本.05


見知らぬ街を彷徨っているアタシ。
嗚呼これは夢なんだ。と、何処かでアタシは理解している。
なのに、ここが何処なのか?それを誰かに聞こうとして人を探して街を彷徨った。
けれど、すれ違う人も居なければ、通りを走る車の一台も存在しない。

見上げる空は澄み切った青空で、抜けるような空で。
アタシは建物の間、自分以外の誰も存在しないその場所で、ただ空を見上げていた。
そんなアタシを、誰かが呼んでいる気がした。
呼ぶ声が聞こえた気がして、その声の聞こえた方に歩いて行くアタシ。
と、突然世界が反転する。

見上げた空に空はなくて、空があった場所に建物がある。
上と下、反転した世界の空を歩くアタシは、ようやく自分がいる場所が何処なのか理解した。

『……か…。』

聞こえていた声にノイズが混じる。
TV画面に映る、砂嵐のようなノイズ。

『……て……いる……か…。』

そのノイズに徐々に慣れ始めるアタシの耳。
同時に、その声が近付いているのが判る。

『……聞こえ……か…。』

聞こえているか?
多分、アタシを呼ぶ声はそう言っているんだろう。
この場所が何処なのか?理解した時点で返事をする気は無くなっている。
だってここ、あそこじゃね?

「精神世界?」

一護の居た、一護の精神世界とは似て異なるこの場所は多分アタシの精神世界。
つまり、そこで聞こえる声といえばただ一つしかない。

「ゴメン、面倒事になりそうだから聞こえないって事で!」
『私は………だ』
「だから、聞こえてないってばー!」

アタシは急いで耳を塞いだ。うん、ものっそ無駄だった。

『一体幾度声を嗄らせばお前に届く?』
「届けなくていいから!何なら届け先変えてみる!?」

嗄らさなくていいから!喉は大切にしようそうしよう!
だから黙っていいってば!

『お前以上に私を知る者などこの世の何処にも居はしないのに』

知らんがな!むしろアタシは知らないフリしてる事を誇りに思ってるから!
だから黙れ!お黙んなさい!!

『お前の耳を塞いでいるのは取るに足らぬ恐怖心』

それ違っ!恐怖心なんかないし!
アタシの耳塞いでるのは手ですからーっ!つかそっちこそ聞けよ!
人の話を聞きやがれっ!面倒事は い り ま せ ん っ !
そんな、アタシの抵抗はやっぱり無駄で。
聞きたくないのに、絶対聞きたくない台詞を声の主は言い始めた。
やめろ、その呪詛みたいな台詞をそれ以上言うなーーーっ!

”敵は一人 お前も一人”
”何を畏れる事がある?”
”恐怖を捨てろ 前を見ろ”
”進め 決して立ち止まるな”
”退けば老いるぞ 臆せば死ぬぞ”

『叫べ、我が名は……』
「だから呼ばねぇって言ってんだろ!人の話しを聞きやがれっ!」
『泣いてもいいか?』
「勝手に泣いてろっ!」

マジいい加減にしろよ!その含みでアタシは後ろ、振り返りながら叫んだ…んだけど。
連続して叫んでしまった。つい、とか思わずとかうっかりと。

「ちょ!!!!!!!!」

そこにいたのは、想像していたのとは かーなーり 違う、奴だった。
まぁ?さすがに斬月ではありえないのは判ってたから多少覚悟はあったけど。

「キモイ……。」
『ヒドイ……。』
「いくら…っいくらBLEACHが脱色だからって…」
『仕方なかろう…。』
「だからって漂白されて真っ白な斬月のオッサンってどうなの!!!!!」

アタシの前、現れたのは、一護の斬魄刀【斬月:オッサンの上黒基調】の逆色バージョンな、
まっちろけの斬月のオッサンだった。





「で?アタシに何の用な訳?」
『ここまで来ておきながらシラを切るつもりか?』
「うぜぇな…。」

ビクッ!と一睨みで身を強張らせる仮称:白斬月のオッサン。
あれか?まさか黒くない、白い分ピュアなんです!とか言い出す気じゃなかろうか。

『何故我が名を呼ばぬ…』
「だって呼んだら最後、アンタストーカーになりそうじゃん。」
『名を呼ばれぬ斬魄刀の行く末は…』
「ストーカー被害に遭うコッチの未来はどうでもいいってか。」
『だって…。』

