本.56


罪が確定した考え無しの冤罪男 ────────── はたけカカシ。
その冤罪男に科せられた綱手ねーさんからの容赦無い仕打ち(減給一ヶ月)に同情したくはなかったけど、
元を正せばっつぅかアタシの余計な一言が招いた結果だし?
カカシが罪を被ってくれたお陰でアタシへの追求は忘れられた訳で?
これは同情ではないアタシなりの罪滅ぼしだ!と一ヶ月間の飯の面倒を見てやる事にしたんだけど。
よくよく考えてみりゃ普段と変わんねーじゃん!と遅ればせながら気付いてしまった。
頻繁に出入りしてるわ荷物は持ち込むわ?週に数回勝手に泊まっていきやがる状況が既に有る今、
ドタバタで脳が回転してなかったとはいえ何でそんな甘い考えが浮かんだんだろう…って今更後悔したところで既に遅し。

「ただいま〜、帰ったよちゃん。」
「ただいま帰ったってばよ…。」
「ただいま…。」
「おっ、おかえり…。」

我が物顔で帰ってくるカカシの態度にアタシはイラッっていうかムカッとして

───── 羊がさんじゅうごひき、羊がさんじゅうろっぴき、羊が…

後ろ手で拳を握り締めながら羊を数えて殴打したくなる衝動に耐えていた。(この数日で羊の総数は1000を越えた。)

「あのっ…ねーちゃん?」
「ん゛あ゛ぁ?」
「なっ、何でもないってばよ!ふっ、風呂入ってくるってばよ!」
「おっ、オレも…。」
「何か最近あの二人仲良いな…。」

それに気付いてるナルトとサスケは酷く怯えてアタシにあまり近付いてくれないっていうか余所余所しくて、
全っ然気付いてねぇカカシはのほほ〜んとしてやがるから余計腹立たしいっつぅか。
全部が全部アタシ自身が巻いた種が芽吹いた結果だから余計ムカつく本っ当ムカつく。

「で、ちゃん今晩のオカズは?」
「店の残りモンだっ!」

図々しく上がりこんでた時んな事聞いた事ねぇくせにっ!
嗚呼もうムカつくったらムカつく超ムカつく!!!!!

「ねーちゃん風呂あがっ…。」
「ん゛あ゛ぁ?」
「なっ、何でもないってばよ!ふっ、風呂上がったってばよ!な、サスケ!」
「っああ!」
「じゃ次オレ入って来るか…。」

鼻歌交じりに風呂場へ姿を消すカカシの後姿にそのムカつきはとうとう爆発し

「ちきしょう溺れっちまえ!!!!!!」
「ねーちゃん!おっ、落ち着けってばよ!」
「むっ、無理する必要ない。だから落ち着いた方が…。」

地団駄を踏んで暴れるアタシを必死の形相で諌めるナルトとサスケ。

「あっ、アタシだって好きで暴れてる訳じゃないっ!」
「判ってるってばよ!な?サスケ!」
「は…頑張ってる。」
「っアンタ達っ!」

アタシは二人にしがみ付いてわんわん喚いて漸く落ち着きを取り戻す ────────── を繰り返し繰り返し繰り返し続け、
一週間も同じ事を繰り返せばアタシにだって耐性は付く。

「ただいま〜、帰ったよちゃん。」
「ねーちゃんただいま!」
「ただいま。」
「おかえり〜!」

恩も義理もクソもあるか!好きで冤罪被ったマヌケに掛ける同情なんか捨ててやる!と、
カカシの存在を無視…するのは不可能だから自分が言った発言だけを忘れる事にしてこれまで通りの対応で相対する事にした。
っていうか余計な事考えないで最初からそうしとけばよかった…。

けれど、その普段通りの対応が違う意味に取られるなんて思いもしなかった。





一週間振りに買出しに来た八百屋で

「おばちゃん!白菜と玉ねぎと人参一箱づつちょーだい。」
「あらちゃんいらっしゃい。」
「それと、何か豆も適当に…。」
「はいはい…ってそれよりちゃん聞いたわよ!」
「聞いた…って何を?」
「水臭いわよねぇ何で教えてくれなかったの?」
「水臭い…ってだから何の事?」

注文をメモするおばちゃんは、確信には触れないままひたすらアタシに対して”水臭い”を繰り返す。
表情から察するに悪い事じゃなさそうなんだけど、アタシはおばちゃんの生暖かい視線に嫌な予感がしてならない。
普通なら悪い事じゃなくてもアタシにとっては悪い事っぽいっつぅか、そんな気がして。

「一週間前はそんな素振りなんて見えなかったのにねぇ…。」
「だから素振りって何!?おばちゃんアタシ全然判んないんだけどっ!」
「照れなくてもいいわよ、商店街で知らない人は居ないんだから。」

おまけにそれを知らない人は居ない…だと!?
知らない人が此処に居るんだけど、教えてくれませんか?ってしつこく食い下がって漸く聞き出したそれは。

「ほら、おばちゃん達は古い人間だからね?」
「うっ、うんうんそれで?」

今おばちゃんが骨董かどうか?はいいから早くっ!

「心配してたんだよちゃんが騙されてんじゃないか?って。」
「騙され…る?」

最近っていうかこれまでもこれからも壷や印鑑買った覚えはないんだが。

「まぁね、身元ははっきりしてるし知らない相手じゃないけど…それでもねぇ、少し年が離れてるだろ?」
「年?」

もしかしてナルトやサスケとの生活に危惧してとかそういう方向なのこれ???

「一緒に暮らして結構なるから心配する必要も無いんだろうけどねぇ…。」

年下の男と同棲同居してるのが回りにはあまりよろしくない印象で?
そんでおばちゃん達の話題になってて…って感じか!?
いやでもいくらなんでもそれはねぇわな。

「ちゃんと知り合うまでの素行知ってるから心配だったのよ。」

うわぁマジでそっちなの!?
っていうか有り得ないっていくらなんでもアタシがナルトやサスケとゴニョゴニョなんてありえないから!

「けどまぁちゃんと知り合ってからは落ち着いたみたいだしねぇカカシ先生も。」
「ってそっちかよ!やっぱりそっちなのかよっ!」
「綱手様が嬉しそうに触れ回っててねぇ…やっと安心できるって。」
「あんのババァ…。」
「三代目が一番気にしてたカカシ先生とちゃんが漸く…ってちゃん!?」

や ら れ た あ の バ バ ァ に ハ メ ら れ た !

野菜どころの騒ぎじゃねぇ!
もしかしたら最初から仕組まれてたのかもしれない。
いくらカカシがバカだったとしてあの状況で手を挙げざるを得なかったとしても!
腐っても上忍、後先損得考えずにマヌケな行動を取る筈はなかったのだ。
恐らくあの二人は共犯 ────────── じゃなかったとしても、
どっかで意思疎通を図り手を組んだに違いない。
思い出してもムカつく尾ひれ背びれの付いた噂から数年。
よもや外堀から埋められるとは何たる失態だろうアタシめっ!

アタシは八百屋のおばちゃんの呼び声を完全シャットアウトし、
綱手ねーさんが居るだろうアカデミーに脱兎…じゃない猪が如く一直線に全力疾走したのだった。





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2010.06.08