃんアタシいつもナルト達と一緒に…」
「オレ、ナルトじゃないよ?」
「見りゃ判るわっ!」
「おっ…オレと一緒に入る訳!?」
「問題あんの????」

問題以外何があるんだそこに。

「もうさ?今更じゃん。ていうかカカシさん恥ずかしい?それとも自信ない?」

自信って何の!?

「そりゃ?ナニがナルトやサスケより小さいとかだったら恥ずかしいかもしんないけど一応恥ずかしくない程度には成長してんでしょ?」
「あっ…あのさちゃん…。」
「何デスカー?」

彼女の中に、物事を遠まわしに言うだとかやんわり包んで伝えるとか、そういう気遣いは皆無なんだろうか。
いや、気遣いはある。気遣いがあるからこそちゃんはナルト達と暮らしているんだ。
ただ、気遣いはあっても恥じらいが無い。皆無というよりも端から存在しないんだろう。

オレは後悔していた。
あの夜アスマと共に、ちゃんに一度羞恥心についてどうにかした方がいいだろう、と話し合い、
キチンと諭すべきだと話をすべく店に行ったはいいがオレもアスマも結局言い出せないまま終わってそれで…どうなったっけ。

嗚呼そうだ。結局キチンと諭せなかった事を思い出して今オレは後悔してるんだった。

「じゃ、入ろっか。」
「いや、その…ゴニョゴニョ。」
「何してんの?」

穢れた大人代表としてここは甘んじて受け入れるべきなのか?
それとも、立派な大人のフリをして辞退すべきなのか?
こんなチャンスはおそらく二度とないだろう。
しかも無理やりとか強引に、じゃなくオレは誘われている立場なんだ。

スーッハーッスーッ…。

両手を広げて閉じて繰り返す深呼吸。
よし。オレは立派な穢れた大人代表はたけカカシだ。
近隣諸国に名を馳せた上忍、はたけカカシなのだ。
ここはガッツリ遠慮なく、振って沸いた幸運にドップリ浸ってやろう。そう決めて

「っそういえばオレ忘れ物してるんだっけか。ちょっと取ってくるからさ?風呂は遠慮させてもらうよ。」
「あっそう。」
「っそっそそそ…その代わり飯はご馳走になるからっ!」
「ふぅん…。」
「じゃ、あああああああ後でーーーーーーっ!」

ふっ不甲斐無いっ!何で考えてる事と間逆の台詞が勝手に口から出るんだっ!?って後悔してももう遅い。
オレは二度と巡ってくる事はないだろう一生に一度のチャンスを自主的に逃した。
だから今更足掻いてもそれはもう二度とオレの手には届かない。けれど。
どうやらオレは自分が思ってた以上に穢れを知らない大人だった ───── けれど。





オレは知らない。知らないっていうか気付いてももう知らないフリを貫き通す事実。
オレが逃げるようにちゃんの家を飛び出した後

「ぶははははははははははははははははははははっ!」

オレの様子に彼女が腹を抱えて転げまわって大爆笑していた事実を ───── オレは知らないったら知らない。








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完全に遊ばれてるマゾすぎる上にヘタレてるどうしようもない自称穢れた大人。
これもある意味悲劇(喜劇)。









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