本.13


「あ、すいませーんお茶くださいー。」

ちっ…出すの早いと思ったら熱いお茶出しやがったか。
ちったぁ気ぃ利かせて冷たい茶出せっつーの。

アタシは一気に全部吐き出して、目の前に座る三代目の言葉を待つ。
けれど、一向に口を開かない三代目。
果たして一体何を思っただろうか。

「反論をどうぞ。」
「………。」
「あ、そちらの狐さんも、反論があれば言ってくださって結構ですわよ?」
「………お前さ、」
「何…」
「何であのガキの為にそこまで言える?」
「はぁ?何アンタとうとうボケた訳?」
「儂にもその理由を聞かせてもらえんか?」

あれか、やっぱこの里の人間ってのは完全にどっかで間違えちまってんのか。

「あのさ、アタシはナルトに拾われたの、判る?」
「判っておる。」
「で、今一緒に暮らしてる訳。つまりは…」
「つまり、何が言いたい訳?」

ダメだコイツら。

「アタシにとって、あの子は家族だからに決まってんじゃん。」
「「………は?」」

おまけに、声揃えて、は?とくるか。そうかそうか。

「たった数ヶ月しか一緒に暮らしてないのに家族な訳?あのガキと?」
「問題あんの?あるなら言ってみろよ答えてやるぜ?」
「問題は……」
「そうじゃな、問題は……」
「ねぇだろ?どう感じるかは人それぞれなんだ。アタシがあの子をどう扱おうがそれこそアタシの勝手。」
「それとさっきの騒ぎは別じゃろうが!」
「ジジィやっぱアンタもボケたのね…、」
「儂はボケてなんぞおらんわっ!」
「大人と子供が家族になったら当然大人のアタシはあの子の親代わり、つまりあの子はアタシの子供みたいなもん。」

少なくとも、アタシは自分の子供を守る為なら何を犠牲にしても構わない。
実際、アタシはそうやって育てられてきたし、オカンが死んでからはそうやって弟を育ててきた。
この、見知らぬ里に放り出されて途方に暮れたアタシを拾ってくれたのがナルトで、
一緒に暮らす事になったあの子はアタシにとってはこの世界でたった一人の家族で。
まして、まだ守られるべき年頃の子供だというのなら。

「あのバカなババァ共はあの子を傷付けたんだ。だからアタシは容赦はしない。」
「だからと言ってじゃの?あれはやり過ぎじゃろうが!」
「だから、何でやり過ぎな訳?アンタ等おかしいんじゃないの!?」
「大体、出来もしない事やるって啖呵切ってる時点で…」
「何で出来もしないって決め付けてんの?アタシがやらないとでも?」
「やる、やらないじゃない、出来ないデショ?」
「あのさ?守るモンがある人間の、死ぬ気の本気ってのアンタ等見たんじゃねーの?」
「っそれは…」
「同じっしょ。アタシの死ぬ気の本気、見せて欲しいならやろうか?」
「もうよい。儂らの負けじゃ…」
「三代目っ!?」
「反論出来んかった時点で、儂らがコイツに敵う筈なかろう…。」
「しかし…」
「しかしもかかしもねーよバァ〜カ!」
「っこのガキ…っ!」

大体、このアタシに口で勝とうなんざ、百万年早いんだよ、ケッ。

「帰っていいー?晩御飯の準備しなきゃだしー」
「さっさと帰れば?」
「絶っ対ボコってやる…。」
「何?」
「べつにー。じゃ帰るー!ジジィまたなー!」

この里で見て、感じた不満を一気に解消できたのだけは幸い。
何か言いたい事言ったらスッキリしたわぁ…なんて考えながら、アタシはアカデミーを出て
ナルトが待つであろう家に向かう。
街の中、おそらくはもう噂は広まっているのだろう人々の目がアタシを遠巻きに眺めているが。
アタシは全然キニシナーイキニナラナーイ!
が、これでもう巨大な特製猫っ被りは使えねぇか。

