現.01 俺にとって一番大切なモノは家族だ。 唯一血の繋がった姉貴が一人と、血は繋がらないが妹同様の幼馴染が一人。 その二人が俺にとっては一番大切なモノだった ───── が。 「洒落になんねぇわ全く………。」 ─── あのバカ共は一体、揃いも揃って何処へ行ってしまったのだろうか? 「ったく心配ばっか掛けやがって。」 その二人が忽然と消えた。正しくは存在そのものが存在していなかった。 「何で俺まで忘れちまってたんだ?」 あの喧しい女二人は確かに存在した。 俺を母親代わりに育ててくれた姉貴も、妹のように可愛がった幼馴染も確かに存在していた筈が、 最も身近に居た俺も含めてこの世の全てが二人が存在していた事自体を忘れてしまっていた。 「ありえねぇよな…。」 ─── ホント、マジありえねぇよ。 そう一人ごちながら、俺は自分の記憶の中に残る二人の痕跡を辿る。 最初に消えた幼馴染はごく普通 ───── とは言い難い、少し(いやかなり)マニアックなヤツだった。 遠からず近からずの距離に、祖父母が残した家に一人暮らしていたアイツは俺が結婚するまでは ウチに入り浸りの生活をしていた。けれど、俺が嫁を貰い姉が家を出た頃から来なくなった。 「結構前じゃねーか。」 嫁を貰ったのは二年前。もしかするとあの後直ぐにアイツは消えたのかもしれない。 「自分探しの旅に出る、ってヘムヘム預けてったっきりか…。」 そして姉は愛犬を俺に預け、家の合鍵を渡し、ウチを出た直後に消えた ─── という事か。 「捜索願も出せねぇ消え方しやがって…。」 存在そのものが消えた二人を、何を手掛かりに探せばいいというのか?正直俺に判る訳がない。 理由も足取りも、痕跡すらも残さず消えた女二人をどうやって探せばいいのか? 「ったくな。何で今の生活捨ててまで思い出したかった事がアイツ等の事だったんだかなぁ。」 出てくるのは愚痴ばかり。けれどそれは自分が招いた結果だから仕方ない。 俺にとって、何が一番大切か?気付いちまったからの結果がこれなのだから。 「居たらウザイ、けど居ないと落ち着かねぇのも確か…か。」 俺は自分が思っていた以上に、血の繋がりというものに拘るタチだったのだろう。 血が繋がっていなくとも、自分のテリトリーに深く入り込んだ者はそれに等しく、 「アイツには悪ぃ事したよな…。」 残念な結果だが、俺は元嫁を自分の家族だと認めてなかったんだろう。 だから簡単な言葉のやり取りだけでアッサリ切捨て、アイツもそれに薄々気付いていたんだろう アッサリ了承してくれたに違いない。 「意地でも探し出さねぇとな。」 足取りも痕跡も手掛かりもない。 それでも俺は、俺の家族を見つけ出さなければならない。 幼馴染の住んでいた家は消えていた。近所の人に尋ねた所、 帰ってきた答えは”ココは昔から空き地だった”という有り得ないもだった。 残るは姉貴の部屋。これが手掛かりになるかどうかは判らない。 けれど、マンションの一室だけが存在自体消える事などありえないだろう。 「行くか…。」 幼馴染が預けていった家の鍵、姉貴が預けていった鍵。そして俺たちが元々住んでいた家の鍵。 俺はその三つ鍵を手に姉貴が住んでいた筈のマンションへ向かい、存在していた部屋の前で確認する。 表札が無い事、人の気配が無いこと、 「開く…な。」 残された鍵で部屋の扉が間違いなく開く事を。 そして、扉を開けた瞬間それを聞いた。 ─── トビラガヒライタヨ そう俺に語りかけるような声を。 -------------------- 2009.05.29 ← □ →