本.04


ちきしょう!一体何がどうなっちまってるんだ!?
訳のわからないまま、俺は急いで階段を駆け下りた。
親父達がいる筈の、リビングは半壊誰の姿も見えない。

「親父!?夏梨!遊子!杏子!?」

誰を呼んでも返事もない、姿も見当たらないその代わり、
アイツが表にいた。壊れた壁の向こう側、見える巨大な影の主が。

「あれが…虚…!?」

身の毛がよだつ、足が震える、ってのを改めて感じる程、
それは圧倒的恐怖を俺に植え付けた。と、同時に襲ってくる嫌な予感。
どうして誰の姿も見えない?何故誰も返事をしない?
恐怖とは裏腹に、俺の足は虚に向かって一歩ずつ前に向かい俺は見つけた。
虚の手の中ぐったりする杏子の姿を。

「杏子っ!?」
「いち…ご?」

正直、そっからはあんま覚えちゃいない。
ただ、大切な姉を助けなきゃならない、どうにかしなきゃならないって事しか頭になくて、
どうにか出来る力もないくせに勢いだけで虚に向かい合った。

「バカ一護…っあの子達は…無事だから…っ気をつけ…」

傷付きながらも夏梨と遊子の無事を伝え、俺を心配する杏子。
そんな杏子をこれ以上傷付けさせるものか!
って、虚ってバケモン相手に勢いと気合だけでどうにか出来る筈もなく。
結局何も出来ない俺は死神に助けられ、そしてその死神の力を奪う形で力を手に入れた。

それは、俺、黒崎一護が死神代行?になった日。そして









何つーか、便利なもんだ。
翌朝、全ての騒ぎが事故という出来事に変わっていた。
たまたた壁際にいた杏子だけが、巻き込まれて怪我を負った。という形の事故に。
トラックが突っ込んで、壁が壊れたのはいいが杏子が怪我をした!って
怒り狂う親父も夏梨も遊子も、昨日の事は何一つ覚えちゃいない。

でも、杏子はどうなんだろうか?
俺より先に、何かに気付いたように部屋を出た杏子も、
親父達同様記憶をすり変えられちまってんだろうか。
俺だけが覚えてて、他の誰も覚えちゃいないんだろうか?

何かが変わってしまいそうな不安。
俺一人が家族の輪から外れ、変わってしまった事に対する不安が押し寄せる。
けれど、あちこち包帯を巻いた痛々しい姿の割りに口だけは達者な杏子が

「アタシ達双子なんだから、アンタがそんな不安がってたら伝染すんの!」
「不安がってなんかねぇし!」
「心配しなくても、大丈夫だって。」
「心配って…何も心配なんかしてねぇよ。」

聞きたい、確認したいけれど口にする事が憚られたそれを、たった一言で解消してくれた。

「アタシはちゃんと覚えてる。絶対忘れたり忘れたフリもしないから、やりたいようにやりなよ?」

それが、俺と杏子が抱える事になった、人には言えない【2度目】の秘密となった。





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2008.08.23



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