本.15


特に何か変化があった訳じゃないが。
ナルトが無事アカデミーを卒業し、下忍となった日からそれまでの生活とは何かちょっと違う気がした。
何っつーか春じゃないけど春っぽい感じっつーか、新入生の季節です!みたいな?そんな気分。
額当てを付け、鏡の前でそれを何度も確認してるナルトの姿は…イイ!
可愛いなぁチクショウ!初々しさが目に染みるぜ!

「ナルト、そろそろ行かないと遅れるよ〜」
「わ!?じゃねーちゃん行ってくるってばよ!」
「気を付けてくんだぞー」
「判ってるってばよ!」

行動は全然変わってないってのに、やっぱりどこか変わった気がするナルト。
そんなナルトを見送り、アタシは当然やる事やって出勤する訳だが。
アタシもこの数日ですっかり様変わりしたっつーか、巨大な特製猫を捨てた分身軽になったっつーか。
通勤途中、開店準備をする八百屋のおばちゃんとの毎朝のやり取り。

『おはようございます。』
『おはようちゃん、今日も可愛らしいわねぇ…』

数日前まではこれだったんだが今や

「おはよございまーっす!」
「おはようちゃん、今日も元気ねぇ。」

こんな感じ。
うん、めっさ楽だ凄まじく楽だ。
誰に遠慮する事もなく、気を遣うでもなくアタシがアタシらしく振舞える事は本っ当にイイ!
足取りも軽く店に向かい、到着と同時に店内の窓を全部開けて風を入れ替えつつ掃除をして
簡単な仕込みを済ませて買い物へと向かう。
もう、買い物に出るために着替えも必要ないし、愛想も必要なくなった。

『あのっ…これお幾らですか?ほんの少し安くしていただけませんか?』
『仕方ねぇなぁ…可愛いお嬢ちゃんの頼みだからなぁ。』

そんな姑息な値切りも今や

『親父!これちょい傷付いてんちゃう?』
『目ざといなちゃんは…』
『ナンボにしてくれんの?』
『これでどうだ!?』
『アホか!高いわっ!これくらいにしてくれんかったらアッチで買うで?』
『ちっ…仕方ねぇな…明日もウチで買ってくれよ?』

と、まぁこんな感じな訳だが。
魚屋に至っては、ヒメコはもう鼻も引っ掛けるか!的視線もしくはスルーしやがるし。
それでも、値切りは忘れない。
相手がヒメコだろうが親父だろうがオバチャンだろうが、必ず値切り倒してそして購入。
お陰様でこの数日で、アタシは商店街から今までとは違う意味で恐れられる存在となり。
接客態度に至っては

『いらっしゃいませっ!何名様ですかぁ?』
『二人ですっ!』
『こちらへお座り下さいっ♪』

メイド喫茶風から

「らっしゃい!何人?」
「二人で…」
「そこらへんで適当に座ってー」
「はい…」

居酒屋風へとフルモデルチェンジを遂げた、いやむしろアタシは成した。
人の噂もなんとやら…っつーか、悪態よりも味と値段設定が勝った当店は、
アカデミーでの事など全く屁ともせず、問題もなくそれどころか

「ちゃん!明日暇だったら晩飯一緒に行かない?」
「んな暇ないー、残念!」
「ちっ…」

ウチの客はマニアが多いらしく、何故か今まで以上に気軽に声を掛けて来る奴が増えた。
もちろんそんな誘いなんぞ一刀両断で終わりだが。

そして、あの日あんな態度であんな風に釘を刺したイルカ先生も、
今まで以上の頻度でお昼を食べに来てくれるし、

「嬢ちゃんの本性がそれとはな…ったく騙されたもんだ。」
「騙されるとか言うなっつーの!アタシ騙してなんかないしー…」

アスマさんはアタシの変化を相当面白がってるっつーか、
他同様今まで以上に気さくになった。
当然、奴も何かを脱ぎ捨てたかのような(仮面か)態度な訳で。


「外見だけで判断するお前が悪いんじゃないの?」
「そういうお前こそ随分態度が違うじゃねぇか。」
「俺は別に今までと同じデショ?どう思う?」
「それを今ここでアタシに問うのか?アーン?」
「可愛くないね、ちゃんは…」
「うっわー…ちゃんだって…聞いた?何か嫌味っぽくね?」
「って呼びゃいいのにな、オレみたいによ…」
「呼び捨て?何それアスマお前何時の間にそんな関係になった訳よ?」
「っつーかアスマさんもカカシさんも何で開店時間過ぎてから来る訳?」

