本.16


やっぱりね?お子様にランチといえばアレしかねぇっしょ。

「ふんふ〜ん〜♪」

四角く切った紙にナルトの額当てにあった葉っぱの絵を描き、それを爪楊枝に貼り付けて旗を作る。
もちろん、今日のお昼にやってくるであろう三人の子供達の為に使用する為なんだが。

「随分楽しそうねぇ。一体何に使うのかしら?」
「飾りですよ〜飾り!」

ばーちゃんはアタシの作った旗の使用方法の見当がつかないのだろう、不思議そうに出来上がった旗を見てる。
これをオムライスの上に立て、オムライスを盛り上げるんだよアタシはっ!

子供達が周囲を気にせずにすむように、ちゃんと区切って個室風にした一角は
混雑するであろうお昼に向けて予約席にしてある。
今日のメインはお子様ランチ!
それに力を注ぐ為、昼のランチは簡単な丼モノに設定してある。
そう、つまり器に盛ればいいだけの、じーちゃんでも誰でも作れるランチにしておいた。

(アタシは三人前のお子様ランチに命を掛けるっ!)

あと小一時間程すれば開店時間。
アタシはお昼にやってくる子供達の事を思い浮かべつつ準備を始めた。





「らっしゃい!何名様?」
「1人です!」
「そこ空いてるからそこで〜」

開店時間と同時に流れ込んでくる客。
アタシはその客を空席へと案内しつつランチの用意をしていく。
もちろん客のランチではない、子供達のランチの。
入れ替わり立ち代り、入る客を次々に捌き、そろそろ来る頃だろうと
アタシはお子様ランチの用意に取り掛かった。
今日の為、大皿を3枚買ってきた。それをプレートに見立て、
オムライスにサラダ、エビフライにハンバーグを乗せ、後は旗を立てれば完成!という所で

「あのっ…」

女の子が一人、恐る恐る店内を覗き込んできた。
確かあの顔は見覚えがある。
ピンクの髪をした、サクラちゃんが確かあんな顔で…。

「もしかしてナルトと一緒に来た?」
「はい!」
「遠慮せず入っといで、っつかナルトは?」
「今来ます!」

先に一人来たのだろうか?
ったく女の子一人先に行かせるってどういう了見だ?
来たら一発殴ってやるか…と、サクラちゃんを座席へ通しお水を出す。

「サクラちゃんだっけ?ナルトがお世話になってます。」
「とととととっ…とんでもないですっ!」

っつーか何か変じゃねぇか?この怯えようは。
アイツ、何か余計な事吹き込んだんじゃねぇだろうな…と、店の入り口に目をやれば。

「来たか…。ナルト!こっち!!」
「ねーちゃんっ!」
「………。」

ナルトと、ナルトに腕をつかまれムスっとした顔の男の子が現れた。

「随分遅かったじゃない?女の子を先に行かせるとかなぁ…あ?」
「っ!!!!!」
「………。」
「で?そっちの子が…サスケだっけか?」
「…………。」
「ねーちゃ…」
「サスケだっけか?」
「………。」
「聞こえないか?お前がサスケか…って聞いてんだろ?」
「………そうだ。」
「聞こえねぇっつってんだろ!んだその態度はっ!」
「いっ!?」
「ねっ!?」
「わっ!?」

仔犬とガキの躾ってのは最初が肝心で。
アタシは有無を言わさずサスケの頭を拳で殴りつけた。
当然、アタシのその行動にナルトとサクラちゃん、そして本人であるサスケは驚きに目を見張る。

「で?なーまーえーは?」
「………うちはサスケ。」
「最初から言えば殴られずに済んだのになぁ…。」
「……………。」
「んじゃ今用意するからそこ座って待ってな。」

そして、ようやく自分の名をサスケが口にしたことでアタシは満足、ランチを持ってくるべく厨房へ戻る。
もちろん、その間に子供達が交わしていた会話の内容を知ることはない。




(だから言ったじゃねーかっ!)
(あれって冗談じゃなかったの!?)
(ねーちゃん怒ったら容赦ないってばよ…)
(もしかして私も怒られたりするの!?)
(女の子には…しないと…思う…)
(気をつければいいだけだ。)
(一番先に殴られてたくせに何言ってるってばよ!)
(ねぇサスケ君、痛かった?)
(…………………かなり。)
(めちゃくちゃ痛いんだってアレ!)





