そして



気が付いた俺は直ぐに理解した。自分が居る場所が、本当にさっきまでいた場所とは違う事を。
それだけじゃない、それ以外の事も何故か俺の頭は理解した。
場所も時間も何もかもが全く異なる場所に俺は居るのだ、と。

そして俺は何処かの路地裏の古い石畳の上に転がっていた。持っていた覚えなどない小さな袋を握り締めて。
中を覗けば煙草とライターと、鍵が3つ…ってオイオイオイオイまさかじゃねぇだろうな?

「まさかこの3つが願いじゃねぇだろうな?」
─── いくらなんでもそんな酷い事しないよ。

どうやらセーフだったらしい。
てことはコレは単なるオマケみたいなもんか。

─── 正解。さて、無事辿り着いたお祝いに願いを叶えてあげる。
「どんな願いも叶えるって言ったな?」
─── 死して尚残る程の財産でも、名誉でも何でも構わないよ。
「んな危ねぇモンいるかっ!」

何処なのかもわからない場所に、そんな目に見える物など合っても危険なだけだ。
俺は、自分が立たされている状況も判らない上、自分が存在していない場所に存在してしまったのだ。

「いきなり現れた人間がそんな大層なモン持ってたら怪しいだろうが…。」
─── へぇ…随分判ってるね。ならどうする?
「その3つはいつでもいいのか?」
─── 早い方が助かる。いつまでも君に構ってる暇も無いんでね。
「好き勝手やらかしてその言い草ってのは気に入らねぇなぁ?」
─── 仕方ないよ。僕が居ないと君が元居た世界は消えてなくなるもの。
「俺や俺の身内追い出したんだ。消えて当然じゃねぇか!」
─── 流石、その血を持つ人間は違うね。言う事に容赦ない…。
「事実だ。で、3つの願いか…取り合えず…」
─── ………………流石としか言いようがないよ全く。
「最後の1つはもう少し待ってくれ。」
─── 判ったよ。でも早めにお願い出来るかな?
「わーってるよ。俺だってお前みたいな正体不明な輩とはさっさと手ぇ切りてぇしな。」
─── それじゃ、次合う時が本当に最後だ。
「ああ…。」

俺は、堅実且つ安全で手軽で最も役に立つであろう2つを要求し、それを得た。
それが自分の中に在る事は、辺りの様子を見て直ぐに判る。

「はぁ〜…っ。何っつーかな、何で俺はよりによってこんな場所に…。」

場所は多分海外、それも英語圏ではない場所。
ここはおそらく、百年以上は前のイタリアだろう俺は辺りの景色と、感じる空気でそれを理解する。
それを理解出来たのは、それが可能な物を俺は約束として得た結果だったが。

一つは知識。それも膨大な量の知識を俺は求め得た。
ただ知識だけあってもそれを活かせなければクソの役にも立ちゃしない。
腹も膨れなけりゃ生きて行く事も出来ないだろう。
だから俺は、得た知識を活かせるだけの技量も求め、そして得た。
知識を持ち、それを活かせる技量があれば、喰うには困らない。
その二つは荷物にもならなければ目で見て確認する事も出来ない上に、
それを持っている事を容易に隠す事も出来る。
俺は、その二つがあれば当面困る事もないだろう、と
その二つを得た事で自分が居る場所を認識する事が出来たのだが。

「先ずはどうすっか?だな…。」

状況判断は終えた。ならば次に何をしてどうすれば生きていけるか?を考え実行しなければならない。
先ずは仕事を探し、寝床を探さなければならないだろう。と放り出された路地裏から人通りのある場所へ
向おうとした ───── その時。

「物騒だなオイ…。」

背後から数人の足音と、ドラマでしか聞いた事のないような銃声が聞こえてきた。

「まだ死にたかねぇし巻き添えなんざご免だな、逃げるか。」

俺は隠れられそうな場所、逃げ道を探し俺は辺りを見渡し…たが。そのどちらも見つける事が出来ず、
ともかく鉢合わせにならないよう巻き込まれないように、と人通りの多そうな場所へ走り出そうとしたが。

「Venga qui!」
「は?」
「Venga qui!Presto!!」
「チッ…仕方ねぇか。」

突如現れたガキが俺に来るよう呼ぶ声に、闇雲に逃げても仕方ない…と観念し、誘導されるまま手を引かれて走り出した。









路地裏から路地裏を走り抜けて俺達は無事逃げ果せた。

「ここまで来れば大丈夫だよ。」

結構走り回ったっていうのにガキは息一つ乱していない。(俺もだが)
落ち着いて改めてガキを見ると

───── 酷いもんだな…。

穴の開いた服にボロボロの靴って酷いナリしてやがった。

「お兄ちゃん名前は?」
「俺か?俺は。お前は?」
「僕は ───── 。」
「ん?悪ぃもっかい…。」
「 ───── だって。」

それが俺、とジョットとの出会いとなる ──────────────────── 。





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2009.05.29