02.産まれたことり…は何故か人型癒し系。 その鴉は俺様が飼ってる訳じゃなかった。 気まぐれに餌をやったら妙に懐かれて、その様子にささくれ立った気持ちが癒されたからまた餌をやって。 それを繰り返してたある日、冗談交じりに”向こうの様子見てきてくんない?”って言ったら 本当に様子を見て来るわおまけに何処かの忍が領内に入り込んでたのを見つけて知らせに来るわで驚いた。 「へぇ…お前、俺様の言葉が理解出来るんだ。気に入ったよ。」 鴉は元来頭の良い鳥。 そう言った俺様の言葉も理解したのか”カァカァ”鳴いて頷く仕草に再び癒されて 「俺様が呼んだら来てくれよ?」 ”カァー” 返事をした事に三度癒されて、いつの間にか俺様の従順な部下になっていた ────────── というのに。 その鴉が突然来なくなった。 ─────俺様が呼べば直ぐに姿を見せてたってのに…。 普段の俺様なら”仕方ない”で終わりの筈が、妙に気に掛かる事が気になったもんで あの鴉が巣を置いてる森に出向いて巣を探してみれば 「お前の子か?」 ”カァー” 周りにいる、時折俺様の所に遣いに来る他の鴉と交互に大切そうに卵を温めていた。 確か鴉の子は二十日前後で孵る筈。 「仕方ないから休暇をやるよ、大切に温めてやんな。」 あれの子なら頭も良い筈で、小さな内から俺様の手で育てればあれ以上に使える鴉になるだろう ────────── そう踏んで。 俺様は雛が孵るのを楽しみにしてたっていうのに。 まさかあんなのが産まれてくるなんて流石の俺様だって想像しなかったさ…。 昨日で丁度二十日が過ぎた。 良く見れば外殻に亀裂みたいなものが入ってるのも見て取れた。 「そろそろか…。」 だからその殻を指先で小突いてみれば ”コンコンコン” 案の定応えるように中から小突く音がする。 が、中から殻を割れないのか一向に雛が出てくる気配がない。 「手伝ってやるか…。」 自力で殻を割れない雛はおそらく死ぬ。 折角ここまで見守ってきた雛に死なれるのはちょっともったいなよねぇ?と 俺様は卵を苦無で軽く叩いて割ってやった…が。 『…………………………ぴぃ。」 「(何これ何で鴉じゃないの!?)」 『…………………………。』 「(俺様を…見てる?)」 『ぴぃ…ぴぃぴぃ。』 卵から産まれたのは雛でもなけりゃ鴉でもなくてどっからどう見ても人間だったしかも着物付きで鳴き声だけ鳥の雛。 「妖の類…?」 『ぴぃ…。』 疑うのが俺様の仕事だから?疑って…ってこれの何処を何をどう疑えばいいのか?見当も付かない。 俺様をじーっと見上げ、不思議そうな表情を見せる雛の襟首を摘んで手のひらに乗せてみればちょこんと手のひらに座る雛。 『ぴぃ…ぴぃぴぃ…。』 「にしては妙だしな…。」 『ぴぃっ!ぴぃぴぃっ!?』 「ってそんな顔しなくても捨てたりしないよ俺様。」 そして、不思議そうな表情を曇らせたかと思うと急に慌て始めた。 まるで俺様が疑ってる事に気付いて何かに恐れるかのように。 ───── 姿は人型だけどそれ以外は鴉…か? 本当にこれはあれの子なのか?は疑問は残るが。 鴉は我が子を自慢するかのように俺様を見つめてる。 そんな喜ぶ姿を見て、怯える雛を見て問答無用で処分するには情が移りすぎたかもしれない。 雛でありながら俺様の言葉を理解してるのか、確かに言葉に反応する雛の 『ぴぃ…ぴぃ?』 「害はなさそうだし…面倒見るしかなさそうだねこりゃ。」 『ぴぃぴぃぴぃっ!』 「っ!?」 鳥が羽を動かすが如く手を動かす姿に思わず口元を押さえて雛から顔を背けた。 「今ものすごーく癒されたよ俺様とした事が…。」 いやほんと冗談抜きに癒された挙句骨抜きにされたかもしんないねぇ。 『ぴぃ!!ぴぃぴぃぴぃっ!ぴぃっぴっ!』 「旦那が見たら喜びそうだな。」 『ぴっぴっぴっ!ぴぃっ!ぴぴぴっ!』 ただ、旦那に見せんのはもうちょっと後の方がいいかもしれない興奮しすぎて握りつぶしかねないし。 「名前はどうするかねぇ…花子?」 『ぴ、ぴぴぴっぴぃ。』 何となく却下されたのは判った。 『ぴぃぴぃ………。』 「寒いのか?」 よくよく見れば着物は随分薄汚れてる。 木の上は風通しもいいし手のひらに乗せたまんまってのもあんまりか。 「お前の子…俺様が貰うけど構わない?」 ”カァーカァー” 鴉は”構わない”と言ってるのか俺様の上を数回旋回し、肩に乗って数回鳴いた。 「じゃあ貰ってくよ。」 そして俺様は雛を貰い受けたのだった。 ───── やっぱり名前がないと不便だしねぇ。 「小鳥…”ことり”でいっか。」 それが、俺様と”ことり”の出会い。 (当然意思疎通は叶わない。) -------------------- 2010.05.08 ← □ →