本.06 一護に遅れる事数日、アタシは漸く学校へ通う事が出来るようになった。 その、アタシが休んでる数日の間に一護とルキアの間でやり取り(取引?)が行われ、 一護は死神代行デビューを果たしたんだけど。(一護から報告アリ) 相談した結果、アタシは知らないフリをする事になった。よって、 「よろしくね、朽木さん。」 「こちらこそ宜しくお願いします黒崎さん」 覚えてない事になってるアタシはルキアと初対面の挨拶を交わす。 あの夜、アタシはルキアが部屋に入ってきて直ぐに一護の部屋を出た。 だからルキアはアタシがあの日の事を覚えてるなんて夢にも思ってないだろう。 本当は、一護の部屋の押入れにいる事も知ってるんだけどね。 (始まっちゃったか…。) ルキアの登場が始まりの合図。次に起きる事は確か (織姫んトコか。) 虚化した織姫の兄貴の登場だったはず。 何も覚えてないフリをした時点で、アタシはどんな形でも関わるワケにはいかない。 どのみち、関わった所で何か出来るワケでもない。 となれば、しばらくは傍観する以外にアタシに出来る事はない。 アタシはただ、一護や織姫やたつき、ルキアが怪我をしないよう、 無茶をしないよう祈る事しか出来なかった。 その夜 慌てた様子の一護がルキアを背負い、窓から飛び出していくのが見えた。 多分、さっき感じた気配が織姫の兄貴で、それを追って一護達は織姫のアパートに向かったんだろう。 (確か…) 無くした心を埋める為に生前最も愛した人の魂を喰う、だっけか。 幼い妹を守り育てる途中で逝った織姫の兄貴の残した思いは一体どれ程の物だったんだろうか? であったアタシには判らなかった思い。 けれど今なら判る。優しい家族のある、今のアタシなら織姫の兄貴の気持ちが。 多分、アタシにとってその対象になるのは一護や夏梨や遊子で。 この先、多くの挫折を味わうだろう一護を想うと少し目頭が熱くなる。 守りたい一心で、味わった挫折からその都度立ち上がり強くなる一護はアタシにとって魂を分けた存在で。 アタシを心配し、自分に起きた事から少しでも遠ざけようとしてくれた一護は、 本当はアタシが全てをかけて守らなきゃならない存在なのかもしれない。 じゃあ以前の、であった自分が死ぬと悟った瞬間何を思ったか?をふと思い返してみた。 幼い頃、他界した両親の代わりにアタシを育ててくれた祖父母はアタシが高校入学を前に他界し、 唯一の肉親だった祖父母が他界した時点でアタシは世界で一人きりになった。 血の繋がる人間が、一人も存在しない寂しい人間なんだ。と、あの時のアタシは思っていた。 「ああそっか…」 アタシは死を悟った瞬間、先立つ不幸を詫びる先のない自分を思い出し、何故か安心したんだ。 死んだ両親も、祖父母もこれでアタシを心配しなくていいんだ。って何故かそう思ったアタシ。 この、二次元とも思える世界で生きていく事をすんなり受入れられたのも、 アタシは嘗て生きていたあの世界に絶望していたからなのかもしれない。 何の目的もなく、ただ生きてただけのアタシ。 夢とか希望とか、そういうものも一切無いままあの世界で生かされてたアタシ。 アタシはそんな世界にどこか絶望し、退屈していたのかもしれない。 そう感じた時、どこか悲しそうに笑う銀色の髪の死神の顔がふと浮かんだ。 退屈を嫌ったギンちゃんと同じく、だったアタシはどこかで退屈を嫌っていたんだろうか? 「何か顔が見たくなってきたかも…」 そんな、浮かんだギンちゃんの顔を思い出し、妙に感傷的になってきた。 「ちょっとコンビニまで行って来るから〜」 アタシは何故か、いてもたってもいられなくなってコンビニを口実に財布を握り締めて家を出た。 足早に向かった先、初めてギンちゃんと話をした公園内でどこかぼんやりしていたアタシの前 「女の子がこんな時間に何してはるん?」 やっぱり少し悲しそうに笑う、銀色の髪の死神が現れたのだった。 