本.11 「「ボハハハ───ッ!!」」 TVの煽りに合わせ、テンション高く叫んでいるのは親父と遊子で、 一護と夏梨、そしてアタシはそれを軽くスルーしているいやむしろ目を合わさない様にしてる。 どっかで聞いたことのある、イラっとする笑い方は確かアレか、ドンなんちゃらの心霊どーとか。 そうすると、特番の撮影で空座町にある廃墟と化した病院に撮影に来て、そこに虚が現れて、 そんでもって何も知らないドンなんちゃらと一護が師弟関係になるんだっけか。 ま、アタシも夏梨も興味はないし。 一護が強引に親父達に連行されて撮影現場へ行くとしても、留守番してよう。 と、アタシは思っていたんですが。 一週間後の当日。 「来てんじゃん!」 水色や啓吾に突っ込まれてる一護の後ろに、何故かアタシもいた。 だってさ?親子で泣いてせがむんだよ遊子だけならまだしも ヒゲ面の親父までもがしつこく執拗にせがむんだよ首縦に振らなきゃ 拘束されて連行されそうな気配すら感じたんだもん! だからアタシが折れるしかなく、ノリノリの親父と遊子に全っ然興味のない 一護と夏梨とアタシの黒崎一家は総出で撮影現場に来る事になって。 撮影も始まり誰もがノリノリでボハハハとうざい中、声が響いた。 辺りを見れば、一護やルキアはともかく。 案の定織姫やたつき、側にいた夏梨が顔色を変えて辺りを見回していた。 えーっと…確か撮影カメラ前に一護が特攻して、んでもって下駄帽子が登場…だっけか。 正直、ドンなんちゃらに興味ないから記憶がものっそあやふやで。 一護が死神化するのがルキアの手によってなのか、義魂丸使用なのか喜助さんの一突きだったか 微妙に覚えてない。 それよりも!アタシは一護達と一緒にここにいちゃいけない気がする。 慌しく動き出した一護とルキアについ釣られて、うっかりTVカメラ前まで行くトコだったけど、 アタシの理性がそれを押し留めてくれた、うん流石アタシ。 当然スタッフに引きずり出され、人込みから離れた所へと移動した一護達。 アタシは離れてたから無事で、人事のような顔で一護に声を掛けてるけど 「アンタ、明日は超有名人だわ…他人のフリよろしく。」 「今んな事言ってる場合じゃねぇだろ!」 「いや、大事な事よ?多分アンタ等全員呼び出し確定だわこれ…」 当の一護・ルキアは今だスタッフに拘束されたままで。 その最中だった。一際大きな声が当たりに響く。 アタシは慌てたルキアが一護に声を掛けた時を見計らって一護達から離れた。 タイミングから考えると多分、今から一護が死神化するんだろ…ってあれ? ルキアが拘束されてる時点でルキアの手による死神化って選択肢は消える。 んでもって、義魂丸を使用って選択肢も拘束されてる時点で消えた。 つまりそれは、一護が死神化する選択肢の正解はアレしか残ってなくて。 「うわっ!?ど…どうした!?」 スタッフに取り押さえられたままの一護がガクリ倒れ、スタッフの奥に怪しい人影が見えた。 「どうも〜」 「下駄帽子っ!?」 「ホラ、ぼーっとしてないで早く行かないと!」 「ちっ…」 アタシは少し離れた場所で、喜助さんに見つからないよう様子を伺って、 一護が廃墟の中へと向かう後姿を見送って、うんよし逃げよう!ってそーっと踵を返したんだけど。 「杏子!?いつからそこに…」 「ゲっ…」 や〜ん見つかっちゃった。 っつっても見つけたルキアも相当バツの悪い表情で、アタシとルキアの間にひっじょ〜に気まずい空気が流れる。 「朽木さん、そちらのお嬢さんとはお知り合いで?」 「っああ、クラスメイトでそこの黒崎一護の姉だ。」 「それはどうも初めまして。」 「………どうも。」 「アタシ、駄菓子屋店長の浦原喜助と申します。」 「これはどうもご丁寧に。それじゃルキア、アタシは一護連れて帰るわ。何か様子がおかしいし…」 「いや杏子!一護はそのっ…実は…」 「杏子?」 「いやいやいやいや…」 「浦原?一体…」 「いえ別に大した事じゃないっスよ。ともかく…」 ボフンっと大きいのか小さいのか判らない爆音が当りに響き、周囲の人が一瞬にして表情を変えた。 今までそこで起きていた騒ぎなど、知らないといった表情に。 つまりそれは、喜助さんが記換神機使用したって事で、アタシもそれに合わさなきゃならないって事か。 うん、ものっそ面倒だ。 けど、いっそ忘れたフリした方がいいかもしれない。うんそうしよう! アタシはその場で何事も無かった顔をして、クルリ向きを変えてさっさとその場を離れようと足を一歩 前に踏み出し…って進まねぇぇぇぇ!!! 何かがアタシの腕を掴んで離さない!?だからアタシ前に進めないいぃぃぃぃっ! 既に姿を消したルキアが犯人じゃないってのは判ってる。って事はつまりアレですかはいそうですか。 「さてさん…いや杏子さん、詳しいお話を伺っても宜しいっスか?」 