◇◆ Spring -April- ◇◆
              




4/4





『ねーちゃん!早く起きないと遅刻するよ!!』
---あーもううるさいなぁ…
『ねーちゃん…ホントに知らないからな!!』
---ホント尽ってば生意気になったも…
「寝ぼけてないで起きないと入学式に遅れるよ!」
「げっ…ちょ…い今何時!?」
「7時50分」
「うっそ…やだっ、何でもっと早く起こしてくれないのよぉ」



よく覚えてないけど…夢見が悪すぎたのかもしれない。それとも夢見が良すぎたせいかも?

朝、尽に起こされたのはいいけど時間の無さはハンパなくて、
壁に掛けてあった制服に慌てて着替え取るものも取り合えず家を出た。
学園までの道のりは昨日下見したから迷子になる事もない。
この街に引っ越してきたのが半月前。家の中も落ち着いて、
街中を歩いて散策する余裕が出来たのは入学式のわずか3日前だったけど…。










『ねーちゃんは覚えてるの?』

以前まだ幼い頃住んでいたこの町に戻ってくるなんて思ってもいなかった。

『どうかなぁ…歩いてみないと』

尽を連れて散策に出てみたけれど

『ねーちゃんちょっといい?』
『何よ…』
『ここはどこですか??』
『さぁ?』

幼すぎた私の記憶はあやふやどころの騒ぎじゃなかった。

『あのーすいません、○丁目はどういけば…』

仕方なく、見つけたタバコ屋さんで道を尋ねる私の背中に刺さる尽の視線は痛い。それもかなり。

『・・・・・』
『の、喉渇いちゃったね!』
『ぜーんぜん…』
『・・・・・悪かったわよ』
『この調子でちゃんと学園行けるのか?ねーちゃん』
---小学生の尽に心配されてるようじゃ、私も終わったな…。

それでもまぁ、なんとなく学園までの道順は確認出来た。
途中、何度か気になった場所があったけどそこはまた今度出掛けてみればいい。
そんな事を考えながら、夕暮れの照らす道を尽の手を引いて私達は家へ帰った。










「ま…間に合った…っぽい?」

入学式が始まるのが8時半。私はどうにか8時15分に学園に辿り着き、

「まだ時間に余裕あるし…」

朝の学園散策を決め込んだ私は校舎の廻りをグルリと一周してみることにした。

「昔はこんな学校なかった筈なんだけどな…」

ここに何があったかは覚えてないけれど、ここに学校が無かった事は覚えてる。
そんな事を考えながら校舎横を抜け、歩いている内に私は裏庭に出た。
と、そこには明らかに学園の建造物とは違う異質の建物が。

「あっ…そうかっ!」

それは学園の裏庭に面した隣地に見える建物だった。
裏庭とそこを隔てる物は何も存在しなくて、私はその建物に呼ばれるようにそこへ向かって歩いていた。
そして、目の前に立って漸くその建物が何なのか気付く。

「教…会…?」

恐る恐る入り口のドアに近づいて

「閉鎖されてる…?」

そのドアに鍵が掛かってる事に気が付いた。
見た目の古さからすると使われていない教会かもしれない。となると、入り口が閉鎖されているのは当然な訳で。

「ん〜…」

色んな事を考えながら、けれど私はどうしても教会前から立ち去る事が出来なかった。

「どこかで見たような…気がするのは…気のせいなのかな…」

ん〜…と、目を閉じて考えて、自分の中にある記憶をたどって行く途中で。

キーンコーンカーンコーン…

「!?」

この音は…明らかに今、私がここにいる事が間違っている合図。
のんびりと自分の記憶を辿る旅をしている余裕もなく、慌てて体育館に戻ろうと踵を返した瞬間

---えっ……。

何かにぶつかった…と思った時は既に遅く、私はその衝撃で地面に転んでしまった。

「大丈夫…か?」
「は…はい…」

ぶつかった何かが人だということに気付いたのは、手が差し出されたから。
そして、差し出された手を反射的に手を借りようとして、その手に自分の手を伸ばした時、

---うわぁ…

初めて相手の顔が目に入った。

---カッコイイ…というか綺麗な顔…

とりあえず大人びた表情のその人の手を借り、取り合えず立ち上がる。先ずは何よりも

「あ、ありがとうございます先輩」

大切なのはお礼の言葉。
そして、頭を下げてお礼を言った私に

「新入生…?」

逆に尋ねてきた先輩。
うん、ここで合ったが100年目…じゃないけど。全然知らない人ばかりの中で、初めて出会った人だから

「はい!」

なけなしの、普段の3倍の愛想と元気で返事をしたら

「なら…先輩じゃなくて…同級だから」
---なぁんだ、同級生………って…本当に???

