現.02 俺は確かに扉を開けた。でもそれは姉貴が住んでいた筈だったマンションの部屋の扉を開けただけだ。 ただそれだけの事。その、ただそれだけの事をしただけで、 何をどうすれば現状のようなありえない状況に立たされるというのだろうか? 扉の先、小さな土間から続く廊下の向こうにリビングへの扉がある部屋。 俺は玄関扉の先にはそれが或ると思っていた。実際それしかない筈だが。 けれど現実は ─── トビラガヒライタヨ 延々その言葉が繰り返される何も無い空間に俺は居た。 白で構成された、白しか存在しないその空間に俺は一人放り出された。 しつこい程に繰り返される言葉は、もしや俺に答えを求めているのだろうか? 俺がその問いらしき言葉に応えれば、何か判るのだろうか?と 「何の扉が開いたんだ?」 そう問い返した。すると ─── タビダチノトビラ。モトメルコタエガマッテイルバショヘノイリグチ。 全くもって不可解な答えが返ってきた。 「何処に居る?お前は誰だ?」 姿も形も無い、ただ声だけの存在。 そんな限りなく怪しい存在を誰が信じるか! ─── ゲンカイガオトズレタ。 「は?限界だ?」 ─── キミガサイゴ。 「最後だ?何だそりゃ…。」 ─── コノセカイハキミヲウケイレテハクレナイ。 「日本語を話せ!!!!っクソッタレがっ!」 ─── ソノチニツラナルモノハキミデサイゴ。 「………どういう意味だっ!?」 ─── ヒトリハカエルベキバショヘ。 「どういう意味だって聞いてんだろうがっ!」 ─── ヒトリハアルベキバショヘ。 「まさか…アイツ等の事か!?」 ─── ソノチガアルカギリコノセカイハウケイレテハクレナイ。 「血…だと?」 ─── ソノチハコノセカイニアッテハナラナイ。 「判りやすく説明しろ。」 ─── 要するに、君の身体に流れる血の所為で、これ以上この世界に存在出来ないって事さ。 「てめぇ…さっきまでの片言は何だっ!」 ─── 雰囲気作り?ともかく、選びなよ。このまま死を迎えるか、それとも… 「死だぁ?意味判るかっ!」 ─── 時間はないよ?拒絶=死、だからね。 「だから説明しろっつってんだろ!!」 ─── 血が受け入れられない。その血はこの世界には毒なんだ。 「毒?ハッ!何が毒だ…。」 ─── でも、ここじゃない世界は君に優しいよ。限りなくね…。 「それより…アイツと姉貴を消したのはお前か?」 ─── 或るべき場所へ戻っただけさ。あの二人の限界は君より早かったからね。 「だからどういう意味だっ!」 ─── 血が選んだ。消滅する事よりも生きる事を。 「……………。」 ─── 君は選べる。還るべき場所か、或るべき場所のどちらかを。 「どこにいる…。」 ─── いずれどちらも繋がる。求める場所に必ず。 「どっちがだっ!?どっちがどっちと…。」 ─── どちらでも繋がる先は同じ。求めるなら必ずそこに繋がるよ。 「ちっ…。」 要するに、俺はここじゃ不要だって事か。 おまけに、幼馴染も姉貴も不要な存在で、だから消された ─── と。 ─── 君は特別。意味を知って向えるんだからね。 「んな特別いらねぇよ!」 ─── 心配しなくても大丈夫。君達が行き還る場所は君達を求める世界だから。 「勝手にしろっ!」 ─── 君達にだけは優しい世界さ。 「どうでもいいわっ!」 ─── 行ってくれるかい?君を欲する世界へ。 「その先にアイツ等が居るんだろうがっ!」 ─── そうだね、いつかは会える筈だよ。 「何だその曖昧表現はっ!?」 ─── 3つあげる。理解して行ってくれる君に3つの願いを叶えてあげるよ。 「タダだろうな?」 ─── 限界だ。ともかくどちらかの扉を開けて。3つの願いは後で贈るよ。 「だーーーーーっ!急かすなっ!荷物も準備もっ…」 ─── さようなら…そしてありがとう。 「だから準備とかあんだろうがあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 俺は、半ば強制的に二つの扉の前に立たされた。 この空間同様真っ白な扉と、その真逆に存在するような真っ黒な扉の前に。 「ちっ、ざけやがって…。」 当然普通の人間なら白い扉を選びそうなもんだが。 「あのバカ二人が居そうな…となるとな。」 俺も含め、アイツも姉貴もちょっとっつーかかなり捻じくれてる部類だ。つまり 「なるようになれ、って事だ…なっ!」 アイツや姉貴がこの場に立たされた場合、120%の確立で開けるであろう黒い扉を俺は選び、 勢いに任せてその中に飛び込んだ。 そして ─────────────────────────────────── 。 -------------------- 2009.05.29 ← □ →