現.00



『別れてくれ。』
『言うと思ってたわ。』
『お前と一緒に居てもダメ臭いんだよな…。』
『そんな気がしてた。』

学生時代から付き合っていた彼女。
見た目も性格も普通、可も無く不可もない
本当に普通の彼女との結婚生活は僅か2年で幕を下ろした。
もちろん彼女に対する不満など一切無かった。今の生活に問題も無い。
ただ、俺自身の中に不満や問題があった。

俺は現状維持を優先するよりも他に、もっと大切な何か?がある事に気付いてしまった。
そして、”今”よりも”不確かなそれ”を優先する事を選んだ。

自分に欠けている”何かが足りない、何か忘れてる”という不確かなモノ。
それが何なのか?を考える時間が1分、1時間、1日、1年と続き、気付けばそればかり考えるようになり。
結果、”今を捨ててでも思い出さなければならない”
という摩訶不思議な結論に行き着いた俺は、彼女との別れを選択した。
俺は”今”一番大切なモノを手放し、それと引き換えに求めていた”不確かなそれ”を漸く取り戻したのだ。

俺は思い出した。自分が、自分にとって大切なモノを失っていた事を、大切な記憶を失っていた事を。
つまり、俺は”大切なモノを失ったという記憶”そのものを失っていたのだった。

そして、その”失った全て”を取り戻したのは皮肉にも彼女との最後の時、
俺が隠し続けていたある事実を口にした瞬間だった。



─── 悪ぃ、俺やっぱ…。





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2009.05.16