本.17


いやいやホント子供ってのは素直すぎて可愛い。
どんなに片意地張ってようが何しようが、簡単に反応してくれるっつーか。
まぁ?アタシの底意地が悪いだけかもしんないけど、ともかく。
やたら無口で愛想のない印象のサスケがああも反応してくれるのがオバチャン、可愛くて仕方ないヨ!!

そんな事を考えつつ、一人ほくそ笑みながら帰ってくるであろう二人の子供の為に頑張るアタシ。
風呂を沸かし、寝場所の用意をしてから晩御飯の用意に取り掛かる。
本日の夕食のメニューは、クリームシチューにしてみた。
このクソ熱くなる時期にシチューってのはどうなんだ?ってか。
いいじゃないかだってアタシが食べたかったんだし。
野菜摂取の少なそうな子供の為、食べやすい大きさにした野菜を
じっくりコトコト煮込んだんだからいいじゃないか!
さらに!野菜サラダも用意して、御飯よりパンのがよさげ?と、パンまで焼くアタシってばもう母親だね!!
ちなみに、オーブンなんて素敵なものはないから炊飯器で焼いてみた。
焼き方が知りたいならググれ、かならずヒットするから。(誰に言ってんだアタシは…)

とまぁ鼻歌交じりにそんな事をしていると、外から声が聞こえてきた。
入れ入らない帰る帰さないと、奴等の声が。

(ほほぉ〜…)

この期に及んで帰るとな?
その瞬間、アタシの中の小悪魔が囁いたのは当然で。
外でゴチャゴチャやってるらしい奴等に気付かれないようそぉ〜っと玄関ドアに歩み寄り、
ドアノブを捻った事を悟られないようこっそり捻って

「何やってんだ?あ?」
「「っ!?」」

バンッっとドア開けてそこにいる二人をしたり顔で見下ろすアタシ。
その、突然の登場に当然二人は腰を抜かす程驚いて目を真ん丸にしてアタシを見上げる。
そう、この素直な反応がアタシにとってはツボなのだ。たまらなく萌える。

「で?」
「は?」
「え?」

が、そこまではよかった。
あまりに驚いたんだろう、ナルトですら忘れちまってんのかバカみたいに口開けたまんまで。
オイオイ、同居するようになって直ぐ教えた事あんだろうがっ!
手を腰にやり、それを待つアタシに、待つ言葉が来る事はなく。

「ナルト、何呆けてんだお前。」
「いやねーちゃ…」
「昨日まではちゃんと出来てただろうがっ!つーか何で直ぐ忘れんだお前はっ!」
「い゛ででででっ…さっ…サスケっ助けろってばよっ!!」
「なっ!?何でオレが…」
「帰ってきたら、忘れず言えって教えただろうが!」
「あ…」
「何だ…?」
「たっ……」

耳引っ張り上げてシメねぇと思い出せないっつーのはあれか?痛みが足りない証拠なのか?
それでも、思い出して言えるんだから許してやるが。

「ただいまねーちゃん!」

アタシは、ナルトと同居した際一番最初にそれを教えた。
この世界にいる以上、それをナルトが知らないというのなら
アタシが教えるべきだと勝手に解釈して、アタシは実行してそれを教えた。
いってきます・ただいま・おはよう・おやすみ
家族として、一緒に住む以上はそれを口にする事が常識であるように、そう思ってアタシはナルトにそれを教えた。
がっ!この鳥頭はついうっかりでそれを忘れる。
そして今日のように忘れた瞬間玄関先にてアタシの逆鱗に触れるんだが。

「おかえりナルト。で、サスケは?」
「何でオレまで!?」
「サスケ?」
「だから何でオレまで…」
「サースーケーっ?」
「たっ…」

その被害がサスケにまで及んだって訳じゃない。
アタシからすりゃ、サスケもナルトも同じだった。
この家にアタシが存在する以上、そしてこの家にサスケが来るというならば、
アタシが言わせずして誰がやる?
せめて、この家に来る時位はそういう事が普通で常識であるって事を教えてやりたくて、
アタシは心を鬼にしてサスケに迫った。
言っておくが、これはサスケの為であって決してアタシの為じゃない!(嘘臭ぇか…)

「いいか?出かける時は”行ってきます”、帰ってきたら”ただいま”っつーのは常識なんだ。」
「それは…自分の家だからだろ…。」
「そうだな、自分の家だから言うべきかもしんねぇな。でもな?」
「この里で、ナルトは一人っきり。そしてアンタも一人っきり。」
「っ!?」
「で、アタシも一人っきりな訳。だからいいんじゃね?ここ来る時位、そういう言葉口にしても。」
「どんな屁理屈だっ!」
「アンタ、このアタシに逆らうの?」
「いや…それは…っその…」
「サスケ…逆らわない方がいいってばよ…」
「っ………た……だい…まっ……」
「おかえりサスケ。」

やれば出来るじゃねぇか。っつーかたった一言、その言葉を発するのにそれほど力が必要なのか?
そう思いたくなる程に、サスケは力んでた。
その姿がさっきまで感じてた、可愛さってより…あれだ。
生後数週間で貰ってきてこの手で育てたウチの飼い犬ヘムヘム(仮名:♀14歳)に対する愛情に似てて。

