01.それはジーサンから始まって?



『は少し心配性過ぎるのよ。』

そう私に言うのは親友の。彼女曰く、私は少し心配性というか苦労性?らしい。

『はのんびりし過ぎだと思うわ。』

なら、私が思うにはかなりの(というか度を越えた)マイペースだろう。
そんな私とは俗に言う幼馴染というヤツである。骨の髄 ───── というよりもはやDNAレベルからお嬢様であると、
至極普通の一般家庭に育つ私が何故幼馴染なのか?は私がお伺いしたい位なんだけれどもともかく。
幼馴染というか腐れ縁というか、切っても切れないだろうし切ろうにも切りようがない私とは昔と変らない割れ鍋に綴じ蓋と
称される関係を延々持続していた。やがて私達も短大を卒業し、無事就職して一年と半年が過ぎた頃、私の元へ小さな小包が届いた。
それは京都で骨董屋を営むお祖父ちゃんからの今更かよっ!?な就職祝いの品で勿論二人分。
明日は第二土曜で仕事も休みだった事から、私はそれをに渡す為メールで簡潔にその旨を連絡し、翌日彼女の家へと出かけた。
それがまさかあんな事になるだなんて、誰が想像しただろうか ────────── 。










「流石はおじい様、とても良い品ね。」
「そうかもしれないけど…。」

丁寧に包装され、桐の箱に収められていたのはアンティークらしき懐中時計 ────────── だったらまだしも、
何故かんざしなのか正直意味が判らない。確かに綺麗なのは綺麗だけどこうも実用性のない品とは流石お祖父ちゃん。
さっぱり意味が判らない。

「使いようがないのに何でかんざしなんか選んだのか意味が判らないわ。」
「それは多分晴れ着に合うと思われたんじゃない?」
「晴れ着って成人式の?」
「ええ。纏め髪の後ろに刺せば映えるんじゃないかしら。」」
「でもね?成人式って確か一年半前よね。」
「ならこれは就職祝いではなくて成人のお祝いなのよ。」

そうか。成人式祝いなら納得だよねー!って言い切っていい問題じゃないんじゃないだろうか。
お祖父ちゃん、かなりズレてるからもしかしたらウケ狙い!?な訳ないか。ボケてなきゃいいんだけど。

「まぁお祖父ちゃんらしいっていえばらしいからいいか。」
「私の分もキチンとお礼を言っておいてね?」
「判ってるって。」

もはや、苦笑せざるを得ないって気分だったけどこれもお祖父ちゃんの気持ちだし ───── と、
シャラシャラと音を鳴らすかんざしを振っていた時だった。

「ねぇ。」
「何?」
「微妙に音が違うのね、これとそれ。」
「ん?」
「ほら、私の方は少し音が低いわ。」
「あら ───── ホントだわ。」

色違いの二つのかんざしが奏でる金属音。金と銀の二つのかんざしの鳴らす音。
それが、ただの金属音ではなく何かの音色のように旋律を奏で始めた時にはもう遅かった。

「ねぇ。」
「それ以上言わなくても判ってるわ。」
「ならいいんだけど、どうしましょう?」

正直、どうしましょう?どうする?ってのんびり言ってる場合じゃなかった。
振ってるわけでもなく、既に手から離しているというのに二つのかんざしは音を奏で続けていて。

「ねぇ。」
「何?」
「気のせい?」
「だったら良かったんだけど ───── 現実かしら?」

かんざしの奏でる音色の向こうに声が聞えてきた。

『 ────────── 金が七つと銀五つ
 七つと五つで扉が開いた。  
 鍵は蝶々 蝶々二つ
 渡る蝶々 金と銀 ────────── 。』

その言葉の意味は判らない、けれど理解は出来た。だって私の部屋だったこの場所が既に違う風景に変わっていたから。

「ねぇ。今私が考えている事、判る?」
「うん。多分私と同じ事考えてると思うわ…。」

おまけに、言葉の示す扉らしき物が私達の後ろに存在していて。

「どうしましょう。」
「うーん、どうするべきかしら?」
「扉は開いてないみたいだけれど。」
「閉じてるだけで開くんじゃない?」
「要するに、開けてみろって事かしら?」
「私なら開けないわ。扉の向こうは100%厄介事が待ってそうだし。」
「でも面白そうじゃない?扉の向こう側は確かに厄介事かもしれないけれど…。」
「輝かしい未来があるかもしれない、って言いたいのね?」
「ええ。だってあの扉の向こうには”未知との遭遇”が絶対あるに決まってるもの。」

私は平凡でいいから普通の生活を望む一般人だがはそうじゃない。
度を越えたマイペースな上にそういう厄介事が大好きだからタチが悪い。彼女のお陰で私がどれだけ被害を被った事か!

「ホントってそういうの好きよね。でも私を巻き込んで欲しくないんだけど。」
「ムリじゃない?だって…。」

なのにはニッコリ微笑んで私の手を取る。どうやら私に拒否権は無いようだ。
というか、それ以前に私に拒否できるだけの理由がなかった。この場所には”扉”しか存在しないから。
つまり、私達の行く先は扉の向こう側しか無い、という事だ。

「素敵な出会いがあるといいわね。」
「そんな物、絶対必要ないから!」

とはいえ、見知らぬ扉の向こう側にそんな物を期待するの神経が解らないし行きたがる理由が解らない。
天国or地獄?と聞かれたら私は大声で”地獄だ!”と叫ぶ自信がある。
というか、別にムリして扉を開いて向こう側に行く必要が何処にある?

「ねぇ、このままここに居ても問題ないんじゃない?」

そう、ここに居座り続ければ(誰か知らないけど)根負けして扉も消えて元通りになるんじゃないだろうか?
なのに無理(無茶)して扉の向こう側に行く必要性など皆無だ。
扉の向こうにあるのが元居た私の部屋だった。という結果は間違っても思い浮かばない。
思い浮かぶのは”過去”や”未来”や”見知らぬ世界”に放り出されるというありえないパターンだけで、
それを解っていながら無謀な挑戦をしようというをどうして私は制止できないんだろうか。

「解ったわよ。行けばいいんでしょ行けば!」
「ええ、それじゃ行きましょうか。」

私がを制止出来ない理由は単に、過去一度たりともを制止できた事が無いからだった。
人間、果敢に挑戦する事よりも長いものに巻かれる方が生き良いと思う。
私はという長いものに巻かれ続け、チャレンジ精神を失ったんですよええ悪いかっ!
それくらい、は強烈だった。私じゃは止められません!

「ホント後悔しても知らないからね?」
「しないわよ?今と一緒に行かなかったらそれこそ後悔するもの。」
「ハイハイ。」

もはや開き直らねばやってられるか!と、私は自ら率先して扉を開き

「行くわよ〜!」

の手を取りその扉を開けた。そして ──────────────────── 。





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2009.12.21〜2010.02.09