01.鳥になりたかった…という願いが叶う、一部だけ。



自由が無かった訳じゃない。
好きな場所へ行けなかった訳でもない。
私には確かに自由があった ────────── けれど。
私は鳥になりたかった。
翼を広げ風に乗り、大空を自由に飛び、好きな場所へ好きな時に行ける鳥になりたかった。

それが仕事に追われ、時間に追われる日々に忘れていた。
あんなに”鳥になりたい”と願っていた”夢”を忘れ、私はただ日々に追われて過ごしていた。
そんな、私にとって当たり前の日々は突如終わりを告げた。





不景気が影響して会社の残業は無情にもサービス化し、定時以降は否応ナシにタダ働きをさせられている。
そんな、過酷な労働条件下での久しぶりの休日だというのに私は何処へ出かけるでもなく部屋でボーっと過ごしていた。

「はぁ〜っ…。」

ソファに座り、ついてるだけのテレビを眺めては溜め息を吐いて、それにも飽きてソファに寝そべって暇を持て余す。

「暇だ…。」

忙しい時はやりたい事が出来ないと愚痴っていたのにやっと出来た時間をどう使えばいいのか?が解らない。

「結局これしかないか…。」

出掛ける気は毛頭無く、となればもはや私に残された道は一つ。

「寝よう。」

ベットに移動するのも面倒で、どうせ昼寝だから…と
そのままソファで目を閉じて ────────── どこまでも広く、長い長い夢を見る。

『ようこそ夢の狭間へ…。』

そして、どこか遠くに何かを聞いた。



私は白い壁に覆われた小さな部屋の中に横たわっていた。
私という存在以外、私と白しか存在しない小さな部屋の中にたった一人で。

「ここは何処?」

コンコンと床を叩きながら私は考えて思い出す。

「これは夢?」

眠りに入った頃、遠くに聞えた声を。
そして、此処は私の夢の中なのだと結論付けて。

「この壁って…。」

叩いていた床に手を這わせ、感触を確かめてふと気付く。
この感触がアレに似ている事に。

「卵の殻みたい。」

白く薄い卵の殻に似た壁は感触が卵の殻そのもので

「っていうかここは何処?」

この不思議な場所はもしかしたら夢なのかもしれない…と思えば不思議も案外どうでもよくて。

「温かいなここ…。」

何かに包み込まれるような温もりに、私がウトウトし始めた頃

”コンコン”
”コンコンコン”

外側から叩いているような音が聞えてきた。
妙にリズミカルで心地よい音。
合図か何かをしているようなその音に、私はウトウトしながらも

”コンコンコン”

応えるように床を叩いた ────────── ら。

「えっ!?」

真っ白な壁が突然音を立てて崩れ始めた。

「眩しっ!」

そして、差し込んできた陽射し?に思わず顔を覆ったけど

───── 何かおかしい…。

目が陽射しに慣れ始め、辺りの様子が視界に入り始めて状況の異様さに気が付いた。
先ず、辺りに見える全てが通常よりもデカい。
そして、私を見つめている(見下ろしてる)視線の主が烏だった。
さらに、烏達よりも上から私を見つめている(見下ろしている)人の顔が信じられない程巨大だった。

「何っ!?一体何事なのっ!?」

っていうか私は何時の間に着物に着替えたの!?(しかもボロいし)
これって夢だったんじゃないの!?(オチも見当たらないし)

「痛っ!ちょ…っ突付かないでよっ!」
『悪ぃ…つい。』
「判ってくれれ…ばっ!?」

おまけに、私は目の前にいる烏(の中でも一番大きくて艶やかなヤツ)と普通に会話してるし!

