本.57


「ハメやがったなねーさんっ!!」

周りの制止を振り切りアタシはねーさんの執務室へ強引に押し入った ────────── と同時に思い切り叫んだ。
けれど部屋の奥、椅子に踏ん反り返ってる綱手ねーさんはアタシの抗議など何処吹く風。

「、いきなり部屋に押し入って人聞きの悪い事を言うんじゃないよ。」
「だってそうだろ!ある事ない事言って回ってんじゃねぇか!」
「一体何の事だい?心当たりは無いけどねぇ…。」
「っちきしょう…っ!」

アタシの抗議を軽く聞き流し、それどころか”言いたい事はそれだけかい?フフン”ってな表情でアタシを一瞥し

「言ってみな。一体何があったんだ?」
「あ、あ、あ、あたしに言えって!?じょっ冗談じゃねぇよっ!」
「口に出すのも恥ずかしい事があったのかい?」
「べべべべべっ別に恥ずかしくねぇ…けどっ!」

剰えアタシの口からアタシが衝撃(大打撃)を受けた事を言わそうとしやがった。
っていうか八百屋のおばちゃんハッキリ『綱手様が嬉しそうに触れ回っててねぇ…やっと安心できるって。』って言ってたじゃねぇか!

「八百屋のおばちゃんが言ってたんだよ!商店街で知らない人は居ないって!」
「八百屋…商店街ねぇ…。」
「しらばっくれやがって…!」
「だから何を怒ってんだいお前は。」
「ある事ない事言ったから怒ってんだろ!」
「だから何がどうなのか言わなきゃ判らないだろ。」

綱手ねーさんは何が何でもアタシの口から聞いてきた事を言わせたいのか頑として認めようとしない。
ああそうか判ったよそこまで言うなら言ってやらぁ!
って八百屋のおばちゃんから聞いてきた事を勢いだけに任せて口早にぶっちゃけたら

「何だいその事かい。確かに商店街でそんな話したねぇ。」

恐ろしくアッサリ認めやがっただったら何でここまで引っ張ったんだオイ。
と、それはともかくだ。
何であんな根も葉もない事を言って回ったのか?を問いただし訂正して頂かなければ明日からの買出しが困難になる。

「何であんな事触れ回ってくれたんだよったく…。」
「何で…って事実だろ?」
「全っ然事実じゃねぇし!」

アタシは綱手ねーさんに認めてもらって訂正してもらいさえすればいい ────────── と此処に来た筈が。

「、一度キチンと話しをしようと思ってたんだが…いい機会だ。」

………何か雲行きが怪しくなってきた。

「綱手ねーさん。アタシは『勘違いだった』って訂正してくれればそれで…。」
「、お前この先どうするつもりだい?」
「この先…ってどういう意味よ。」
「将来に決まってんだろ!」
「将来って…いきなり聞かれてもさ、特にこう!って考えてねぇけど?」
「だろうね。いいかい?、アンタはこの里で一生を過ごすつもりで残ったんだろ?」
「そうだけど?」

綱手ねーさんが見つけてくれたチャンスを捨ててこの里に残る事を選んだのは確かにアタシだ。
執拗な横槍が入ったのは事実だけど、最終的に決めたのはこのアタシ。

「ならもう少し真面目に考えたらどうなんだい!」
「考えてるってば!」
「目先の事しか考えてないようにしか見えないね。」

それをいきなりそんな風に言われて面白い訳がない。

「確かにアンタは頑張ってるよ。けどいつまでもそれが続くと思ってんのかい?」
「っそりゃ…いつかナルトもサスケも…。」
「その通りだ。いつかあの子達もお前の元から旅立って行くだろうよ。」
「判ってる。それまではアタシがあの子達の面倒見るって決めてっから。」
「その後はどうすんだい?」
「どうするって…そのまま?」
「お前ねぇ…一応女の部類に入ってんだろ!」

一応…って確かに自覚してっけど人に指摘されると無性に腹立たしい言葉だな一応って。

「てかそれがどう関係してんのさ。」
「忘れたとは言わせないよ。アンタがこの里に残る事を決められたのは誰のお陰だい?」
「アタシのお陰?」
「違うだろっ!カカシがアンタに言ったんじゃないか!」
「けど決めたのはアタシだっ!」
「カカシがあそこまで自分の本音を曝け出したのはアンタにだけなんだよ…。」

いやだからそこでそんな風にしんみりしないで欲しい嫌な予感がする。

「たまたま…じゃないの?」
「そんな訳あるかい!カカシに不満でもあるのかい?」

不満が無いとでも思ってんのか!?

「何でそんなにアタシにカカシさん押し付けようとしてんのさ!」
「誰かがやらないとカカシもアンタも動こうとしないからだろっ!」
「だからって何で相手がアタシなんだよっ!」
「この里にカカシ以上の優良物件があると思ってんのかいお前は。」

どっかで聞いたよその台詞っ!まるっと同じ台詞を最近聞いたってばよ!!!!!

「四の五の言ってないでいい加減妥協おし!」
「妥協かい!」
「口で言ってる程嫌ってる訳じゃないんだろう?」
「っそりゃ…嫌いではないけどさ。」

何だかんだ言って困ってる時に助けてくれたのはカカシの野郎だし?
悩んでる時に決断するキッカケくれたのもそうだし?
急に開き直って扱いに困ってイラついたのも確かだけど ────────── 。

「無理に…とは言わないよ。」
「…………判ってる。」
「まぁ無理してたら面倒見たりはしないだろうけどね。」

本当に嫌で嫌いだったら相手にしたりはしない。
ただ、アタシ自身がそういう事を認めたり認めたり認めたりすんのが嫌なだけで。

「入り浸ってんだ。もうこのまま同居しちまいな。」
「てか唐突じゃねそれ?」
「言いふらしちまったのを撤回するのは面倒なんでねぇ…。」
「それだけの理由!?」
「ま、将来的にはどのみちそうなるんだいいじゃないか。」
「全っ然いい訳ねぇだろ!」

けど、冷静に客観的に考えてアタシに逃げ道は無い。
そうなるべくしてそうなるよう道筋に沿って歩いちまったっていうか、気付けばそうでした!みたいな感じで?
認めるにはまだ時間が掛かりそうな気がするけど多少の妥協は必要かもしれない。





と、いう流れから。

「ただいま〜、帰ったよちゃん。」
「ねーちゃんただいま!」
「ただいま。」
「おかえり〜!」

週に数回勝手に上がりこんでたカカシの野郎がとうとう同居人へと昇格したのだった…。





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2010.07.14