いらない!アタシ面倒事はいらないんだってば!!! そんなアタシの願いは軽く無視の方向で、喜助さんに連行されるハメになったのです、残念。 「結局アナタの言った事は全部嘘だったって事っスか?」 目深に帽子被って、団扇で口元隠してってほぼ隠れてんじゃん! な喜助さんがアタシを恨めしそうな顔でじぃ〜っと見てる。 やっぱなぁ、この間ついうっかりって名乗ったのが間違いだった。 まぁ?言った瞬間にしまった!とは思ったんだけど。 まさかこの場面でバレて捕まるのは想定してなかった。 「アタシ、嘘なんか言った覚えないけど。」 これはもう、開き直るしか他なさそうだ。 だってアタシ、マジで嘘言ってないし。 けど、既に名前を三回変えてる?っつーか、花子・・杏子と三回も違う名前言われりゃ 疑いたくもなるわな。 アタシだったら絶対信用しないわそんな奴。 「で?アナタの本当の名前、今度こそ教えて頂きたいんスけどアタシ」 「だから!アタシは…」 「アナタは?」 大体アタシの名前なんてどうでもよくね? それ以前に、アタシを見る喜助さんの目が気に入らない。 「あのさ喜助さん。」 「何っスか?」 「どうせ何言っても信用するつもりないんでしょ?そんな目してるわ…」 「そりゃ?何度も嘘教えられちゃアタシもそう易々と信用する訳には…」 「だよねぇ。でもさ?言ったところで信用しないでしょ?」 「どういう意味っスか?」 「アタシ、喜助さんがアタシの事信用するとは思えない。」 「何度言わせるんっスか?大体先に嘘をついたのは…」 「そういう意味じゃない、そうじゃなくて…」 「何がおっしゃりたいんで?」 「アタシは、自分を信用してくれない人に全部は話せない。」 「だから名を騙ったとおっしゃるんで?」 「アタシは名を騙った覚えはありませんよ?」 喜助さん自身、隠し事が多いのは知ってる。 けどそれは仕方ない事だし、その隠し事を簡単に口に出せないって理由も判ってる。 だからこそ喜助さんはいつも誤魔化して他人に悟られないようにしてるんだと思ってるし、 アタシはそれが悪い事だとは思ってない。 けど、それはアタシだって同じ。 アタシを端から疑ってる相手に、聞かれたからってペラペラ話す程マヌケじゃない。 「・杏子…花子はまぁ置いといて、としても。名を二つ聞かされたアタシが疑うのは当然じゃないっスか?」 「かもね〜…。でもアタシは嘘は言ってない。それを信用してくれない限りは…」 「信用しない、と言ったら?」 「これ以上喜助さんと話す事はないわ。今も、これからもずっと…。」 「つまり、アナタがアタシを信用してないって事っスね。」 「信用してるけど?信用してないのは喜助さんでしょ?だからもう話す事なん…」 「信用する…と言ったらどうします?」 「それこそ信用出来ないわ。」 浦原喜助という人物が、そう簡単に怪しい人物を信用するとはそれこそ思えない。 アタシのように、正体不明で挙動不審な人物なんか余計。 「もういいわ…アタシ帰る。これ以上話をしても埒が明かないし何より面倒だわもう。」 「つまり、アナタを疑い続けても構わないって事っスね。」 「好きにすれば?ぶっちゃければアタシ、自分の家族以外がどうなろうと知ったこっちゃないの。」 「そりゃまぁ何というか…」 「いずれ一護は喜助さんのお世話になんなきゃならないけど、アタシには関係ないしね。」 「アナタの事、話してくれなければ一護サンはお世話しない。と言ったら?」 「へぇ〜…喜助さん、このアタシを脅そうっての?」 「そういうつもりじゃないんっスよ。」 「好きにすればいいわ。喜助さんが一護の世話をしなきゃならないのは…避けられないから。」 「どういう意味っスかそれ…」 「もうすぐ判るわよ…。ともかくもう、アタシから喜助さんに関わる事はないからお好きにどうぞ。」 「アタシ、随分嫌われましたね…。」 「嫌いじゃないけど?今の所は…。」 嫌いじゃない、嫌いじゃないからこれ以上は踏み込みたくない。 嫌いになりたくないから余計、関わる事を避けたくなってきた。 だってもうこのやり取りで相当イライラしてきたし。 暖簾に腕押しっつーか、のらりくらりと交しながら それでいてこちらを探ってくるってのを、体感して嫌悪と感じた。 だからもう面倒だし、いいや。 「アタシ、諦めるつもりはありませんよ?で、何とお呼びすれば?」 アタシはそれに答えるつもりはなかった。 返事をするつもりもないし、これ以上話をするつもりもない。 喜助さんの全てを無視し、アタシは一護もテッサイさんに預けたままその場を立ち去った。 けれど、それは失敗だった。 アタシが、自分の取った行動が失敗だったと頭を抱えるハメに陥るのは数日後の事になる。 -------------------- 2008.10.04 ← □ →