ただいま

その一言を発したっきり俯いたサスケの頭をついいつもナルトにするような感じでガシガシと撫で回した。
そして、アタシはもう一度言ったのだった。

「おかえり、サスケ…」





「よし、洗濯もしなきゃなんねぇし先にお風呂入っちまうか!」
「了解っ!サスケ、風呂だ風呂!」
「なっ!?何でオレが一緒にお前と入らなきゃならないんだっ!」
「「ガス代節約の為。」」
「そういう事だけ口を揃えるなっ!!」

玄関先での一悶着の後、待ち受けていたのは第二段。
ただ一緒に風呂に入るって事を何故に頑なに拒むのか?訳わからん。
実は女の子でしたー!ってならともかく!ナルトもサスケも男なんだしー。

「ともかく、さっさとお入りっ!」

つべこべ言ってたら風呂が冷めっちまうわっ!

「「………。」」

仕方ない、不本意だか仕方なく。といった表情を隠そうともせず、
サスケもしぶしぶながらもどうにかナルトの後について風呂へと消えた。
そう、サスケは知らない。この後に起きる事を…。





(なっ…なぁサスケ…。)
(何だ…。)
(最初に…謝っとくってばよ…)
(何にだっ!?それを言わないと判らないだろうがっ!)
(直ぐに判るってばよ…)






「ちゃんと温まってるか〜」
「温まってるってばよ!」
「な…な…な…何で入ってくるんだっ!?」
「「ガス代節約の為。」」

風呂場で一人絶叫するサスケを尻目に、アタシはいつものように風呂に入る。

「じゃナルトからおいで〜…」

そして、いつもの通りナルトを上がらせ頭を洗う作業に入る。
そう、アタシはいつもナルトと一緒に風呂に入ってたりする。
だってガス代もったいねーし。
基本、アタシは家族相手なら平気で一緒に風呂に入れる。
それは、アタシと弟であったり、死んだオカンと弟でもあったり。
もはやそれはアタシにとって当たり前であり日常であり、やっぱ風呂場での会話とかって結構重要な訳で。
初めての時のナルトも相当呆然っつーか愕然としてたが、
案の定サスケもその様子を呆然っつーか愕然と見てる。
もはや、生きる屍というべきか…。

「まさか…いつも…」
「だってねーちゃんガス代勿体無いっていうし仕方ないってばよ?」
「そういう問題かっ!仮にも…」
「いやだわサスケちゃん、照れてるの?」
「!!!!!」
「大体お前は女のクセに…」
「あ?何だって???」
「いや…っそのつい…」
「アンタ、アタシの名前忘れたの?」
「オレがそんな馬鹿に見えるのか!?」
「アンタ、一度もアタシの名前呼んでないんだけど?」

手はナルトの頭を洗浄中、口はサスケ相手に…と忙しいアタシ。
サスケってのはホント照れ屋さんなんだからっ!
と冷やかせば、烈火の如く怒るサスケ。

「名前ある相手にオイオマエ呼ばわりは人としてどうかと思うんだよ。」
「そんな事言われなくても…っ!」
「今すぐとは言わねーよ。慣れりゃいい事だしな…」
「っ…。」
「よっし、ナルト終了。次サスケなー!」
「遠慮するっ!」
「遠慮はいらん!」

ギャーギャーワーワー喚くサスケをナルトと共謀して黙らせ、強引に洗濯に入る。
何照れてんだかなコイツは。
女の身体なんざ、自分と大して変わるもんでもなし、アレがあってなくて別のがあって無くての違いじゃねーか。

「んじゃ交代。アタシ湯船に浸かるから、アンタ達身体洗って!」
「判ったってばよ!ほらサスケ!もたもたしてたら身体まで洗われるぞ!?」
「先に洗わせろっ!!」
「アンタ等面白すぎるわ…」

半ば戦場と化した風呂場でのそれ。
通常より少し長めの入浴になったが、無事三人で風呂から上がる事が出来た。
若干サスケがのぼせ気味なのは、慣れてないって事で。

そしてそのままやっぱりワーワーギャーギャー騒ぎながら夕食を済ませ、あっという間に時間は過ぎて。

いつも寝てるのとは別の部屋に、三つ布団を並べて敷いて、三人で川の字になって布団に入った。
ちなみに、真ん中がサスケなのは深夜逃げ出さない為の対策では決してない。

あっという間に眠りに付いたナルトとは違い、
枕が替わると寝れないタチなのか、布団の中でゴソゴソしてるサスケに気付いたのは
布団に入ってから随分時間が経った頃だろうか。

まぁ、今までずっと一人で過ごしてた分、他人の存在だとか体温だとか、
慣れないのは仕方ねぇっつーか仕方ないのかもしんないが。
ナルトも最初はそうだった。
夜遅くまで寝付けず、アタシという存在を酷く意識してたナルト。
でもそれも数日の事で、数日経ってからは逆にアタシの存在を確かめるように、
突然消えてしまわないだろうか?そんな目で夜中にアタシを見てたのを、アタシは知ってる。