「ギンちゃんはこんなとこで何してたの?」 「散歩かなぁ。そういうちゃんは何してはったん?」 あの日のように、二人並んで座ったベンチに腰掛けるアタシとギンちゃん。 「急にギンちゃんの顔が見たくなってさ?ついフラフラ〜っと来ちゃったんだよねぇ。」 「恐ろしい無計画さやね、それは…。」 呆れたような口調だったけど、ギンちゃんは笑ってた。 アタシもこんな顔で笑ってたのかなぁ、と少し前の自分を思い出す。 大概の事を、適当に笑って誤魔化し続けたアタシ。 「ねぇギンちゃん。退屈ってさ、やっぱ嫌なもんだね…」 「どないしたん急に?」 「や、何となくさ、そう思った訳よ。そしたらギンちゃんに急に逢いたくなって…」 「やっぱちゃんは変わってはるわ。」 「だよねぇ…あはは…は…。」 そんなアタシをギンちゃんは、やっぱり呆れた顔で見ていたけれど。 「何かあったん?妙にしんみりしてるみたいやけど…」 「そりゃアタシだって悩める乙女心ってのを持ってるし?」 「それと僕に逢いたいってのとどう関係してるんやろか?」 「判んない…判んないの。ただ…ちょっと色々考え事してたら…」 「してたら?」 「アタシもギンちゃんと同じだったんだなぁって思ったら…」 「せやかて、僕に逢えるとも限らへんのにこんな時間に…」 「いいじゃん別に!思っちゃったんだから仕方ないじゃん!文句あんの!?」 「そないムキにならんでも。でも、ホンマに僕に逢いたかったん?」 「うん…。」 逢いたかった事、顔を見たかった事を素直に認めた途端、嬉しそうな笑顔に変わるギンちゃん。 あっ、あのさ?アタシはただ漠然と顔が見たいって思っただけなんだけど? って言いたいのに何処か言えない雰囲気になってきた。 あれ?ちょっとマズった? 「なぁちゃん。自分ホンマに僕と一緒に行かへん?」 呆れ顔は笑顔に、そして神妙な顔つきへと変わり、やっぱりいう事はそれかよ!みたいな。 「無理!」 「つれないなぁ…」 「だって、アタシまだ大切な物があるし。」 「それが無くなったら一緒に行く?」 「何かさり気なく物騒だよね、その発言て。」 「僕、ちゃんと一緒に居ったら退屈せぇへんなぁ思てな…」 「ならギンちゃんがこっち側に来ればいいじゃん。」 (そうすれば、悲しまない人だっているでしょ?) その言葉にギンちゃんは、また少し悲しそうな笑顔に戻る。 「ギンちゃんてさ、実はすごく判りやすいよね…。」 「そんなん言われたん僕初めてやわ…」 「そう?良かったじゃんおめでとー!」 「どうも…。」 何ていうか、あれだ。 逢いたい時に逢えたりすると、案外悩んでたり考えてた事ってどっかに消える物?って思う程、 アタシはいつの間にか自分の中にモヤついていた色んな事が無くなっている事に気付いた。 「ねぇギンちゃん」 「何?」 「ホントは散歩してたんじゃない…んだよね?」 「や、ホンマに散歩してただけや。ちゃん家の辺り…」 「は?」 「急に急いで出かけるの見えたから追いかけて来たんよ。」 「なら何でもっと早く声掛けてくんないのよ!」 「そない怒らんでも…」 「じゃ、アタシ帰る!」 「は?何やのそれ…」 「もうすっきりしたから?ほら!夜道は危ないし!」 「ホンマ、ありえへんわ…」 「大体あんましウロウロしてて見つかるの、ギンちゃんこそヤバイでしょーがっ!」 「僕、そんな下手売らへんし。」 「またねー!」 「ちゃん!?ちょ…送ってくから…」 「ばいばーーーーい!!」 あんまり遅くなったら大変だし、何よりそろそろ一護達が帰ってくるかもしれない。 アタシは呆然とするギンちゃんに大きく手を振り、 何か言ってるギンちゃんをそのまま放置して、急いで一人公園を後にした。 そう、アタシはとにかく急いでいた。だから気付かなかった。 アタシとギンちゃんの様子を、伺っていた人物が居たって事に。 -------------------- 2008.08.28 ← □ →