「お待たせ〜って何て顔してんのアンタ等。」
「なななななんでもないってばよ!!」
「いいいいいつもこんな顔ですっ!」
「別に…。」
「あっそ…。はい、これお昼のランチ。もちろんアタシのオゴリだから残すんじゃないわよ?」
「「「はいっ!」」」

コイツ等、人が居ない間に何か悪口でも言ってやがったな。
明らかにアタシを見る目に怯えが見て取れる。
まぁ、子供は大人が怒ると怖いって思ってる位が丁度イイし、好都合って奴か。

「うんめぇ!」
「おいしい〜♪」
「………。」

しかし、無駄口を叩かないってより無口過ぎるなサスケは。
食べてる時も無表情っつーか、そんな顔して飯喰っても美味くねぇだろ?と思った瞬間つい

「……………?」
「マズイか?それ…」
「そんな事は…」

口に頬張ってんのか頬張ってないのか解らない、微妙な状態のサスケの頬をつい、こう摘んだっつーか。

「ねーちゃん…?何してるってばよ?」
「いや、ほら何となくつい?」
「つい、で人の頬を摘むのか?アンタは。」
「うん、アタシはそういう事をしても許されるから。」
「………判った。」

あら?随分素直な反応じゃないこれ?
さっきまでとは違う、妙に素直な態度にアタシの中の悪魔が囁いた。

「そいやさ、明日休みだっけ?」
「休みじゃないと思います…」
「ふ〜ん…。で、サスケ、アンタって…誰と住んでんの?」
「一人だ…。」
「へぇ…じゃあ丁度いいわ、今日ウチに泊まりに来るように。」
「は?」
「ちょ!ねーちゃんいきなり何言い出すってばよ!」
「別に問題ないじゃん。サクラちゃんも来る?」
「私は遠慮しますっ!!!!!!」
「ならサスケは本日はお泊り決定で。」
「何でオレがっ!?」
「来なかったら迎えに行くから。いい?ナルトと一緒に帰ってくるように、以上!」

反抗するならやってみろ、と一応言葉を待つが。
諦めたように溜息をつき、頷いたサスケ。
どうにもなぁ、このサスケってのにも気になる事があったんだよなぁアタシは。
適当にしか読んでなかったから全然気にもしてなかったんだが。
ナルトがずっと一人暮らししてるのはやたら全面に押し出されてたから知ってたけど、
そういやこのサスケってのはどうなんだろう?って。
確か兄貴が家族を…ってことは、やっぱサスケもナルトと同じで一人じゃねーの?って事に、
アタシはつい昨日気が付いた。

「デザート持ってくるわ。」

まぁ夜にでも、ゆっくり話せばいいか…と。
そろそろ皿から食い物が減った頃を見計らい、アタシはデザートのプリンを取りに再び厨房に戻る。
これまた当然、そのアタシが中座した間に子供達が何を話していたか?知る由もない。





(何なんだアイツは!?)
(文句あんなら本人に言ってくれよなっ!)
(くっ……)
(黙ってたら綺麗なお姉さんなのに…凶暴だよね…)
(凶暴って…サクラちゃん…もしそれ言った事バレたら…っ!)
(えっ!?やだ絶対言わないでよっ!!)





「はい、これデザート。甘くて美味しいから遠慮なくどうぞ。」

時間が経つにつれ、子供達が大人しくなっていく様はぶっちゃけおもしろい。
別にアタシは子供達を従わせようとしてる訳じゃないんだが。
こうも反応してくれるとつい余計苛めたくなるというか。

「そうそう、もし何ならいつでもお昼食べにおいで?アンタ達だったらご馳走してあげるから。」
「ほんとにいいんですか?」
「構わないよ?ただ混んでたら座れないかもしれんが。来るなら空いてそうな時選んで来るといいよ。」
「来る来る!オレ絶対また来るってばよ!」
「………オレは遠慮する。」
「え?何聞こえなかったからもう一度言ってごらん?」
「………また来る…。」
「よろしい。」
「じゃアタシ他のお客さんの片付けしなきゃなんないから、食べたらゆっくりしてから戻りなよ?」
「判りました!ご馳走様でしたお姉さん!」
「あとサスケ、さっきの事忘れないようにね?アタシ待ってるから。」
「………判った。」
「ナルトも判ってんな?もし逃したらどうなるか?」
「引きずってでも連れて帰るってばよ!!!!!!」

気を引き締めてなきゃおもしろすぎて吹き出しそうになる。
いやマジ反応がお約束すぎてヤバイ。
やっぱり子供ってのは可愛いなぁ、うんマジで。

アタシは帰宅した後のお楽しみに胸を躍らせながら、
いつもより3倍は手際よく後片付けを済ませて家へ帰り、
戻ってくる子供達の為に腕によりをかけて夕飯の支度に取り掛かるのだが。

今日は何故かあの二人のまかない強盗が顔を出さなかった不思議。





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2008.09.20