本.58


ナルトとサスケに手伝ってもらって二階の住居部分にあった物置を片付る最中、

「なぁねーちゃん。」
「何、どーした?」
「ここ片付けてどうすんだ?」
「…………犬小屋だろ。」

事情を察知したらしいサスケの口からキーツい一言が飛び出した。

「犬扱いなのか…。」
「犬に失礼かもな。」
「犬?犬飼うのか!?」

その上、うん何ていうか近くて遠いっていうか肯定も否定も出来ないっつぅか…とうっかり呟いたのを聞かれ、
勘違いしたナルトが至極当然の疑問を口にする。

「けど犬小屋って普通外にあるんじゃねぇのか?」
「無駄に大きい犬だからな…。」
「番犬って外に居てこそ番犬だろ?」

そして、すばらしいタイミングで現れたのは勿論その犬 ────────── じゃなくて。

「……………。」
「……………。」
「カカシ先生今日は少し早くないか?」
「思いのほか任務が簡単で…って三人で何やってんだ?」

カカシの野郎が帰ってきやがった。

「何か知らないけど犬飼うって言ってた。」
「え?犬………?」
「いや、犬とは言ってないけど…。」
「似たようなもんだろ…。」

そして物置と化した部屋を片付けるアタシ達に疑問符を浮かべ、ナルトの言葉に更に疑問を浮かべ、
微妙に否定するアタシと吐いて捨てるようなサスケの言葉に微妙な表情を浮かべ

───── 察したな………。

多分、状況と発言で現状把握に至ったんだろうものっそ微妙な表情が ────────── 何でそんなイイ笑顔に変わるんだ意味判らん。

「残念だったなサスケ。」
「フン。」
「なぁねーちゃん、犬じゃないなら何飼うんだ?」
「いや、だから飼うんじゃなくて…。」
「何か悪いね〜オレの為に部屋片付けてもらって。」
「え?えっ?それどういう意味だってばよ!」

しかもそのイイ笑顔が無駄に挑戦的っつぅか?嫌味にも似た笑顔な上にそれをサスケ限定で向けてるし?

「オレは………。」
「サスケ?」
「オレは認めない!こんな野獣と同居なんか認められるかっ!」
「同居?なぁ一体何の話ししてんだ?」
「姑息なマネしやがって…。」
「随分な言われようだなぁ。」
「サスケ…オレにも判るように説明してくれって。」
「オレとお前の許可無しにこの家に上がりこんだんだ。」
「それって…今と何が違うんだ?」

確かに。
っていうかアタシが知らなかったのに何でアンタがそんな事細かに知ってんだ!?
って突っ込みたくなる程、詳しく丁寧な説明を流れるような口調でナルトにするサスケ。
やっぱり何も知らなかったのはアタシだけだったって事かチキショウ。

「ねーちゃん…カカシ先生と結婚すんのか!?」
「ちょ!何でいきなりそこに行き着くんだよっ!」
「だってそうだろ!だから同居すんだろ!」
「そうじゃなくて、今までとそう変わんないだろ?」
「「全然違う!」」

っていうか意外だった。
露骨な態度を示したカカシの野郎に対して、アタシは確かに拒絶反応示して二人に助けてもらって対峙したけど。
それでもここまで反対するとはぶっちゃけ思ってなかった。
ふ〜ん、あっそう。別にいいんじゃね?的な態度でこれまで通りに何ら変わりなく…って感じだと思ってた。
それがこんなにムキになって反対するって事は…つまり?

「アンタ達の気持ちは判った。アタシが悪かった…けどナルトかサスケか?って言われてもアタシ選べない…。」
「「違うし!!!!」」
「え〜…違うの〜…?」

判ってたけどそんなキッパリハッキリ否定しなくても良くね?