先輩って勝手に勘違いした相手は同級生だった。はともかく。
私は咄嗟に自分の名前を告げ、強引にも思える誘導と、

「私、!アナタは…???」
「葉月…珪…」

期待を込めた顔してただろう私の勢いに負けたのか、

渋々といった感じだったけど、葉月くんは名前を教えてくれた。

---うん、なかなか良い出会いだよねこれは…
「葉月くんね!よろしく!!」

その嬉しさについ握手しようと葉月くんに手を差し出した…んだけど。

「ああ…俺はここで入学式、そっちは急いだ方がいいと思うけど…?」

喜んでる場合ではない状況を把握するには、私はどうにも鈍すぎたみたいだった。
言われた通り、確かに入学式早々遅刻は転入生としてはかなりインパクトありすぎてマズイ。
葉月くんの言葉でやっと自分のするべき事を思い出した私は

「じゃ、またね!」

手を振って葉月くんに別れを告げ、どうにかこうにか入学式に潜り込んだのだった…。





入学式も無事終わり、各自教室へ向かうよう先生から指示を受けた私は
新入生の荒波にもまれながらどうにかこうにか教室前まで辿り着いた。

---今日からここが私が1年過ごす教室なんだ…。

ふとそう思っていた時、

「これ…落としたわよ?」
「?」
「はい、これ…貴女のでしょ?」

後ろから声を掛けられ、振り向いた私に差し出されたのは生徒手帳だった。
うん、確かに間違いなくどうみてもこれは私の生徒手帳です、ハイ。

「ありがとうございます、先輩」

そして、頭を下げる私に一瞬先輩は怪訝な表情を見せたが。

「先輩…じゃないわ」
---またやっちゃった…。
「アナタ転入生でしょ?」
---何で解るんだろ?
「私は有沢志穂、アナタと同じ1年生よ。ちなみにここは中学からの持ち上がりが多いから」
---なるほろ。
「私、。よろしくね有沢さん!」

先輩改め、有沢さんに謝罪を含めたお礼を兼ねて、
生徒手帳を受け取ってそのままその手を握って握手する。
ちょっと顔を顰めた有沢さんだったけど…私の勢いに飲まれた様子。
だから、ついでだ!と私は思い切って聞いてみた。

---有沢さんなら知ってるかも…。
「じゃぁ葉月くんって知ってる???」
「え…ええ。葉月珪でしょ?」
「うんそれ!!」
「成績優秀眉目秀麗、全てが人よりも秀でてるからかなり目立つ存在で、さらにモデルをしているから」
---そ、そんな超人だったのかあの葉月くんは!!
「人気者なんだ!」
「いえ…どっちかというと…誰とも係わらないっていうか人を避けてる感じがあるから逆に悪目立ちしてる風かしら」
--へぇ…ま、いいか。
「不束者ですがヨロシクお願いします有沢さん!」

うん、聞いてみたのは正解だったみたいだ。
疑問も解消出来たし、何より有沢さんと携帯番号とメルアドの交換も出来た。
私は一人スッキリした気持ちで怪訝な顔をしてた有沢さんに見送られながら、教室へ入ったのだった。





「ねーちゃんねーちゃん!」

家に帰った途端、尽が駆け寄ってくる。

「学校どーだった?イイ男の一人や二人はいたか?」

今時の小学生は一体どうなってるんだろ?
姉の心配を他所に、尽は根掘り葉掘り今日の出来事を聞いてくる。

「お友達ならできたよ〜…」
「カッコイイのか!?」
「えっと…眼鏡かけてて…」
「インテリ系なのか?」
「賢そうだったかも〜…」
「将来有望なんだなそいつは!?」

えーっと尽君、君は一体何がそんなに知りたいんだ?