「あっ…あのっ…。」
『どうしたんだ?』
「(どうしたもこうしたもあるか!)」
『何か聞きたい事でもあるのか?』
「(聞きたい事だらけだから!)」
『見てみろ、主もお前が産まれた事を喜んでいる。楽しみにしてたからな…。』

主(あるじ)って何!?
産まれたって何!?
私は嫌な予感がした。
自慢じゃないけど私の悪い予感だけは100%の確立で的中するのだぶっちゃけ怖くて見れない ────────── けど。
烏が見上げる方を恐る恐る見上げてみれば、信じられない程巨大な顔をしていた人が私をじーっと見下ろしていた。

「…………………………どっ、どうも。」
「…………………………。」
「(日本語が通じない?)」
「…………………………。」
「はっ、はろー…?」

よく見れば、日本人に有るまじき髪色をしてる巨人。(無駄に派手なオレンジ色?)
よくよく見れば、顔にペイントまで入れてる巨人。(ワンポイント?)
よくよくよーく見れば、全身迷彩柄で統一してる巨人。(サバゲマニア?ミリオタ?)
っていうか、どうみても相手が巨人じゃなくて私が小人になってるようだ何故に!?

「妖の類…?」
「バリバリの日本語じゃん…。」

つまり、相手は外人の巨人じゃなくてサバゲマニアの日本人で烏を飼ってる不思議ちゃん?

「あのっ…ここはどこですか?」
「にしては妙だしな…。」
「あのっ!アナタ誰なんですか!?」
「ってそんな顔しなくても捨てたりしないよ俺様。」

おっ、おっ、俺様ぁ!?
っていうか俺様!いきなり人の襟首摘んで手のひらに乗せて凝視しないでよっ!

「あのっ…俺様?」
「害はなさそうだし…面倒見るしかなさそうだねこりゃ。」
「ちったぁ人の話聞けよ俺様っ!!」
「っ!?」

と、俺様は突然口元を押さえて私から顔を背けた。

「今ものすごーく癒されたよ俺様とした事が…。」

成る程そうだったのか…って違うし!

「ねぇ俺様!私の言ってる事判ってるんでしょ?何で無視すんのよ!」
「旦那が見たら喜びそうだな。」
「ねぇ旦那持ちの俺様!アンタの性癖はこの際とやかく言わないから返事しろってば!」

何で日本語を話す不思議ちゃんと会話が成り立たないんだろう。
この俺様って人はもしかして不思議ちゃんじゃなくて電波!?
電波でも不思議ちゃんでも旦那持ちでもどうでもいいからちゃんと答えてよっ!
私はただソファで昼寝して夢見てただけなのに!!

───── 夢見てた…だけ?

夢の続きにしては妙にリアルな状況に、私はこれが現実なんじゃないか?って錯覚してた。
けど、もしかしたらこれも夢の続きで私は自分が抱いていた”鳥になりたい”って夢を夢で叶えただけの事で

───── これも…夢?

今こうやって悩んでるのも全部夢の続きで私の勘違いでそのうち目が覚めたらソファに寝そべってるだけなんじゃ?

「名前はどうするかねぇ…花子?」
「や、それは勘弁して。」

夢なら慌てる必要は無い ────────── んだけど。

───── さっき私痛いって…痛いって言ったよね!?

烏に突付かれて感じた痛みは明らかにリアルに感じた物だった。
つ ま り !

「夢じゃないのっ!?何で!?」

こんな事、私はこれっぽっちも望んでない!
私がずっと抱いていた夢は”鳥になりたい”って事で…って!?

「まっ、まさか…。」

卵から産まれる部分だけ夢が叶って後はオプション仕様だとか!?

「そっ、そんな詐欺みたいな…。」

いや、詐欺云々の前にこれが現実って事をスルーしてる場合じゃない。
もし本当にこれが現実だったとしたら私は一体どうなってしまうの?
そりゃ軽く現実逃避した覚えはあるけどここまで突飛な現実逃避をした覚えは全く無い。

「これからどうなるの…。」
「寒いのか?」

寒くねぇよ寒くて震えてんじゃねぇよ空気読めよこの俺様っ!!




(タイトル反転で何か出てくる仕様です。)
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2010.05.06