「はぁ〜…っ。ま、今後は味で勝負だな。」

達者な口にも自信はあるが、料理の腕にも自信はある。
うん、まぁどうにかなるさ〜…と、呑気に歩いていた時だった。
アタシの歩く先、見知った顔がこちらに向かって歩いてきた。

「さん!?」
「あ…イルカ先生…どうも。」

ココで逢ったが百年目、じゃねぇが。
ついでだ、恨みはねぇけど一応イルカ先生にも釘刺しとこ。

「先生、ちょっとお話いいですか?」
「何か?」

微妙に怯えてる気配がある。
まぁ、あの180度人が変わった姿見りゃ当然か。
イルカ先生は、微妙な距離を保ちつつもアタシに付き合ってくれる。

「先生のご両親の事伺いました。(嘘だけど。)」
「っ!?」
「この際ですからハッキリ申し上げておきます。」
「何を…ですか?」
「アンタが九尾とやらを恨むのは勝手だ。けどそれとナルトは無関係。」
「判ってます…。」
「ナルトはアンタのこと、ホントに慕ってるからこそ言わせてもらうけど、もしアンタが…」
「オレが?」
「あの子をその事で傷付けるような事があったらアタシはアンタを許さない。」
「オレは別にっ…っそんな事は…」
「しない、とは言い切れないっしょ?アンタだって人間なんだから。」
「オレは教師です!生徒を傷付けるような…」
「人間って生物が一番信用ならないんですよ、先生。」
「オレは…」
「別に先生の事責めてる訳じゃないし。一応ね、釘刺しとこうと思って。」

イルカ先生がそういう事をするような人じゃないってのは判ってたけど、
本当に人間ってのはどこでどうなるかは判らない。
だからこそ、アタシはイルカ先生にだけは釘を刺しておきたかった。
ナルトが最も信頼する先生だからこそ。
が!話し終え、何気に視線をイルカ先生から外した時だった。

「そうですか…」
「そうなんですよ…。それじゃアタシこれで…って今の!?」

人気の無い場所だったから直ぐにそれが目に付いた。
チラリと見えたあの色は…

「ナ〜〜ル〜〜トォォォォォォっ!!」

あんのバカ!家に真っ直ぐ帰れっつったのにまだウロチョロしやがって!!

「ねーちゃ…ん…オレっその…」
「真っ直ぐ家に帰れっつっただろ!あ?その耳は飾りかっ!!」
「いいいいいいいいいい痛っ!!」

アタシはナルトの耳を思いっきり引っ張って、そのまま頬を抓ってさらに頭にガツンと一発。

「そ、それよりオレ!試験合格したってばよ!」
「は?」
「これからはオレ、下忍なんだって!」
「はぁ?」
「ねーちゃん信用してねーだろ…」
「うん。」
「イルカ先生っ!何とか言ってくれってばよ!」
「今回の試験で、ナルトは無事卒業する事になりました。」
「だからお祝いに先生がラーメン奢ってくれるんだってばよ!」
「そっか…なら…」

アタシは、イルカ先生に改めて向き直り頭を下げた。
さっきの事を詫びる意味ではもちろん無く、

「ありがとうございました、先生のご指導のお陰で…」
「いやっ!オレは何も…」
「ナルト、先生に迷惑掛けんじゃないよー?」
「ねーちゃんも一緒に行くってばよ!」
「アタシは遠慮しとく。先生と二人で行ってこい、な?但し、あんま遅くなるなよ!」
「じゃ、先生早く行くってばよ!」

多分、それはイルカ先生にも通じてる筈。
イルカ先生は、さっきのアタシのように、アタシに向かって頭を下げ、
ナルトに手を引かれて街の方へと消えて行った。

「さて…どうすっかな…」

アタシ一人なら晩御飯の支度は特に必要ない。歩きながら、
確か冷蔵庫に…と変更になった夕食メニューを考えていた時。

「猫っ被りは止めた訳ね…」
「………。」

後ろから聞こえてきた声は、ええもうお分かりですね。

ま た 貴 様 か !

狐面装着の、カカシが腕組みしてお立ちになられておりました…。





--------------------
2008.09.11