本.14


無視だ無視!
アタシはこれから帰って一人簡単な物をツマミに晩酌するんだ!
だからコイツに構ってる暇はねぇ!と、

「じゃ!」

すちゃっと手を挙げ、そして早足で家に向かう。
ヒタヒタヒタヒタ…
うん、明らかに追ってくる足音が聞こえてくる。
でも絶対振向いたりしない!
振向いたら最後、アイツは執拗に絡んでくるに違いないっ!
と、完全無視を決め込んで、とにかく早歩きで家に向かう。
珍しく、アタシに声を掛けてくる事のないカカシ。が、確かに後ろから付いて来る。

一体何がしたいんだコイツは。
さっぱり判らん、判る気もしなけりゃ判りたい気もねぇが。
と、考えながらもサクサク歩いたお陰であっという間に家に辿り着く。
ポケットから鍵を取り出し、鍵を開けて扉を開けて中に入って急いで扉閉めて

「ふぅ〜っ…」
「へぇ…随分綺麗になってるじゃない?」
「は?」
「部屋の中。」

いや、それは判ってる!毎日掃除してるしゴミも片付けて…じゃなくて。

「何でアンタが家の中にいんだよっ!」
「入ったから?」
「不法侵入じゃねぇか!」
「いいデショ?別に…」
「……。」

いい訳ねぇだろ!って言っても聞くようなタマじゃねぇのは判ってる。
つーか、今更マジで何用なんだよ全く。
呆れるアタシを他所に、カカシは勝手に室内を徘徊した挙句

「オレ、喉渇いてるんだよね…」
「知るかっ!」
「生温い水道水100%で我慢するよ?」

コイツ、あの最初の対応を未だ根に持ってんのか。

「はいどうぞ。淹れ立て水道水100%です遠慮なくどうぞ!」

シンク横に置いてあったコップにジャーっと水道捻って水入れて、
ガツンと音を鳴らしてテーブルに置いてやれば

「あっち向いててくんない?」
「…………。」

ああああああああああああああああああああもおおおおおおおおおおおおおお面倒くせえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
もーいい!もー限界っ!狐面のお陰でこんな対応しなきゃならんのならもういい!

「外せよその狐面!」
「何でお前に命令されて外さなきゃならないのさ。」
「じゃ来るな!」
「嫌 だ ね !」
「今すぐ外せさぁ外せさっさと外しやがれっ!」

むしろコイツがそこまで狐面に拘る意味が全然判らんわ。面倒臭くねぇのかコイツは!
外せ、嫌だ!の応酬を繰り返す事数分、それでも外そうとしない事に
アタシの箍が外れました。うん、やっちゃった。

「もうさ、外そうよそれ。アンタ…カカシでしょ?」
「お前…」
「面倒じゃんそれ。表情も見えないし、タダでさえ何考えててんのか判んないのに余計判らんわそれ。」
「そうじゃない!」
「じゃどれよ!あ…アンタまさか…」

実は、ホントは狐面欲しかったんだってのがバレた!?
だってさー、小猿連れた傾奇者の某XXが頭に付けてたんだよな、飾りに。
や、あれひょっとこだったっけか???????
よもや、アタシがそんな斜め上を逝った事を考えてる事など知る由もないカカシ。

「何時から…」
「逢ってすぐ?」
「何故黙ってた…」
「黙ってたのそっちじゃん。だから言いたくないんだろうなぁって黙ってたアタシってば親切!」
「何故気付いた?」
「っつーか気付くだろ普通…」
「普通は気付かない、だから…お前ホントに何者なんだ!?」

何者だ?と聞かれたら答えてあげ…はもういいか。

「アンタ気付いてなかったの?最初だけじゃん声変えてたの。」
「………ぇ?」

やっだー!この人素で気付いてなかったのか。
上忍として、不味いんじゃなかろうか?それは。

「アンタが声変えてたのって米俵のちょっと後まで!それ以降は普通だったけど。」
「冗談デショ?」
「や、ものっそホントだから。大体そのデショ?っての、カカシさんの口癖じゃん…。」
「……………。」
「意外と抜けてんのね、アンタ。」
「はぁ〜っ…オレとしたことが…。」

大きく溜息を付き、ついに狐面が外される時が来た。
ゴクリ、息を呑むアタシの視線はその面に隠された素顔に集中する筈はない。
お面、欲しいなぁ…。

「お前、ホント口だけじゃなくて性格も悪いわ。」
「お互い様っしょ?大体カカシさんの時は”ちゃん”とか呼んでたのそっちだしー。」
「っそれは…一応オレにだって事情ってもんが…」
「あ?何ぶつくさ言ってんの?」
「大体そういうお前だって”カカシさん”とか言ってたくせに…」
「アタシはいいの。」
「あっそう…。」
「で?」
「で?」
「何て呼べば?ナナシ?カカシ?それとも…カカシさん?」

したり顔で、ついでにニヤリと笑って見せれば一瞬だけ悔しそうな顔を見せたが。
まぁ、一筋縄でいく相手じゃないのはハナっから判ってる。

「そういうお前はどう呼ばれたい訳?」

逆に、アタシに聞き返してくるカカシは、さっきのアタシのようにしたり顔で。
だからアタシはキッパリと答えた。

「様とお呼び。」
「………。」

うん、ドン引き。
っつーか、コイツ何か勘違いしてんじゃねぇかな。

「あのさ、言っとくけど…」
「今更まだ何を言い出そうって?」
「アタシ、普段は別に口は悪くないし。普通は店で話してる感じに近いけど?」
「そんな嘘いらないから。」
「嘘じゃねぇし!!!」

やっぱり、というか案の定勘違いしてやがったか。
大体考えりゃ判るだろ普通は!普段からあの口調で話ししてたら疲れるっちゅーねん!

「アタシが口が悪くなるのは、アンタが散々煽ったからでしょーがっ!」
「オレ別に煽ってないけど?」
「そういう物言いが煽ってるっつーの!」
「っていうかオレ、腹減ったんだよね…」
「またいきなりだなヲイ。」
「どうせあのガキ、海野イルカと飯に行ったんデショ?何か食べさせてよ。」

見てやがったのかコイツ。
いやむしろ最初から晩飯狙いだったのかもしれん。
世の中そんなに甘くないのだよカカシ君。
ギブにはテイクが付き物だ、という事を身を持って知るがよい。

「そのお面、くれたら食べさせてあげるけど?」
「はい、どうぞ。」
「これはどうもありがとうござい…って随分簡単だなヲイ!」
「だって欲しいんデショ?あげるよ。」

やったー!これで傾奇者ゴッコができるぞー!って、何か違う…。
でもまぁ、欲しかったのは確かだし。(使い道その他は不明いやむしろ未定!?)
手渡された狐面は、ホント嫌っていう程見たもので。
何でこれがそんなに欲しかったのかなぁ?なんて思う程、手にしてみればごく普通の木彫りの面だった。
それなのに、やっぱりそれを手にして喜んでるアタシは確かにいる訳で、一応は人として言うべき事は言おう。
折角だから、お礼の言葉に頬を染めるっつーオプションを付けておいた。

「………ありがとカカシさん。」
「別に礼を言われる程のモンじゃない…。」





アタシの目線は狐面に釘付けだったから、気付かなかった。
カカシ、とは言わず
カカシさん、とアタシが言った事に、
プイと横を向いたカカシの頬が少しだけ朱に染まっていた事に。





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2008.09.11