本.07 謎の横綱による織姫宅襲撃事件から数日後。 「それじゃ、また明日。」 「ああ、また明日。」 のんびり帰宅な一護と違い、帰宅の早いアタシはたまたま方向が同じだった石田と別れ、 アタシは商店街に向かっていた。 ちなみに、何故アタシが石田と一緒なのか?というと、つまり。 (これは想定外だったなぁ…) アタシ、手芸部だったのです。ええ、石田と同じ手芸部だったんですよ! その上、一応品行方正?で通ってる臭いアタシは、まぁ成績もそこそこ優秀で、その結果、 一護が今だ存在を把握してない石田と面識があったりしたから驚きだ。 (ちなみにアタシは石田を『石田君』と呼び、石田はアタシを『黒崎さん』と呼ぶ) ともかく、そんな関係だった石田と別れ、アタシは商店街で買い物を始めた。 切れかけの調味料と夏梨と遊子のおやつをスーパーで買い、あとの野菜は八百屋で…と、八百屋の前で 何を買うか迷っていた時だった。 隣に誰かの気配を感じ、お使いの子供かしら?それとも近所のオバサンが買出しに来てるのかなぁ? と、ふと隣を見やったアタシは (……………っ!?) アタシの隣に並び、野菜を物色する人物を見て思わず口を押さえた。 危ねぇ危ねぇ、いやホント口押さえなかったらポロッと言うとこだった。 「何か…?」 「い、いえ…。」 けれど、アタシの視線は十二分に不審で、疑問に思ったんだろう向こうからアタシに声を掛けてきた。 驚く反面、相当嬉しい。これはガチ。でもヤバイ、相当ヤバイ気もする。 現状でアタシがこの人と関わる理由は無いし、必要がない。 それ以上に、この鋭い人物に目を付けられては何か厄介な事になりそうな気がしてならない。 うん、こんな間近で見られた事だけ胸に仕舞ってアタシは想い出を胸に生きていこう。 だから、逃げよう。そう決意して、そそくさ八百屋から撤収しようとしたんですが。 「あれっ?」 数歩歩いたらつんのめる。っていうかそれ以上身体が前に進まない。 何故!?見えない何かがアタシの行く手を遮っているとでも言うのっ!? なぁんて軽くボケても仕方なく、アタシは現実を直視し 「………何か?」 アタシの鞄を掴み、アタシの歩行を邪魔した相手の手を解こうとしたんだけど、 当然相手は一筋縄でいく相手じゃない。 目深に被った帽子で全てを隠し、飄々とした表情で 「ちょっとお付き合い願いたいと思いましてね?」 「ナンパですか?」 「そんなもんっス。」 ちょ!そこは否定してよ!!なアタシの願いも虚しく、半ば強引にアタシを八百屋前から連れ去り、 よりによってあの公園までアタシを引きずるように連れて行ったのだった。 「お名前、お伺いしてもいいっスか?」 「拒否権は存在します?」 「ありませんね、おそらく…。」 初めて、この公園でギンちゃんと話した時とほぼ同じシチュエーションで、 アタシは曲者、浦原喜助と並んでベンチに座っていた。 さて、どうしようか? 聞きたいっていうなら答えてもいいけど、正直に答えていいものかどうか?が判らない。 っていうか、いきなり拉致紛いに連れてこられた理由が全く判らない。 「アタシの質問に先に答えてくれます?」 「アナタが名前を教えてくれるならいいっスよ。」 「アタシ、何でアナタにここに連れて来られて尋問されてるんです?」 生喜助と隣り合わせに座るなんて、疑問がなかったら諸手上げて喜んでる。 むしろ喜びの咆哮を上げたい位に舞い上がりたい。 だって、だってアタシ、一護の旦那様は浦原喜助!って決めてるから。 将来、浦原喜助に『お姉さん』と呼んでもらうのがアタシのささやかな野望って、 ま、アタシの野望は今は多分どうでもいいんだろうけどー。 「数日前、お見掛けしたんスよ。」 「数日…前?」 浦原喜助は、目深に帽子を被りなおしてアタシを探る。 浦原喜助って、ホントこれがクセなのかしら? その行為は何かの確信に触れようとしたり、誤魔化そうとする時にする仕草。だとアタシは踏んでる。 「アナタ、人間っスか?」 「アタシが人間じゃないなら、その他大勢も人間じゃない事になりますよ?」 「なら、見えるんスね。人じゃない何かが。」 「うーん…見えるって言えば見えるかな?」 浦原喜助相手に、どこまで誤魔化しが通用するか?は判らない。 けれど、一応ね?やれるトコまではやってみたい。 と、いう訳で、アタシはのらりくらりと全てをかわして誤魔化しを試みる。 先ずはギンちゃん相手に使った、アノ手から。 「随分あやふやな答えっスね。」 「うん、だったアタシ見分けつかないし?」 「人と、そうじゃない者の区別が付かないと?」 