「オレはソイツの勝ち誇った顔が気に入らない。」
「オレだってカカシ先生がエラそうな顔してんの気に入らないってばよ!」
「ハハハ、オレがここに時々居候じゃなくて完全同居になったら明らかにオレが頂上だもんなぁ。」
「その顔が気に入らないって言ってるんだ!」
「すっげぇ腹立つ…。」

それどころか、まるっきしサル山のボス猿位置狙いじゃねーかそれ!
アタシを間に置いてどうこうとかじゃなくて、オスとしての優劣競い合ってんだけじゃねーか!
アタシを取られたくない!とか嫉妬っぽい素振り見せてくれるなら可愛げもあるってのにアタシそっちのけで盛り上がりやがって。

「要するにお前ら三人ともこのアタシを差し置いてトップに上り詰めたい…と?」
「ひっ!?ねーちゃ…。」
「ナルト。この家で一番エライのは誰?」
「ねーちゃんです…。」
「サスケ。この家で一番強いのは誰?」
「………。」
「カカシ先生。この家の家主は?」
「っちゃん…です。」
「つまり、この家のボスは誰が何と言おうとアタシ…で間違ってねぇよな?」
「「「ハイ………。」」」
「だったらグダグダ抜かして良い訳ねぇよなぁ?」
「「「その通りです…。」」」

無償に腹立ってきたのも事実。
アタシに勝とうなんざ百万年早いんだよ一昨日きやがれフンっ!と頭のどっかで考えたのも事実。
けど、そうじゃないアタシもいる。

「まぁ…いいけどね。」
「………?」
「サスケはあんまし自己主張しなかったしなぁ。」
「っそれは…。」
「我侭も言わないし?遠慮ばっかだし。言いたい事言えるようになったのはアタシとしては嬉しい。」
「…………。」

けど何か違うちょっと違う。
何か悔しい何で!?

「サスケ…アンタまさか…とは思うけど。」
「何だ…?」

いやいやいくらなんでもそんな事ぁ無いと思うけど。

「張り合ってるのって実はアタシに?って事ねぇよな?」
「…………は?」
「カカシ先生に構って欲しくてやってる…とか?」

もしそうだったらおねーちゃん超悲しい!
そりゃサスケがそういう嗜好の持ち主だったとしても全然構わないし?
カカシの野郎がイイっていうなら全然応援するけどアタシの可愛いサスケが毒牙に掛かるかと思うとムカっ腹がそそり立つわ。

「そうなのかサスケ!?」
「悪い、オレはさすがにサスケをそういう目では見れない…。」
「フザケんなっ!!!!!!!!!!!!!」
「全力で否定するって事はアタシの勘違いか〜ならいいか。」
「全然良くないっ!何でそんな勘違いを…っ!!!」
「だってサスケってばムキになるしぃ?つい?」
「つい、でそんな疑い掛けられてたまるかっ!」
「じゃあカカシ先生とアタシとどっちが好き?」
「そんなのに決まっ………。」
「聞いた!?ちょっとナルト!今の聞いた!?」
「っ聞いた!聞いたからねーちゃ…っ苦しいって!」
「サスケー!!!!」
「!?」
「こんな腹の真っ黒な野郎よりアタシの方が全然イイに決まってるよねっ!ねっ!」
「何かねーちゃん人が変わっ…。」
「人間嬉しいとうっかり人が変わるもんだ。ってちゃんサスケの首絞まってる!白目剥いてるから止めろって!」
「愛いやつめえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ねーちゃん!サスケが泡吹いてるってばよ!!!!」
「気にしない気にしない〜。」

あんまり自分の思いを口にしたりしないお子様は自己主張もあんまりなくてどっか遠慮してるっつぅかすぐ距離置こうとする。
そんなサスケが勢い余って…とはいえこんな風にハッキリと態度を見せてくれた事はアタシ的にすっげぇ嬉しい事だった。
棚ボタで得た感は拭えなくとも、それでも嬉しいもんは嬉しい。
だからつい制止を振り切って力任せにサスケを抱き締め(主に首)その結果、
サスケが失神する不具合が起きたのはまぁ仕方ないとして。
週に何度かの居候が完全に同居という形で居座る事は
結局うやむやで落ち着いたんだけど ──────────────────── 新たな嵐は直ぐそこまで近付いていた。

いつかそんな事が起きるんじゃないか?と危惧していた事が起き、
その直後、誰もが”やっぱりか!”と納得するような何とも奇怪?な嵐が直ぐそこに。





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2010.09.06(08.28)