問題はそこだ。
上忍のクセに、今だこの二人はまかない狙いで閉店後に店に押し入ってくる。
お前等は強盗か!?と言いたいのは山々だがまかないでも通常料金を頂いている以上、
客は客である。

「それより、お前その腰にぶら下げてるの…何だ?」
「あ…これ?いいっしょ!気に入ってんだよね可愛くね?可愛いだろ???」
「どこが…」
「テカり具合?」
「っていうかその面…アレじゃねぇのか?」
「うん、多分アレだと思う。」
「ちゃん、アレって何か判って言ってんの?」
「や、ノリ?アレといえばアレ!コレといえばコレ!でいいじゃん…」

口調は変われど今までと変わりなく、くだらない雑談でまかない飯で昼食を済ませる
アスマさんとカカシさんとアタシ。
ちなみに、アスマさんに指摘された面ってのはアレだ。うんアレ。
やっぱ妙に相当気に入った狐面を、アタシは腰の辺りにぶら下げて歩いてる。

「そんなにそれが気に入ってるとは驚きだよ全く…」
「カカシさんよ、アンタが驚いてどうする!一番驚いてんのはこのアタシよ?」
「お前等、ホント仲良くなったよな…」
「「どこがっ!」」

本当に、言いたい事言って楽になって普段まで楽チン生活ってのは非常に良い。
人間、自然体でいられるのは本当に幸せですな!と、
この数日で手に入れた小さな幸せを噛締めるアタシ。
幸せと昼食を噛締め、食事を終えた二人からは当然キチンと料金を頂き、
店を出る二人を見送ってアタシは後片付けを終えて明日の簡単な仕込みを済ませてから家へと帰る。

そう、そこまではいつもと変わらない一連の流れ作業みたいな感じだったんだが。

その日、帰宅したナルトの様子がどこかおかしい事に気付いた。
いつもなら、何があっただとか色んな事を話してくれるナルトが妙に大人しいっつーか、ムスっとしてる?

「何かあった?」
「え?何かって何が?」

その上気も漫ろ?
ほほぅ…このアタシを前に気も漫ろだ?
いい度胸してんじゃねぇか。

「さぁ白状してもらおうか…少年。」
「ねーちゃん…怖いってばよ…包丁は置いてくれよっ!」
「忍者が包丁にビビってどーする!さぁ…何があったか吐けっ!」
「わああああああああああっ!!」

キラリ輝く包丁は、もちろん今晩のオカズのから揚げになる鳥のもも肉を切る為の道具であって、
拷問の為の脅し道具では決してない!(多分)
仕方なく包丁は手放し、引き掴んだナルトの身体をそのまま床に押さえ込み、
脇腹を擽りながらその日の出来事を聞き出せば

「なるほどな…そりゃ大変だなアハハハハハハハっ!」
「笑い事じゃないってばよ…」

納得いったが笑えた笑えた。
そういや確か、最初は三人一組でカカシが先生で…ってすっかり忘れてた。
確か、うちわ?うちは?サスケと、サクラちゃんって女の子とトリオ組んで…何だっけか。

「三人でギクシャクしてんだなぁ…」
「うん、何かサスケの奴すげームカつく奴でさ…」
「よし、仕方ないからアタシがどうにかしてやろうじゃあないか!」
「…ねーちゃん?」

可愛い子供達の間に、作業がスムーズになるような潤滑油をアタシが流してやるよ!

「あの…ねーちゃん…」
「何?どうかしたか?」
「どうにかして…って何するつもりだってばよ…笑ってる顔がすげー怖いってばよ…」
「何?何ゴチャゴチャ抜かしてやがる?」
「何でもないってばよ!」
「明日、昼飯ご馳走してやっから三人で店に来い。いいな?絶対に三人で来いよ?」
「でも嫌だって言うかもしんねぇし…」
「少々手荒なマネしても構わねぇから引きずってでも連れて来いよ?」
「死ぬ気で連れてくるってばよっ!!!!

さて、明日のランチは何にするかな〜っと。
このアタシが腕によりをかけて作る昼飯、一口でも残したらどうなるか、じゃなくて。
ガキの躾ってのは最初が肝心だからな、アタシが…フフフ。





--------------------
2008.09.19