閑.23.55


れんぽうのもびるすーつの脅威から数日後のまんぷく食堂にて。

「お嬢。」
「なにー?」
「今晩呑みに行かないか?」
「二人っきりかい?」
「勘弁してくれ。」
「どういう意味だよそれ…。」
「オレもどういう意味か聞きたいんだけど?」

アスマがいきなりちゃんを誘った。
人間、恐怖体験ってのは癖になるっていうが。ま、まさかアスマもそういう属性だったのか!?

「カカシ、考えてる事がダダ漏れだ。」
「す、すまん。」
「カカっさんの考えてる事はどうでもいいからー。で?当然…」
「タダ酒だ。」
「ばっちこーい!」

何でオレ、カカっさん?そんなにシを言うのが面倒なのか…はともかく。

「ナルトには連絡済みだ。安心して好きなだけ呑んでいいぞ。カカシの驕りだからな。」
「やったーー!」
「聞いてねぇよんな事!!!!!!!」

あまりにも理不尽すぎる状況に追いやられた挙句、未だ恐怖が拭えない身体で再びオレ(も含め体験者数名)が
悪夢の夜を迎えたのだ………………………が。





ニコニコニコ

そんな擬音が聞こえてきそうな全開の笑顔でコクコクと酒を飲むちゃんと

(ちょっと!あれは幻なの!?)
(おおおおおおおおちついてアンコ。まだ12杯しか呑んでないんだから!)

それを見て、驚きを通り越して怯える紅とアンコ。
アスマはその様子をニヤニヤと伺い、オレはどちらかと言えば

(何かおかしい…。)

疑問を浮かべながらも心の何処かしらで怯える側なんだが。

「お嬢、美味いか?」
「凄くおいしいです〜。」
「「「……………。」」」

です〜…の後にピンク色の何かが見えた気がして、アスマ以外の怯える側は更に怯える。がっ!
やっぱりおかしい。根本的に何処かおかしい。

「…ちゃん?」
「何ですか?」
「い、いや…ほんとおいしいなこの酒は…。」
「ですよね〜。」

そして、オレは気が付いた。
歯に衣着せぬ物言いで、雄雄しく猛々しい漢前のちゃんが普通すぎておかしい事に。
いや、普通は大歓迎だ。特にちゃんが普通ってのはありえないから大歓迎出来る筈なんだが。
普通じゃない事に慣らされ過ぎたオレ(達)は、普通じゃない彼女が普通な事にそれまで以上の恐怖を感じていた。
そして、彼女が34杯目のおかわりを注文しようとした時、事件は起きた。っちょっと…酔ったかも…っしれないれす…。」

先ず、その台詞を偶然?耳にした店主が卒倒した。
次に、驚きすぎたアンコがから揚げを喉に詰まらせて気絶した。
さらに、錯乱した紅ががぶ飲みという無茶をしアンコの後を追うように意識を手放した。
ちなみにその間のオレは

(う、嘘だろ…!?)

驚きに放心していたのだが。
何故か一人笑い続けるのアスマの様子にピンとくる。

「おい、どういう事だ?」
「もう気付いたのか。面白くねぇな…。」

この状況はある意味十二分に面白い筈だが?

「実はおもしろい話を聞いてな…。」

クツクツと笑うアスマの語る内容は。

「ウチんとこのが面白い話聞いてきたんだよ、ナルトから。」
「ウチんと…っていうとシカマル当たりか?」
「ああ。ナルトに相談されたらしいんだがな…。」

ちゃんは稀に、ナルトをツマミに晩酌する暴挙に出るらしい。
当然、酒の入ったちゃんの切れ味は数倍に跳ね上がり、ナルトは死の恐怖さえ感じたという。
それがある日、調子の悪かったちゃんは薬を飲み、その事を忘れて酒を呑んだというのだが、その結果

『なぁシカマル…オレさ、普通がどんだけ幸せか?初めて知ったってばよ…。』

ナルトにそう言わしめたという。

「……………………成る程な。」
「『なぁシカマル。ねーちゃんが呑む前に何でもいいから飲ませらんねーか?』って号泣したらしい。」
「ちゃんナルトに何やらかしたんだ一体…。」
「口は割らなかったらしい。が、想像つかねぇか?」
「なんとなく…つくようなつかないような寧ろ想像安易に出来すぎて嫌。」
「だろうな。多分…」

あのナルトが死の恐怖すら感じた暴挙だ。多分、一緒にお風呂を軽く超える愛情表現でもされたんだろう羨ましい。

「で?試した訳か。」
「でもこれで安心して誘えんだろ?今後。」
「そりゃそうかもしれないが…。」

オレは前回、299杯を超えた時点でちゃんが何杯呑んだかを数えるのを断念した。
それが、たった34杯目で呑むのを止めてくれた上に

『酔ったかも…しれないれす…。』

とか、何サービスですかこれは!?
そしてそれだけじゃない。
今、ちゃんは?というと。

『眠ひ…。』

そう呟いたと同時に、普段なら牙を剥いて威嚇する相手のオレの膝を枕にウトウトするという
信じられない状況にあった。ただ、オレの座ってる場所にもしアスマが座ってたとしたら
枕はアスマだったに違いない点が手に取るように判るのが気に入らないが。

「で?どうすんだ?」
「何が。」
「お嬢このまま寝かせとくつもりか?」
「それも有りかもな。」
「ちなみに、だ。この薬物混入状態での目覚めは常人の想像を遙かに超越してるらしい。」
「さ、ちゃん起きて帰ろうか!!!」
「眠ひ…も…ちょと…寝る…。」
「いやいやいやいや起きて帰ってそんで寝よう。」
「カカシ…お前…どんだけお嬢が怖いんだ?」

どんだけ…って聞かれてもね、オレだって怖いもんは怖いんだよ…。





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2009.04.06