16.えすえむぷれいなう。



外出許可の下りた千鶴ちゃんが選んだのは私(達)の予想通りの選択肢だった。

「助さん格さん、私…外出は諦めます。」

に肩を抱かれ、項垂れ気味でそう呟いた千鶴ちゃんに若干の罪悪感を感じつつも

─── これで残ったフラグは左之さんと一ちゃんルートのみ…か。

今後をどう立ち回るか?を考える。
今回千鶴ちゃんが迷いながらも私(達)の希望するルートを選択してくれたのはの言葉の先導によるもの。
そしてそのを先導したのは私の先導によるもので、全ては私(達)の思惑通り左之さんEDへまっしぐらなのだが。

「浮かない顔だな助三郎。」

いつの間に?千鶴ちゃんを解放したんだろうが格之進の顔で振り返る。
に指摘される程、私は沈んでいるんだろうか?

「浮かない顔…か。」
「その表情から察するに…暫くは無いのでしょう?原田左之助との接触が。」
「その通りだが…。」
「折角選択肢を間違わずに選んだというのにこれまでのように直後の接触という飴を奪われ…。」
「………。」
「まるでお預けを喰らっている駄犬のようよ。」

駄犬扱い!?いくらなんでもそれはないだろう相棒よ。
とジロリにらんでも効果など無く

「大した接触も会話もないクセに無駄なフラグだけはおっ勃てて?」
「疑問符を外せ格之進。」

寧ろ漢字が違っとるわこのお下品女め。

「好きで立てた訳じゃない。」
「オマケにまだ始まったばかりだというのに残りのフラグが2ルート。」
「………何が言いたい。」
「格之進の一言によって千鶴は一の元へと向うのであった…まる。」
「えぇい不吉な事を言うな!」

ってアンタまさかこの期に及んでこの私を裏切ろうと!?

「何度言わせるつもりなの?何度言えばその緩い腹を括るというの?」
「緩くて悪かったわねっ!」
「アナタのふくよかなお腹の事はどうでもいいのよ。」

振ったのは貴様だろうが!
大体何度言わせるつもりなの?とか遠回しに責める必要無いと思うのは私だけか!?
ちょっとほの暗い雰囲気や辛気臭い顔を見せる都度にやれ”ヒロインなんぞ敵ではないわ!”だとか”己の本能に逆らうつもりか!”
だとか耳の痛い事ばっかりグチグチ言うし?

「諦める方向で腹を括ったというのならそれなりの態度を取りなさい、。」
「っそれは…。」
「諦め切れないというのなら沖田の屍を越えていく覚悟を決めなさい。」

グチグチ言ってると思ったら意味不明な呪文唱えやがって…。
てかアンタどんだけ沖田が嫌いなんだよ屍って。

「私は…。」

左之さんEDは見たい。
真っ直ぐに左之さんEDに進みたい。
でも私じゃない誰かとのEDを見たい訳じゃないし、寧ろそんなED見たくない。

「今此処に居るのは”雪村千鶴”よ?」
「っ!?」
「雪村千鶴という一個人が存在するのよ?」
「判…ってるわ。」
「画面上に存在した”雪村千鶴”という少女の姿を借りた””ではないのよ?」
「だから私はっ!」
「そして画面上に私達は存在しない。」

─── だからね?チチ臭いヒロインなんざ私達の敵ではなくってよ?ってアンタ何回その台詞を言えば気が済むんだーーー!!





と、いう訳で。
PLAY開始からまだそんなに過ぎてるようで過ぎてないようで、赤い彗星モードだったら数分で過ぎた日々を
リアルタイムで半年過ごした今日この頃っていうか選択後の翌日。
建前:暑さから逃れられるかもしれない、本音:ヤツが居る筈だから(多分8割冷やかし)を実行すべく
暑い日差しに臆する事なく中庭へ向った。
三人並んで暑い日差しに晒された直後敗北を認め、木陰に移動してボーっと過ごす中で感じる気配。

─── 来る…ヤツが来る!

チラリを見やるともそれを感じていたよう………だったけど私はを見た事自体を直ぐに後悔した。
は誰がくるのか?を感じているのか恐ろしく妖しい笑みを浮かべている。

─── 嗚呼何か恐ろしく嫌な予感がする。

山南さん相手に一体何やらかす気なんだろう凄く嫌な予感がする。
そんな悪寒にブルリ身体を震わせ ────────── た時だった。

「……まさか。ね」
「何が『まさか』なんですか?」
「!」

千鶴ちゃんの小さな呟きを合図に山南さんが姿を現した。

「わ、山南さん!起きていても大丈夫なんですか?」
「私が寝たきりの病人か何かのような言い方はよしてください。何の問題もありませんよ?もっとも、左腕は寝たきりですがね…。」
「上手い!」

訂正、姿を現し自虐的発言と共に微笑む山南さんにKYなツッコミを入れたがその場の空気を凍らせた。
瞬間山南さんの表情がピキリと音を立てて凍りついた。
そらそーだ。
山南さん的には死にたい位にドン底まで落ち込んでる状況での自虐ネタだっていうのにはそのネタを軽くスルーして
本気ネタをギャクに貶めたんだから。
何ていうかご愁傷様です山南さん…と心の中で山南さんに向けて合掌しつつ、
けれどフォローする程神経太くないんで静かにその動向を見守る事にした ────────── けれど。

─── っし…ぬかもしれな…ぃ…。

場の空気が凍りつき、一瞬は涼しかったものの日差しは容赦なく。

─── ダメだ…会話が耳に入ってこ…な…ひ。

「ありがとうございます。君も体調には気をつけてくださいね」
「はい!」

が最初のツッコミ以降口を噤んだ事に気が緩んだのか私はただひたすら日差しと戦っていたクソ暑い…。










そして暑さに完敗した私は忘れていた。
山南さんの後にやってくる夕方ラストのイベント…とまではいかないけれど、後一人とのやりとりを。
決して忘れるべきではなかったあのやりとりを暑さの所為ですっかり忘れていた。
その結果、私は頭を抱えたくなるような会話を襖越しに聞く事となる。

「まぁ私としては人様の嗜好にとやかく口を挟むつもりはありませんがそれは些か…。」
「ちょっ!?おまっ何っ!?」
「ロウソクまではまぁ…有りだとは思いますが流石に五寸釘は多少…ねぇ?」
「いやいやロウソクが有りの基準が判んねぇって!」
「五寸釘がムチであれば…合格なんですがね。」
「合格って何だ!?何に合格しろっていうんだ!?」
「どんな行為に性的興奮を覚えようと永倉さんの勝手ですが…まさか?」
「どんな想像だそれ!勝手言ってんじゃねぇよ!ってかまさか?って何だよ怖ぇよ気になるじゃねぇか!」
「聞きたいですか?」
「怖くて聞けねぇよ!」
「千鶴はどうです?聞きたくありませんか?」
「…よく判りません。」
「助三郎はどこだあぁぁぁぁ格之進を止めてくれえぇぇぇぇぇぇ……。」




ゴメン無理。










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2011.09.27