序.01



「おっはよおぉぉぉいっちごにあんずぅぅぅぅぅっ!」
「朝からうっとおしいんだクソ親父がっ!」

バキッ!ゴキッ!

朝から激しいスキンシップを交わす親子。
アタシはそれを尻目にテーブルに着き

「おはよう杏子姉ェ」
「杏子姉ぇが寝坊なんて珍しいよね!」

アタシを姉と呼ぶ、これまた見覚えのある少女二人と朝食を取る。
まて、安穏と朝飯喰ってる場合なの?これって???

「っあの…ちょっといい?」
「どうした杏子?パパに何かお願いでもあるのか!?そうかそうか…」

や、お願いなんてないから!だからそんなにキラッキラに瞳輝かせて近付かないでっ!

「あの…ちょっと確認したいんだけど…いい?」
「っ!?」

ともかく今は、多少でいいから確認したい。夢か幻か、妄想なのかそれとも…。
とーもーかーくっ!これだけは確認しとかないとマズイ、精神的にヤバイ。
そう思って控えめに、何かを演じるように、もしかしたらもしかする人に尋ねてみた。
その相手が恐ろしく期待に満ちた目をしているが、今はスルーだ。

「あの…ね?おっ…」
「おっ?」

(ヤベ無理かも…。怖くて聞けない)

葛藤、ってこういう時にするもんなんだ。なんて呑気になるのはもはや逃避なのかもしれない。
だって、だってよ?これを夢としなくて何とする!?
リビングにいるアタシ以外の大人1・子供3はどこからどうみたって

(黒崎一家じゃねぇかこれっ!!!)

そう言わざるを得ないメンツが揃っていた。
黒崎一心・一護・夏梨・遊子の黒崎親子。
それは、現在好評連載中の人気漫画であり、アタシ的最近HIT作品の登場人物だ。
漫画好きなアタシにとって、これは最近特にお気に入りで…って何作品紹介してんのアタシっ!
そうじゃない、じゃなくて!
百歩譲ってこれがアタシの夢だとして、だ。
そこにアタシが姉って…何?アタシ、妄想とか妄想とか妄想とか確かに好きよ?好きだけど。
流石に自分を家族にして妄想なんかしないっ!アタシは腐専なの!ぼーいずらぶ派なのっ!
だからそんな夢、間違っても見たりしないし見るはずない!だ・か・ら!

「杏子?お前熱でもあんのか?さっきもボーッとしてたけど…」
「っあの…杏子…って私の事よね?」
「「「「………は?」」」」
「えっ?ち、違うの!?」

埒があかないから当って砕けろ!って聞いたら聞いたで四人が驚いてアタシを見た。
ちょ、今更違う!って言われたらじゃ杏子って何!?

「一護、今日は杏子は学校をお休みする、担任に言っとけ。」
「っああ…マジ熱あんのかもしんねぇ…しな…。」
「や、ちょっと…熱なんかない…し…」
「だめー!杏子姉ぇは今日はお休みして寝てて?寝てなきゃだめー!」
「学校行ったら許さないからね!絶対一日寝てなきゃだめなんだから!」

何この過保護一家…。
父親らしき黒崎一心さんは、アタシを見る目に涙を浮かべ
兄か弟らしき主人公、一護はアタシを困ったような顔で見つめ
妹だろう遊子と夏梨はアタシの手を握り、
言う事聞いてくんなきゃ泣いてやるから!そんな目で見上げてくる。
折れるか、折れずに我を通すか?
いやその前に、一番あやふやな位置にいる黒崎一護のアタシとの関係を確認しておかないと。

アタシはアタシの手を握る、二人の妹(?)の手を
言い聞かせるような微笑で手放させる事に成功し、
そのまま一護の側に寄ってモジモジ(?)しどろもどろながらに聞いてみる。

「あのっ…一護…さん?」
「………は?さん…っておま…マジ大丈夫なのか?」

(げ、やっぱサン付けはマズかった!?)

「だいじょ…っな──!?」

と、焦るのも一瞬、違う意味でアタシを焦らせたのは勿論黒崎一護その人で。

「熱はねぇみたいだな…。」
「だだだだだだ…だからさっきから熱なんかないって…じゃないそうじゃないそうじゃないのよっ!」

事もあろうか、純情可憐な乙女の筈の黒崎一護がーーー!
ああああああああああアタシのおでこにおでこくっつけ…って
何ソレ考えられない!そんな事を仕出かしてくれた。
やばい、目の前に居る黒崎一護はアタシがオフィシャルBOOKで読んだ乙女一護じゃない!
ガッカリだわ…詐欺じゃないそれ!
そんな、悲壮感にも似た感情に支配されたのが間違いだったみたいで。

「杏子っ!?だだだだだ大丈夫なのか?一護布団を敷けーーーーー!」
「杏子はベットだろ…。」

過保護親父な一心さんは慌てふためきアタシを抱き上げオロオロしまくった挙句、

「や、だからちょっとい…っ一護に聞きたい事が…。」
「一護、貴様双子の姉である杏子に何をしたっ!」

何をどう聞き間違い(勘違い)したらそうなるのか?勝手な妄想を暴走させた挙句、
アタシを抱き上げたまま一護に殴りかかろうとする寸前までいく。
が、流れによってアタシはようやく確固たる自分の立場を把握する事が出来た。

「なっ!?何もしてねぇよっ!杏子!お前ちょ…親父に何とか言ってくれ!」

(双子…の姉だぁぁぁぁぁぁ!?)

「おい杏子!ボーッとしてねぇで早く親父を止めろっ!」

(って姉って部分に驚いてんじゃなくて現状把握を優先しないと…)

「お父さん、私は大丈夫だから。ね?」

「あああああああああああああああんずぅぅぅぅぅ…」

情報源はおそらく、一護が一番いいかもしれない。となれば。

「じゃ、学校行って来るから。一護、早く行こう」
「おっ…おぅ…」

一護と行動を共にする時間を作らなければならない、そう決めたアタシは
設定には存在しない、けれど今は存在してしまった黒崎家長女、黒崎杏子の性格等は
適当に無視して一護を伴って自宅を後に学校へと向かった。





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2008.08.15


	
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