本.55


「「「「「「「「「「「「「キスぅぅぅっ!?」」」」」」」」」」」」」

そこに居る全員が声を揃えての大合唱。

「いや、だからね?そうじゃなく…。」

て…って否定しようにも誰もアタシの言う事を聞いちゃいねぇ。
それどころかアタシを完全に無視して勝手な想像をおっぱじめる始末。

───── コイツら…。

元はといえばアタシがおかしな場所で台詞を詰まらせてのが百歩譲って悪いとしても、
アタシそっちのけで何キス話で盛り上がってんだよコンチクショー! 
とはいえ突っ込まれて困るのはアタシだから今の内に逃げ道を用意しとくのがいいかもしんない。

───── 入院中のキスイベントっつぅと…。

何かそういうシチュエーションのゲームだとか小説があったような気がする。
アタシは記憶に残るそういう話を上手くつなげてそんでもって…と、脳内でシーン再生していた真っ最中

「、聞いてんのかい!?」

大声で割り込んできた綱手ねーさんはアタシの肩を掴むと思いっきり揺さ振ってくれやがった。

「ちょ!痛い!痛いからねーさん力入れすぎだって!!」
「いいからさっさと白状しな。」
「何を?」
「やっぱり聞いてなかったんだね。まぁいい、さっさと事情を説明しな。」

アタシを無視して散々盛り上がっといてそれはねぇだろって態度を前面に押し出し、

「説明しろって何を?」
「事情を説明しろって言ってるだろ!」
「だから痛いからそれすっげー痛いから!!!」

その態度を握力という暴力によって速攻で修正され、

「こうなるかもしれないと思ったから…言えなかったのに…。」

瞬時に恥らう乙女にジョブチェンジして

「ハッキリ覚えてる訳………じゃない……んだけど………。」

意味ありげに言葉の間を溜め、

「本当に…気のせいかもしれない……んだけど。」

溜めの間にこれから説明する無難な言い訳をゆっくりと ────────── 。





ずっと眠ってたからよく覚えてないの。
目が覚めてからそれを思い出して『もしかしたら夢だったのかも?』って思った位だから。
だから私はもう一度思い出そうって考えてみた。
私が目を覚ます数日前、私はぼんやりとだけど意識があった時があったみたいで…夕暮れだったかな?
誰かが病室に入ってきた事に気付いたの。

───── だれ?

けど私は指先一つ動かせなくて当然声を出すことも瞼を開ける事も出来なくて、それでもその”誰か”が
ベットサイドの椅子に座って私の様子を心配そうに見てるのが気配で判ったわ。

───── 私…心配掛けてる。

私の名前を呼んで早く目を覚ましてって…反応しない私に一生懸命言ってくれるその”誰か”。

───── 早く…目を覚まさなきゃ。

私は心配してるだろうナルトやサスケや皆の為、その”誰か”の為にも早く目覚めなきゃって思った ────────── その時だった。
目を開ける事も出来ないどころか指一つ動かす事も話すことも出来ない私の唇に暖かくて柔らかい感触が触れたの。

───── えっ…今の!?

一瞬それが何か?判らなかったけど…気付いたの。
それが”誰か”の ────────────────────────────── 。





「それが気になって…だからっ!」
「成る程そういう事だったのかい………って納得すると思ってんのかい!」
「だって本当なんだものっ!」
「その気色の悪い言葉遣いを止めなっ!」
「酷ぇ言い草だなヲイ。」
「納得はしてやるとしても口調が気色悪いんだよ。」

アタシ的にはそういう口調の方が現場が盛り上がると思ってやったんだが相当不評のようだ…チッ。

「で?要約すると誰かに寝込み襲われたって事だな?」
「アスマさんよぉ、んな身もフタも無い言い方はねぇだろ…。」
「しっかしなぁ…の寝込みを襲うなんて命知らずはどこのどいつだろうなぁ…。」

どこのどいつもそこのあのこもむこうのあのかたもそれ以前にそんなもん存在しねぇから。
なのにアスマさんの言葉にその場が静まり返り、アタシ以外のそこに居た全員の視線が一点…っていうか一人に集中した。

「ちょっと何でオレの方見てんだよ!」
「だって…なぁ?」
「そうだねぇ…。」
「ねーちゃんにそんな事出来る…っていうかさ?」
「やろうと思う命知らずは……。」

いやいや君達何真に受けちゃってくれちゃってんの全部ガセネタだから嘘だから。

「オレはそんな真似絶対しない。」

カカシさんは胸張って断言して身の潔白を証明してるつもりらしいけどアタシ以外は全然信用してないっていうか
聞いてないっていうか聞く耳持ってないらしい。

「ま、まぁともかく、そういう事だから…もういいっしょ?」
「…お前何言ってんだい。」
「何って…もういいじゃんって言ってんだけど?」
「良い訳ないだろう!女にとって重大な問題なんだ!」

全然重要じゃねーだろそれ。

「犯人を見つけ出して責任取らせるべきだろうね。」
「ちょ、責任って何!?」
「うら若き乙女の眠る病室に忍び込んで唇を奪ったんだ。責任取って嫁に貰わせるよ。」
「何仕切ってんだよっ!たかがキスくらいで嫁に行ってられっか!」
「たかが…?」
「やっ…だから…。」
「カカシ、あんた責任取るんだろうね。」
「だからオレはやってないって…。」
「綱手ねーさん!カカシさんも知らないって言ってるから!もういいって!」
「カカシ、よーく考えるんだよ。ここであんたが認めたらはお前の…。」
「っ!!」
「ちょ!カカシお前何認めそうになってんだよやってねぇだろお前じゃねーだろ!」

犯人は存在しねーんだからうっかり犯人に名乗り出るんじゃねぇぞ!
そんなアタシの心の叫びも虚しく

「おっ…オレが…。」
「認めるんだね?」
「アンタ男だろっ!やってないならやってないってハッキリ言えよ冤罪だぞ!?」
「どうなんだいカカシ。」
「オレがっ…。」

”オレがやりました”
と、右手を上げて犯人を買って出たカカシのバカ野郎は

「やっぱり犯人はお前だったんだねぇカカシ。罰として向こう一ヶ月給料は無しだよ。」
「綱手様!?」
「全くお前って奴は呆れたもんだよ。が目を覚まさないのをいい事に寝込み襲うなんざ男の風上にも置けない。」
「何言ってるんですか!?」
「ああでも言わなきゃお前認めなかっただろう。」
「認めるもなにもあんな事言われたら!」
「黙りな。こんな大騒ぎになったんだ誰かが処罰されなきゃ示しがつかないだろ!」

甘い言葉に乗せられて自ら手ぇ上げて犯人に成り下がった挙句無実の罪で処罰とか…バカすぎる。
聞いててこっちが恥ずかしくなってきたよ子供以下かお前はっ!

「カカシ先生さ?もう少し考えて行動した方がいいってばよ。」

挙句ナルトに諌められるとかさ、もうホントどうしようもねぇわ。

「ちゃん!オレじゃないから!」
「あーはいはい。」
「ちょっと何その気の無い返事はっ!?」
「だってさ?アタシが止めたのに聞かなかったのアンタじゃん。」
「けどあの状況でオレが手を上げなかったら…。」
「まぁ…同情はする。仕方ねーから一ヶ月間の飯の面倒は見てやるよ。」

いやホントどうしようもないんだけど。
流石に元を正せば原因はアタシにあんだし?
カカシの迂闊な行動のお陰で面倒臭ぇ説明せずに済んだ訳だし?
仕方ねーからちょっとだけ面倒見てやるか…。





--------------------
2010.05.19