「名前は!年は!連絡先はちゃんと聞いたんだよな??」
「もちろん!ほらこれみて」

携帯に登録済みの有沢さんの携帯番号を尽に見せた途端

「な、何よその目は…」

あからさまな侮蔑の眼差し。

「これどう見たって女じゃん…」
「そうよ?」
「ねーちゃんさ…こうもっと他にあるだろ!一生に一度の女子高生なんだよ今は!!!」

なんだろう、尽が酷くおじさんぽく思える上に

「そういうアンタはどうなのよ〜…」
「フ…」
「はいはい、一生に一度の小学生なんだから精々がんばれぇ〜…」
「なにその態度、ねーちゃん大人げないよ…」
「アンタには子どもらしさが足りないわよ〜だ!」

なんだかすごく尽が大人びて思える……………。





「部活どうするかなぁ…」

その夜、明日の用意を済ませてぼんやりと考えていた時。


pi pi pi pi pi pi pi …


「運動は苦手だしなぁ…」


pi pi pi pi pi pi pi …


「ん〜…」


pi pi pi pi pi pi pi …


「ん?携帯???」

突然携帯電話が鳴り響いた。
液晶画面に映る番号は今日教えてもらった有沢さんのものではない上に、
見た事も無い知らない番号で。

「もしもし…」
「もしもし…」
「もしもし…?」
「…誰?」
「です…」

って答えて少し後悔。知らない人に何で律儀に名前教えてるんだ私は。

「?」
「です…が?あの…アナタさまはどなた様で…」

おまけに、何で知らない人とフリートークしちゃってるんだ私は。

「俺…葉月…」
「えーっと…どちらの葉月様で?」
「…」
「あのぉ〜…まさか…」

まさか…ね。

「葉月…珪…だけど。なんでお前の携帯な訳?」
「さ、さぁ…」

っていうか何で葉月くんから電話が掛かってくるんだ!?って思わず椅子から転げ落ちそうになる私。
座りなおすどころかつい床に正座までしちゃった…。

「いや…夕方、知らない小学生から番号書いた紙もらって…」
「なんだ…そうなのかぁ…」
「いや…その反応はどうかと…」
「???」
「いや…そうじゃなくて…まあいい。それじゃ」
「まって!」