言うに事欠いて”だって”ですか?
いい年こいたオッサン姿で”だって”とか、キモイ通り越してキショイわっ!(同じか)

「大体、斬月のオッサンが出てくるより先に登場って、何様のつもりな訳?」
『目覚めてしまったからには仕方ないだろう。我とてまだ早いとは思っていたが…』

気分で口調変えるとか、今は何気分なんだコイツは!
いや、まてよ?白斬月っておかしくない?
白一護ならともかく、白斬月って…まさか!?

「アンタまさかとは思うけど、うっかり仮面とか着けたりしないよね?」
『一応デザイン画を用意してある。どれがいいか選んでくれれば発注するが…』

マテ、あの仮面は外注品なのか!?それはありえん!ってか許されんだろ!!
なのに、白斬月は何やら楽しそうにスケブを取り出し、
これどう?あ、こっちのが好き?とか一人ウキウキし始めるし。

「カンベンしてよ…何そのありえなさ!」
『お前が特別だから仕方の無い事。』

は?特別ですか?特別だから仮面も外注って

「んな言い訳通用すると思ってんの?はぁ?喧嘩売ってんなら買うよ?」
『言い訳ではない。これはマジでな?』

だから、マジでな?とか同意求めようとすんなっ!
中途半端の軽いノリが、無償に腹立たしい。
一発殴ってやったら諦めてくれるかな…?ってうっかり顔に出したのがマズかった。

『ゴメンなさい殴らないでっ!!』

妙に芝居じみた口調、仕草でアタシの反感を更に煽る。
そう、マズかったのはアタシじゃなくて、この野郎の方。

「一生やってろよ。アタシは絶対名前呼んでやんねーから。」

ここに来た時点で、アタシの中に浮かんだ名前がおそらく白斬月の名だろう。
だ け ど !!
このふざけた態度がものっそ気に入らん。
だ か ら !!
誰が呼ぶか。絶対呼ぶもんか。

『ヒドスwwwwwwwww我はお前を模しただけだというのに。』
「へぇ〜…………………。」

じゃ何か?アタシはそんなだって言いたいのか?????

『ふざけて隠し、とぼけて隠す。割り切って捨てて全てを諦める…』
「何が言いたい…。」
『求めたのはお前だ。お前が求めたから我が存在する。』
「なるほどね…」

要するに、この野郎がここにいるのは全てアタシが望んだって訳か。
まぁ、認めるのが癪に障るから絶対認めないけど。
確かに今後を考えれば絶対に何かの力は必要になる。
関わらない事を選んでも、それから逃れる術がないのはもはや歴然としていて。

『我を認めるか?』
「認めてやろうじゃないの。でも…」
『何だ?』
「今はまだ…寝てろ。今はまだアンタは必要じゃないから。」
『よかろう。しかし…』
「何よ…まだ何かある訳!?」
『我が名を呼…』
「さっさと帰れっ!!!」

名を呼べと、そりゃもうしつこく食い下がる白斬月(仮称)。
アンタの名前を今呼ぶわけにはいかないの!
声に出して呼んだら最後、アタシは…。

「オイ。」
『だから我が名を…』

グスン、と泣いてみせる白いオッサン。
この諦めの悪さは誰に似たんだ?????

「ったく、仕方ないヤツ…」
『………グスン。』
「大体さ、アンタの名前………」
『まぁよかろう。急ぐ必要もあるまいし』

コノヤロウ、どっちだよっ!!
結局、アタシはその名を呼ばないまま白斬月(仮称)をボコリ倒して目を覚ました。

(      か…。)

それが、アタシの中にあるヤツの名前。





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2008.08.24



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