芳しくも芳醇な香り。 本格的なコーヒーなんて、一体何時振りだろうか? 「はい、どうぞ。」 ニッコリ微笑み、コーヒーを淹れて下さった貴女は何処の女神様ですかっ!な、 愛理さん特製ブレンドコーヒーを前に、私は本気で涙が零れそうになりました。 お久しぶりです、ワタクシ永遠の17歳(だっけか?)は今、念願のミルクディッパーにて、 愛理さん特製ブレンドコーヒーをタダでご馳走になるというまさにご褒美に預かっている次第であります。 一姫二太郎三茄子もとい ───── いや全然もとい!じゃなくて。 青い太郎に紫太郎、黄色い太郎と遭遇し、精根尽き果て見も心もボロッボロになって、 未だ侑斗は行方知れずで次に遭遇するとしたらもう赤い太郎しか残って無いんだねこれで 打ち止めだよフィーバー終了しちゃうよ?でもなくて。 ともかく、普通の会話が全く成立しない三色太郎との悲喜交々が私に大ダメージを与え、 本気で何処かで癒されないと三途の川を背泳ぎしそうな悪寒がしてならなくて、 侑斗を探すついでに良太郎くんから頂いたコーヒーチケットを握り締め、 やっと ───── やっとこさミルクディッパーに辿り着いた訳なのです。 そして、邪気の全く無い愛理さんの無償且つ極上の笑顔に私の頬を伝う一筋の涙。 「あら…どうしたの?」 さらに、その優しい言葉にもう一筋涙が零れ、両方の目からダバダバ涙が溢れて止まらない私。 要するに、喫茶店のカウンター席にてコーヒー片手に号泣する危ない女に成り下がる不祥事を起こしてしまい。 「あうっ…っこっこここ…。」 「大丈夫?落ち着いて…ね?」 「うっ…うっうっうっ…。」 それでも、優しく私を慰めてくれる愛理さん。 ちなみに私にコーヒーチケットをくれた良太郎くんは現在配達に出掛けていてお留守。 「良ちゃんもうすぐ帰ってくると思うから、それまでには泣き止んでね?」 「あ゛い゛っ…。」 こんな怪しい女に対しても、こんなに優しく接してくれるなんて本っ当に愛理さんって素敵な人だ…って思ったら もう滝のように涙が溢れ出し、私一体どうしてしまったんだろうホントに。 「ただいまぁ………あっ…もっ…。」 「あら、おかえり良ちゃん。」 「姉さんただいまって…さん!?」 「お゛邪魔し゛でま゛ずぅ゛…ぅっ。」 と、そこに良太郎くん帰還。カウンターで号泣する私にドン引きしてるみたいでしたが。 今更あふれ出した涙が止められる筈もなく、居直り強盗が如く開き直った私は泣き続けたのです。 「どうかしたんですかっ!?」 それなのに何てイイ子なんだろう良太郎くんも。 イイ歳した女が訳も無く号泣するという普通だったら絶対関わりたくない場面に遭遇しているというのに、 愛理さん同様優しく接してくれるなんて。 侑斗なんか、いっつも我侭ばっかで椎茸食べてくれなくて、すぐ怒るし直ぐ殴るし…。 「あら…桜井君いらっしゃい。」 「え?侑斗…?」 「…………………。」 え?侑斗!? 赤い太郎じゃなくて?何で侑斗がっ…って、侑斗がここミルクディッパーに来るのは知っていたけれど、 何で今日来るんですか!?ってかテメェ今までどこほっつき歩いてやがった!? 「取り込み中みたいだから出直す…。」 って、やっぱり侑斗酷いっ! 愛理さんも良太郎くんも私に普通に接してくれたのに侑斗は私の様子を見た途端逃げ腰で後退りして 出直すって…出直すって…。 「すっ…ませっん、私っ帰りますっ…っぐっ…。」 人が一生懸命探して、バイトして探して探してバイトしながら散々な目に合ってるって言うのに、 全っ然心配もしてくれないし逃げ腰だし、もう侑斗なんか知らない! これから毎日椎茸エキス仕込んでやるんだからっ! と、私は全てがショックで店を逃げるように出ようと…………したのですが。 「や、そういう意味じゃなくて…そんな風に泣いてる女の人が街歩いたら危険だから…っその。」 「えっ…?」 「桜井君もしかして邪魔しちゃ悪いと思ってるんじゃないかしら。」 「侑斗は女の人には優しいんだよね…ホント邪魔なヤツ。」 良太郎くんのフォローらしき言葉の最後に小さく聞えた呟きは、幻聴…ですよね? 「俺は別にっ…。」 そ、それよりもです!侑斗が照れてプイッて…プイッて…嘘ぉぉぉっ!? 「あの…私もう大丈夫ですから、どっ…どうぞ。」 「さん大丈夫なんですかっ!?侑斗なんかに気、使わなくてもいいですよ?」 良太郎くん、実は黒属性な人なんでしょうか…。 言葉の片隅に感じるさり気ない悪意(?)は私の気のせい…ですよね? 「そうそう、桜井君。彼女…さんといって、良ちゃんのお友達なんですって。」 「姉さんっ!余計な事言わなくていいって!もう…恥ずかしいなぁ…。興味持たれたらどうすんだっつーの。」 「りょ…良太郎くん?」 「どうしたんですか?さん?」 語尾に常に聞える呟きとか実は黒属性だったりとかそういうのが帳消しになりそうな ほんわりはんなり微笑む良太郎くんの笑顔は眩しくて、何かもう全部どうでも良くなってきたりする 私は何て単純な生き物なんだろうか。 それに、最初はムカついたんですが4日振りに侑斗の無事な姿を見て安心したのも事実だし。 「あの…私、と申します。良太郎くんに親切にして頂いてまして…。」 「桜井…侑斗だ。」 私は、こうやって侑斗に自己紹介出来る日が来るとは思ってもいませんでした。 というか、モモちゃんに出逢う前に侑斗とバッタリは想定外だったというか。 「さん?」 「………えっ?」 「僕、さんが来てくれるのが今日だって判ってたら絶対店で待ってたのに…。」 ちょ、不意打ちはヤメテ! 愛理さんの笑顔とか侑斗のしおらしさとか、自分がこの世の全てを呪った(?)だとか全部吹き飛ばしてくれたのは 結局良太郎くんのすざましい愛らしさだったとか。 あれっそういや遭遇する筈だったモモちゃんは………?赤は出し惜しみだったり?-------------------- 2009.08.01 ← □ →