そう言ったのはつい…というか、うっかりとうか、何故だか解らない。

「??」
「また電話していい?」

よく解らないけど、葉月くんと話したい。そう思って思い切ってそう言って。

「好きにしたらいい。用があったら出ないから」
「うん、ありがとう」
「じゃ…」

ツーッ ツーッ ツーッ …

「切れちゃった…残念、もう少し話したかったなぁ…」

何でもいいからもうちょっと話を続けてみたかった…じゃなくて。

「つ〜く〜しぃぃぃぃ!!!」

取り合えず今は、犯人を締め上げる事が先決だった………。




















4/10





「よろしくおねがいします〜」

私は手芸部に入部する事にした。昔からの夢を叶える為の第一歩として。
さらに放課後には

「よろしくおねがいします〜」

アルバイトを始める事にした。
【喫茶ALUCARD】でウェイトレスのバイト。もちろんそれも、昔からの夢を叶える為の資金確保の為。

「さっそく悪いけど、隣のスタジオにこれ届けてくれないかな」
「は〜い」

マスターに一通りやり方を教わった後、
ポットに入ったコーヒーとカップをバスケットに入れて隣のスタジオに向かい

「失礼しまーす、ご注文の品お届けにまいりました〜…」
「あー、そこのテーブルにお願いします」

関係者?らしきオニーサンに言われるまま、スタジオの隅にある
テーブルにカップをセッティングしてコーヒーを注いだ。そして、

「1時間後くらいに引き取りに伺います〜」
「ハイハイありがとー」

別の関係者らしいオニーサンの返事を確認して、スタジオを出ようとした時だった。

「お前…」
「え?」

ドアから出ようとした私と入れ替わるように入ってこようとした人。それは

「………葉月…くん?」

葉月くんだった。

「バイトか?」
「あ〜…うん、これからも喫茶ALUCARDをごひいきに〜…」
「ああ…」

いつもと雰囲気の違う葉月くんは、ってあ、そういえば。

「もしかして…モデルさんしちゃってる?」

モデルしてるって噂を聞いた事を思い出した。だからそれをそのまま口にしただけだった。

「そうだけど…何か…」

けれど、”モデル”の言葉にピクリと反応した葉月くんは
一瞬雰囲気が固くしたような?そうでないような、気のせいかな?気のせいだろう多分。
それよりも!だ。私にとって重大なのは

「ここモデルさん撮影するスタジオだったんだぁ〜…」

疑問が解決した事だったり…する。

「え…?」
「いや…ほら!スタジオに配達って言われて来たんだけど何してるスタジオなのかなぁって…」

スタジオって物に全然興味も無かったし、それが何する場所かなんて知識もなかったし。
疑問が解消されて物凄くスッキリしたまでは良かったんだけど、
呆れたような葉月くんの視線が痛い、まるで尽のあの強烈な視線にも似た視線が。
こういう場合は、あれだ。

---笑って誤魔化しとこう。

「変なヤツ…」

そして、誤魔化しは成功し、葉月くんの呆れ?らしきものは峠を越えてくれたみたいだった。
そう私が感じたのは、葉月くんの空気が変わったのが何となく…だけど判ったから。

「まぁいい…がんばれ…」

そう言った葉月くんが…子供をあやすように私の頭をポンポン……。

---う〜ん…?

何だろ…この………感じは。



まぁいっか。
ともかく私、一応頑張ってる………よね?




















4/17





「もしもし」
「…もしもし」
「です、もしよかったら…」
「別にかまわない…」
「じゃあ公園入り口で待ち合わせね!」
「解った…」











 








4/24





公園入り口はお花見客で賑わっていた。
取り合えず無事、まっすぐ公園入り口に辿り着いた私はその安心感から来る疲労感に襲われてた。

「葉月くんまだ来てないみたいだし…」

だから、少し休憩。入り口にあるベンチに腰掛け、空を見上げた。
勿論それに何か意味がある訳はない。

---ねーちゃんはちょっとボーっとしすぎ!

尽はそう言うけれど。

---マイペースも度を越したらイライラするよ!時間を無駄にするのはよくないと思うけど?

長い人生のんびりやろうよ尽君。

無意味にボーっとする時間が好きなものは仕方ないじゃない?と思う。
私にとって、尽のいうこの無意味な時間はとても重要なのだと頭のどこかが理解している。
だから私はこの無意味な時間を有意義に、そして無駄に過ごすのがとても好きだった。
そんな事をボンヤリ考えていると

「悪い…待たせたか?」
「ん〜…」
「どうかしたか?」
「待ってないよ…今来たところだし」
「そうか…」

葉月くんが現れた。
普通なら、待たされた…のかもしれないけど。
私にとっては、待たされた…ではなくて、貰った時間。自分にゆとりを待つための準備とも言える時間で。

「適当に歩くか…」
「うん!」

適当、うんイイネ!凄く好きな言葉です!!!
本当に適当に、のんびり公園を散策する事になった。





「芝生がいい色になったな……。」
「すごく…」
「ん?」
「眠りをそそる色が一面に広がってるよね…。」
「…だな。」

私は決してウケを狙った訳でもなく、素直にそう思ったんだけど何故に葉月くんは笑ってるんだろうか。
実際、もし今葉月くんが一緒じゃなくて尽と一緒だった場合、
私はここに寝転がって熟睡できる自信がある。残念だけど。
だから、芝生に腰を降ろしてのんびりしよう!と言っても怒られないだろうこの状況なら!
よし、勇気を出して…と提案しようと思った時。

「しっ…」
「え?」

---えーっと…うん、これは一体???