多分、今のサスケは出逢って間もない頃のナルトと同じで。
アタシはそれを見て見ぬフリをし、一人布団を抜け出して台所へ向かった。
眠れない子供には一番イイ飲み物を用意する為に。





暖めすぎたミルクが丁度飲み頃になった頃、
やっぱりっつーか案の定、サスケが台所へ顔を出した。
何かを聞きたそうな、けどそれを口にするのを躊躇ってるような表情で、
こちらへ近付く事もなく立ち竦んでる。

「そこ座ってこれ飲みな。」

それでも、少しは素直になろうとしてるのか?アタシの言葉に無言のままではあるけど従い、
椅子に座ってカップを手に取る。

「何か聞きたい事あんじゃねーの?」
「何で判る…」
「その面見りゃ判るっての!」

他人と距離を置く事には慣れてても、他人との距離を縮める事が苦手なんだろう。
本当に、ナルトとサスケは似てると思った。
不器用な所も、本当は素直で優しい所も。
そんな子供が居る事を知って、それを見過ごす事ができるこの里の馬鹿な大人ってのは
本当に馬鹿っつーか救えねぇっつーか。
その、馬鹿共がやらないんならアタシがやる。
馬鹿な野郎共が、後にやればよかったと後悔するように、
アタシが子供達を守ってみせる…ってのはちと恰好が良過ぎるか。

「ずっと一人だったからってのは判る。今更変えろってのも無理っつーのも判るけどな?」
「………。」
「まぁ、アタシも所詮は他人だし?もともとこの里の人間でもねーし。」

アタシの台詞、返事は無いけど黙って聞いてるのは判った。
カップを手にしたまま、俯いてはいるけどアタシの言葉に耳を傾けてるサスケ。

「ちょっと位肩の力抜いてもバチ当らねぇと思うんだよアタシはさ…」

頑なな事が悪い訳じゃない。
背負ってる物だとか、それをアタシや他人が持ってやる事も出来ない。
けれどその代わり、少しだけなら出来る事がある。

「アンタがさ?どんなに強かろうが、所詮はガキって事だ。だから…」
「でもオレは…やらなきゃならない事があるんだっ!」
「やりゃいいじゃねーの?」
「それが復讐だったとしてもかっ!」
「復讐?上等じゃねーの。」
「それが…っ身内だったとしても言い切れるのか…?」
「身内だろうが何だろうが、アンタが復讐したいっつーならすりゃいいんじゃね?憎いんだろ?」
「アイツは…父も母も殺した…その日からオレは…っ…」
「まぁ復讐したところでアンタの親父もお袋も帰って来ねぇけどな。」
「そんな事判ってる!」
「でも復讐しなきゃ気が済まないっつーんならやればいいんじゃね?」
「人事だから簡単に言える…」
「ヲィヲィ…どっちだよ!アンタは復讐したいの?止めて欲しいのどっちな訳??」
「オレは……」

ものっそ苛め倒してる気分になってきた。
二人掛けにはちょっと広い、三人で掛けるには多少狭い購入したばかりのソファ。
アタシはそこに、カップを持たせたままサスケを座らせ隣に腰を下ろした。
少し沈んだソファに身を預けるように、サスケと並んで座るアタシ。

「まぁさ、アレだ。タマに気を抜く場所がありゃいいんじゃね?と思ってなぁ…」

復讐したい程憎む事がどれ程なのか、平和で温い生活してたアタシに想像つく筈はない。
ただ、それを感じてるのがまだ親に守られるべき歳の子供って事が悲しいんじゃねぇかと思う。

「家族ごっこで肩の力抜くのも必要ってこった。ナルトはアンタの友達だろ?」
「アイツは友達なんかじゃない…オレに友達は必要ない…。」
「じゃ、アタシが友達でいいんじゃね?アタシは多分…ずっとここにいる…」
「オレにそんなものは必要ないっ!」
「もしもさ?アンタがこの里から出る事になってもアタシはずっとここにいる。」
「必要ないと言ってる!」
「この里に帰りたくなくても、アタシんトコに来ればいい。アタシがアンタの帰る場所になってやるから。」
「オレにはっ…」
「ナルトもアンタも、里が嫌になったなら出てきゃいい。その代わりアタシがいる場所を帰る場所にしとけ?」
「オレは…っ…」
「アタシはちゃんと待っててやっから。ここに居なくても、必ずどっかでアンタ達の事待っててやっから。」
「……っ…」

サスケが返事をする事はなかった。
でも、アタシは見逃さない。
サスケが、アタシの言葉に小さく頷いたのは錯覚でも幻覚でもない。
これでサスケの気負いが多少紛れる事を祈りつつ、アタシはサスケを布団に押し込んだ。






「ねーちゃん、行ってくるってばよ!」
「…………行って…くる………」
「気をつけてけよ?あとサスケ…いつでも顔出せよ?あんま来なかったら特攻すっからな?」
「…………判った。」

ささやかな野望。
アタシのそれは、一応叶ったという事で。

拝啓、遠い世界にいる愚弟殿。
君の姉は異世界にて小さな子供を守るとなった…かもしれん。敬具





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2008.09.29