本.08 チャドを発見した場所は自宅まで後50mの場所。 アタシは自分とチャドの鞄、鳥かごを先に自宅前に置きに行き、 すぐさまUターンしてチャドの待つ場所に戻った。 「おっ…もっ…いっ…」 「杏子…俺は大丈夫だ。無茶は…」 「お黙り!それのどこが大丈夫だっつーの!」 さすがに、チャドを背負う事は出来ない。が、 それでも背負うような形でどうにか家の前まで連行してきた。 「おっ…お父さん…助けて…っ!」 自宅玄関ではなく、医院の入り口を開けてどうにか助けを呼べば、 アタシの声に慌てて出てきた親父は遊子と夏梨に蹴り倒さ…れた。 「「杏子姉ぇ!?」」 何事か?大丈夫か?とアタシを心配してアタシの手を取る夏梨と遊子。 どうしてこの親子はこうもアタシを心配するのかは判らないが、 どう見ても大丈夫じゃないチャドが見えないのだろうか? 二人の娘に蹴り倒され踏みつけられ、それでも尚アタシを心配する親父も同じで。 「杏子っ…だいじょう…ぶ…かっ…。」 いや、親父こそ大丈夫か? 廊下の途中、倒れたままこちらへ這ってくる始末。 ダメだ、こいつら使えねぇ。 「一護おおおおおおおおおおおおおおっ!」 アタシは家にいるであろう一護を、声の限りに叫んで呼んだ。 こういう時、一番使えるのが一護だけってのはどうなんだろうアタシはちょっぴり泣きそうになる。 「どうした杏子っ!?」 「チャドが…そこで怪我して倒れてたの!早く病室に!」 「判った!親父…って何そんなトコで寝てやがるっ!」 夏梨、遊子に続いて愛息にも踏み倒された親父は、 医院の廊下の真ん中よりちょっと玄関近くで完全に伸びていたのだった。 チャドの手当ても無事に終わり、自宅へ戻ったアタシは夕飯の支度をしつつ考えていた。 (確か……) 見えない虚に襲われ、逃げていたチャド。 ウチに迷惑が掛からないように、と誰にも言わずに夜中の内に病院を抜け出した筈だ。 それに朝気付いて、学校から一護とルキアがチャドを追い、事は片付く。 アタシはこれ以上チャドの心配をする必要はないだろう。 むしろ、アタシが気になるのは夏梨の方で。 インコのユウイチの記憶を偶然見て、その記憶に引きずられるように具合を悪くさせる夏梨は、 平静を装い、何もない顔をして遊子と一緒にアタシの手伝いをしている。 (さて、どうしたもんかなこれは…。) 一護達が動きやすいように、明日夏梨は学校を休ませた方がいいかもしれない。 ともかく今は、さっさと片付けてお風呂タイムにでも夏梨の様子を探ろう。そう決めて、 「いちごーっ!お父さーん。御飯出来たよー!!」 アタシはしゃもじ片手に本日二度目の大声を張り上げたのだった。 「夏梨〜一緒にお風呂入ろ?」 「やったー!」 「えーっ!?夏梨ちゃんずるいぃぃっ!」 遊子には可哀想だけど、一緒に入って話を聞かせる訳にはいかない。 っていうか遊子が一緒だったらアタシが夏梨に話を聞けないし。 「遊子は明日一緒に入ろう?」 「仕方ないなぁ…」 納得いかない顔をしている遊子を明日の約束でどうにか納得させ、 親父、一護、遊子を先にお風呂に入れて、アタシは夏梨と一緒にお風呂に入った。 「夏梨〜…。」 「なに?」 どうせ最後、全部零れても問題ない!とアタシは夏梨と二人で湯船に入る。 多分出たらお湯は半分以下になってるだろう、うん。 そんな事を片隅で考えながら、どう切り出そうか色々考えた末、アタシはそこから話を切り出す事にした。 「アンタ顔色悪いよ?何か心配事でもある?」 「何も心配事なんかないよ?」 顔色は悪く、挙動がやや不審気味な様子だった夏梨。 どちらかといえば、一護寄りな性格の夏梨は自分の事に関する嘘をつく事が稀にある。 心配を掛けたくない、その思いからなんだろう嘘。 相変らず嘘が下手な子だ。 親父や一護ならともかく、アタシに嘘が付き通せると未だ思ってる辺り子供だ。うん可愛いなぁ夏梨は。 「お姉ちゃんにも言えない事なんだね、夏梨は大人になっちゃったんだね…。」 「うっ…嘘じゃないよ!?杏子姉ェに嘘なんかつくわけない!」 「アンタ、一護みたいにココに皺が寄ってる時は大体嘘ついてんだよね…。」 「う……。」 「夏梨が心配しなくても大丈夫だよ?ちゃんと…」 明日になれば、一護がどうにかしてくれる。 母を思う気持ちを利用された可哀想な子供の魂は、明日になれば一護が必ず。 「あの子だってちゃんと気付くから。」 「杏子姉ェ…。」 「全部見えちゃったんでしょ?あの子の記憶。」 「……うん。」 「遊子が寝たら、アンタ部屋抜け出してアタシの部屋においで?」 「何で?」 「今日は一緒に寝よ。」 「いいの?」 「遊子には内緒でね?」 「判った!」 もう少し、上手く話をしたかったのに。 上手く伝えられない事が多すぎて、これ以上お風呂で話す訳にもいかず (あれ…やるか。) アタシは最終手段を取る事にして、普段より長めとなったお風呂から夏梨と共に上がった。 そして、その数時間後。 コンコン 遠慮がちに扉を叩く音が聞こえてきた。 「夏梨?」 「うん…」 枕を手に、アタシの部屋の前で待つ夏梨を中に入れ、二人揃ってベットに潜り込む。 「杏子姉ェ?」 「なぁに?」 「何でもない…。」 自分の記憶にある、母親の記憶はのとしてのものではなく杏子のもので。 もちろん、それはアタシ自身の記憶だからこそ思い出して胸が痛む。 その、記憶すらない夏梨と遊子にアタシが出来る事は一つ。 「アンタは泣かなくていいんだからね?」 「杏子姉ェ?」 「絶対に、大丈夫だから心配しなくていいから。」 「うん…」 優しい面影の母が、一護と共に抱き締めてくれたように、抱き締める事だけ。 小さな妹が、泣かずに済むよう、何に怯えなくてもいいように、 アタシはただ母がしてくれたように、自分の腕に抱いて抱き締めて、そして眠った。 翌日、消えたチャドを心配した一護は朝早くに家を飛び出し、 夏梨はアタシの言う事を聞いて学校を休んでくれた。 (後は任せたよ…一護) -------------------- 2008.09.05 ← □ →