ドスン?ゴスッ?いや、擬音はこの際どうでもいいとして、何故か私の視界に広がる景色が一転した。
さっきまで広がっていた公園の景色が、
青空に浮かぶ葉月くんのアップという理解できない景色に変わってた。

「静かに…」

そして、そう小さな声で呟くと、シー…っと人差し指を立て静かにするように言う葉月くん。
言われるまま、静かにボーっと眺め…てふと気が付いた。
青空背景が凄く似合うんだ、葉月くんて。
おまけにリラクゼーション効果でもあるのか?
不思議な景色をボーっと見上げてたら意識までボーっとなりそうになる。
そんな中でどこからか聞こえる慌しい声にハッとなり、

(見失っちゃったぁ…)
(勘違いじゃないの?)
(間違いなく葉月珪だったって!)
(でもいないよ〜)
(よく撮影とかくるって書いてあったから間違いないよ!あっち探そう!)

ふんふん、なるほど。
葉月くんの行動の全て…ではないけど、なんとなくこうなってる原因が判った…かもしれない。

「行ったか…」

けれど、それよりも気になる事を見つけてしまった私はそっちに意識が集中してそれどころじゃない。

「そのようですね…」
「ああ…」
「それよりもですね…」
「あ…悪い」
---いきなり悪かったな…。

そう言って身体を起こし、私を起こしてくれる葉月くん。
こ、これはもしやチャンスかもしれない。
基本、疑問はなるべく解消したいタチなんで、申し訳ありません、あのですね?

「あの…聞いていい?」

聞いてしまおう、聞いてしまえ!私!

「何だ?」
「あの…さっき…」

気付いたんですが…って聞くつもりが。

「たまにあるんだ…。のんびりしようと思っても、誰かに見つかるとそれもできない…」
「そっか〜…」

いや、そこで納得してる場合じゃないんじゃない?私!

「あ、そうじゃなくて…」
「ん?」
「葉月くんの…」
「俺の…?」
「瞳がね?蒼く見えたの。それって気のせいじゃないよね?」

さすがに…確認させて欲しいとは言えない。
状況が許さないだろうし、葉月くんが許すとも思えない。私としては、じっくり確認したい所だったけど。

「じーさんが…外人だから…な」

何だろう、葉月くんを覆うウンザリ感は?

「納得!!!!じゃぁ…」

溢れんばかりのウンザリ感が葉月くんから溢れてる。でも、どうしても確かめたかった。
この際葉月くんのウンザリ感は見なかった事にして。

「葉月くんの見上げる空は…いつも青空なの?」
「…えっ?」
「ほら!瞳が蒼いなら、もしかしたら曇りの日でも見上げた空は青く見えるのかなぁ?って」

だったらすごく羨ましい。羨ましいを通り越して妬ましい。
だから自分の知りたい事を知る、事を優先して聞いてしまった。す、すいません…。

「そんな訳…ないだろ普通…」
「えっ!?そんな訳ない…の?」
「当たり前だろ…考えたら解るだろ普通そんなこと…」

結果、ガッカリだ、とってもガッカリだった。
多分、その瞬間の私からは誰が見ても解る程のガッカリ感が溢れてたと思う。
ウンザリ感を溢れさせていた葉月くんのウンザリを私のガッカリが打ち消す程の大量のガッカリ感が。

「お前ほんと…変わってるよな…」
「そ、そうかな…」

そして私は知るのです。呆れを通り越したら人は笑うのだ、と。

「変わってるホント…」

でも、それで葉月くんのウンザリが消えたならいいか。たとえ呆れてるんだとしても。
ウンザリされるよりは多少マシ、って事にしとこう。

「そろそろ帰るか…」
「そうしましょうか…」
「それじゃ…」
「またね!」

公園入り口、待ち合わせをしたその場所で、私は葉月くんと別れた。
よし、帰ろう!そう思って歩き出そうとした…んだけど。
何故だか私の足は動こうとしなかった。
それは、もしかしたら帰っていく葉月くんに背を向けて歩き出す事が勿体無い気がしたからなのかもしれない。
結局私は葉月くんの背中が見えなくなるまで、ずっとその場所でその背中を見送っていた。



何だろ…この………感じは。



まぁいっか。
これでも、私頑張ってる訳ですよ………?