序.00


会社を辞めた。
理由は単純明快、単にその会社に居るのが嫌だったからだ。
当然、その次に就職する先は既に決まっている。だから、辞める事もできた。

けれど、新しい就職先での仕事は2ヶ月先からになる。
となると、その2ヶ月間はする事がない。

ならば、休みの2ヶ月は思う存分ダラダラ過ごしてやる!そう息巻いてダラダラしたものの、
結局そんなダラダラ生活も最初の1週間で飽きた。
じゃどうしようか?そんな事がきっかけだった。

好奇心、というよりは未知との遭遇?

今まで、一人で旅行などした経験は皆無に等しく、だから思い立った。
よし、○都へ行こう!そんな軽いノリ。
旅行会社を通すのがいいんじゃね?とツレは言ってくれたが。
ぶっちゃけその手続きが面倒だから旅行も面倒なんだよ!と、
元来の正確からくる”行き当たりバッタリ”ってヤツに習い、
行き先だけを決めて旅立つ事にした。










「ちょい行ってくるわ。」
「何処へやねん!」
「いわゆる一つの自分探しと云うべきか云わざるべきか…。」
「帰って来んでもええぞ…。」

つれないなぁ弟よ。
まぁ、姉を差し置いて先に嫁を貰った時点でつれないを通り越して非人道的な訳だが。
一応、唯一の家族である弟に旅立つ事を告げ、我が子(は産んだ事ないけど)に等しい飼い犬を、
家の合鍵と共に預けてアタシは旅立つ為の荷物と共に弟の家を出た。

うん、家は間違いなく出た…筈なのに。

はて?いつから弟の家の玄関は”どこ○もドア”になったんだ?
いやだなぁ、そういう大切な事はちゃんと言ってくれないと!つか言っとけよクソったれが。
帰ったら絶対シメる!覚えてやがれ!と、一人ごちながら。
取りあえずは目の前にある非現実的な現状から逃避行動に入る事からアタシは始めた。










「何じゃこれは…。」

あまりの出来事に、口調も悪くなるのは仕方ないとして。
アタシの弟は一体何処に家を建てた?
いや、アイツは家なんぞ建てちゃいねぇよ実家だよアタシが家を出たんだよ!

て こ と は つ ま り ?

アタシが出た玄関の扉の先にあるのは、嫌っていう程見覚えのある風景の筈で
むしろ見覚えのある風景じゃない今は非常にマズイ訳で。
木漏れ日も眩しい、緑すら眩しく見える森の中、アタシは一人佇んでいた。

「不思議すぎる…。」

不思議の三文字で片付けられるアタシもどうかと思うが。
そうでも思わなきゃやってられなくね?と、
舗装もされてないデコボコ道をキャリーケースを引きずり歩く。

「は〜っ…安モンにしといてよかったわ。」

高くて綺麗で汚したくないキャリーバックだったら凹む。
安モンだからこうして埃立つ道を引きずってもへこたれないけどー!

「あれか、値切ったからこうなったのか!?どうなんだ店員コノヤロウ!」

在庫だろ?安くしろよ!と強引に値切った為の呪いか?だからアタシは
今こんな目に逢ってんだろ?そうだよな?
と、ブツブツ言いながらも歩き続ける事十分弱。

アタシはようやく森を抜け……何処へ出たんだ……………?










何だっけ?ほらえーっと?太秦とか日光とかにある村?というか。
アトラクションが目玉なんですよ!的観光地にも似た場所にアタシは出た。
けれどそこに、アトラクションに間違いない!と言えるだけの決定的事項が存在しなかった。
むしろ、ここはアトラクションじゃなくてマジもんの街じゃね?と思える何かがあった。
俗に言う、生活感ってやつだろうか?
アトラクションにありがちな、作り物的な雰囲気はなく、そこには生活感が溢れていた。むしろダダ漏れ。
その上、こんな街並なんぞ見かけた事もない。
建物も人も街並も何もかも、アタシの知るアタシの記憶にある場所とは明らかに違う。

「面倒臭さMAXじゃね?マジで。」

つか忘れてた!携帯で弟に文句言うのが先だった…と携帯を取り出し弟に電話するも

「何故出やがらねぇあの野郎…。」

やっぱアイツの仕業なのか?だから怖くて出ないんだな?なら迷惑メールしてやろう、と液晶画面をふと見れば。

「アンテナどこだー…」

3本中3本とも萎えてるとか、ウチのトイレじゃないんだし。
振れば立つか?それとも扱くか…いや、下ネタに逃げてる場合じゃない。
仕方なく、あっちウロウロこっちウロウロ携帯片手に移動しまくるも、結局携帯の電波が元気を取り戻す事はなかった。

「あーーーーーーっもうイライラする…。」

どこかに腰を据え、煙草でも吸いながら真面目に考えてみるか。
多分、本当はそれを一番最初にやるべきだったんだろうなぁ。と、どこまでも安穏としたアタシですが。

よもや、想像を絶する状況に立っていたなどとは誰が想像しただろうか…。




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2008.08.11