「うんそう。で?それとアタシをナンパした事とどういう関係が?」 「数日前の夜、アナタこの場所で、ちょうど今みたいに誰かと一緒にいませんでしたか?」 数日前の夜にココで誰か…ってギンちゃんとのアレ見られてたのかよっ! もし、その目撃者がこの浦原喜助以外…っていうか、人間以外の時点でヤバイのか。 そりゃ不審に思われても仕方ないか。 「アタシだって女子高生ですから?デートの一つや二つ…」 「相手が人間じゃなくてもっスか?」 あれか、反論の余地は与えません!ってヤツか。 浦原喜助はアタシの中にある、正体不明な何かを探ろうと、一つ一つ言葉を選んで 尋問紛いに誘導していく…が。 うん、どうしよう。正直に話すべきか、黙っとくか。 この先、アタシは当然一護のいる側に立つんだから、ゆくゆくはこの浦原喜助とも関わり、 同じ側に立つんだけど。 やっぱこの間のアレはちょっと無用心すぎたか。 「浦原さんってさ、それクセなの?」 「アナタ、何故アタシの名前知ってるんスか?」 「アタシがギンちゃんと一緒に居たから声掛けたんじゃないの?」 「アンタ、彼の関係者っスか?」 ギンちゃんの名を出した途端、浦原喜助の態度が変わる。 飄々とした様子は無く、目深に被った帽子の奥から鋭い視線を向けてくる。 うん、やっぱりイイ男だ。 「関係者な訳ないし。丁度さっきみたいに、ナンパされたの。」 「どういう意味っスか?」 アタシは、自分の隠してる事は当然隠したまま、大まかにギンちゃんとの出会いを説明した。 「つまり、人と間違えて…とおっしゃるんで?」 「うん。」 「それと、アタシの名を知ってる事とどう関係してくるんです?」 しまった、その言い訳はまだ考えてなかった。 やっぱりアレしかないか。 「浦原さんって、アレでしょ?」 「アレ…というのは?」 「駄菓子屋さん。三つ宮にある駄菓子屋の店長さんじゃないの?」 「そうっスけど…。」 「ウチのクラスの朽木さんって子が通ってるって噂なんだよね…」 嘘だけど。 「で、駄菓子屋さんってこの辺りにないし、この間覗きに行ったら…居たよ?浦原さん。」 「本当っスか?それ。」 「うん、ホント。」 嘘だけどー。 「小さなツインテールの女の子が”店長”って呼んでたし?」 「だからアタシが浦原だと?」 「うんそう。」 嘘丸出しか、流石に。 これは、完全に不審者扱い確定な気がしてきた。 そりゃ死神と笑談してるの見られた挙句に、初対面で驚いたら不審だわな。 「あのさ、アタシ別に浦原さんの敵じゃないしー…。」 「敵味方って言い方はどうなんっスか?」 「ギンちゃんとはただのお友達よ?」 「死神が友達っスか。」 これは嘘じゃないし。 っていうか、登場早すぎるアンタが悪いんでしょーがっ! それ以上に、そろそろ帰って晩御飯の仕度しないと大変なのよね。 色々誤魔化し考えるのも面倒になってきたし。 「今度、行くわ。」 「いきなり何っスか…」 「お宅。アタシ今時間ないの。だから今度お店に行くから…」 「だから?」 だから?って空気読めよコノヤロウ。 「もし今度ギンちゃんに出会っても、浦原さんの事は内緒にしといてあげる。」 「それが取引材料になるとは思えませんけどね、アタシには。」 意外としつこいな、浦原喜助。 もっとサラっと淡白なイメージあったんだけど。 このまま帰っても後付けられそうな気がするような、そんなしつこさ。 「じゃ、これならどう?」 アタシは浦原喜助にしか聞こえないよう、耳元で一つ、手の内を見せた。 (ルキアの中にある物の事、本人には黙っといてあげるから) 「本当に、ウチに来るんスね?」 「うん、約束する。だから後付けたりしないでね?」 形勢逆転って感じだろう。浦原喜助は今まで以上に目深に帽子を被りなおす。 多分、余裕もへったくれもないのかもしれない。焦りすら見え隠れする。 「それじゃ、またね浦原さん。」 「ちょっと!アナタの名前は…」 「郵便花子!」 「…………。」 アタシは、自分の名を郵便花子と名乗り足早に公園を後にした。 当然、そんないい加減で適当な名を名乗った事で (説明行くの面倒だな…) そう思い、挙句、ついうっかり?で浦原商店を訪問し忘れ、どえらい面倒事が起こる事になるのだが。 その帰り道だった。 50m程先にある角を曲がれば家に辿り着く。そんな辺り 「チャドっ!?」 「杏…子?」 電柱に背を預け、座り込む負傷したチャドと、 その隣に鎮座するインコの入った鳥かごをアタシは発見する。 -------------------- 2008.08.31 ← □ →