本.12 敵は本能寺にあぁぁりっ! そう叫んだのはどこぞの石田さんだっただろうか? ちなみに今現在アタシの敵は目の前に存在する。 敵、そう称するにはあまりにも愛らしい愛くるしいわが宿敵。 「……………。」 「……………。」 その、宿敵との無言の攻防は本日で3日目に突入している訳ですが。 初日、校門でアタシを待ち受けていた敵はアタシを見つけるなり駆け寄ってきた。 当然その姿を遠目に察知したアタシは死に物狂いで走って逃げた。 翌日、野生の本能とも言えるべき回避行動が働いたアタシは裏門から逃亡を図った。 が、敵もなかなかのもので、アタシの行動をやはり野生の本能で察知したのだろう 裏門で待ち伏せしていた。 そして、再び猛ダッシュで逃亡したアタシ。 そして、本日が3日目になる訳なんだけれど。 さすがに、もう逃げる気力がない。 敵はアタシを今日こそは捕獲しよう!ってつもりなんだろう瞳に大粒の涙を浮かべている。 全く、こんな姑息な手段に出るとは浦原喜助、恐るべし。 「あのっ………。」 遠慮がち、超遠慮してそれでもアタシに声を掛けてきたのは浦原さんちのウルルちゃん。 ゴメン、その声に反応したが最後、アタシは多分戻れなくなる気がするからスルーさせてもらう! 「あのっ!」 いやーーーーっ! お願いだから涙声でアタシに訴えかけないでっ! まるでアタシが超非道な人間みたいじゃないのっ! 「うぅっ……。」 はうっ!? まさか…泣きだ… 「ん?杏子〜どうかしたの?」 「たっ…たつき!?」 「黒崎杏子さん、あのっ…」 「あれ?この子杏子の知り合い?」 「や、全っ然知らな…」 「知り合いですっ!杏子さんっ…お願いします一緒に…っうぅっ…」 「やだなぁ杏子、らしくないよ?こんな子供泣かせるなんて…」 「ちょ!何でアタシが泣かせたって…」 「杏子さぁぁぁぁん…一緒にっ…じゃないと…店長に…っ…」 「杏子!よく判んないけど…ホラ!この子泣き出しそうだよ?早く行ってあげなって!」 お の れ 浦 原 喜 助 っ ! アタシは、何も知らないたつきに裏切られ、泣き出しそうなウルルちゃんに負け、 もう二度と行かない関わらないと誓った浦原商店へ向かうハメに陥ったんだけど。 「あのね?そんな心配しなくても…逃げたりしないから。」 「でも店長が”いいっスか?捕獲した際は絶対離しちゃいけませんよ”って…」 浦原商店へ向かう道中、ウルルちゃんはアタシの上着の裾を握り締めて離そうとしない。 多分雷でも鳴らないと離さないんじゃね?そんな感じ。 「今更アタシに何用だっての全く…」 こんな姑息な作戦取るなんて何て卑怯なんだ浦原喜助の奴! 「杏子…さん?」 「あ、ゴメンね?ウルルちゃんに怒ってる訳じゃないから!」 こんな小さな子にこんなマネさせて! 可哀想に逆らえない立場だからアタシにも遠慮しちゃってるし。 「あ!そうだ!」 アタシは今日の調理実習で作ったマドレーヌを取り出し 「店長さんには内緒ね?ジン太君とテッサイさんと3人で食べてね!」 「ありがとうございます杏子さん…」 完全に諦めたアタシは上着を握る小さな手を取り、 その手とは違う手に袋を持たせると、改めてその手を握って歩く。 「店長は…嫌いですか?」 「嫌いじゃないわよ?好きでもないけどね。」 「店長は優しいです…。」 「そうね、ウルルちゃんには優しいかもしれないわね。」 手を繋いで、浦原商店へと向かう中、ウルルちゃんはアタシに気を使っているんだろう 何か会話をしようと必死な様子なんですが、如何せん会話の中心が浦原喜助ってのがイマイチだ。 だって、アタシの中ではもうあの人は苦手な部類に入れちゃったしね。 「店長は…多分杏子さんに…」 「アタシに何?」 「悪いと思ってるんだと…思います…。」 「だといいけどね…。でももういいのに…」 そう、アタシはいくらだって他人を切り捨てられる。 アタシは、アタシを不要と見なした相手を切り捨てる事に何の躊躇いもない。 確かに、アタシという存在は不確定要素が大きいだろうしアタシ自身話せない事を抱えてる。 でもだからって頭ごなしに疑って掛かった挙句のあの態度じゃ、100年の恋だって覚めるっつーの。 「ホント、今更何用なんだか……。」 先にアタシを切り捨てたのは浦原喜助だ。 疑われても仕方ない、とは判っていてもそれでも (相手がね…) そんな態度を取られたくない、そう思う相手に取られた態度は 少なからずともアタシを落胆させたのも事実だ。 別に、この世界で生きていく上で浦原喜助と関わらなければ生きていけないって道理はない。 一護やチャドや、石田や織姫が関わる事が絶対であっても、アタシには絶対ではない。 (まぁ…ようするにアレだよね。) つまりアタシは、アタシの中でbPだったかもしれない相手に あんな態度を取られてムカついてんだよ! ってのが本音なんだろう残念だが。 っとまぁ人間色々考えてると顔に出てしまうんだろう。 一体アタシがどんな表情をしてたのかは判らないけれど、少なくともウルルちゃんは アタシに声を掛けるのを躊躇っているのは何となく判った。 ヤだわ、そんな怖い顔してんのかしらアタシ??? その時だった。 どこからともなく香しい美味しそうな匂いがアタシの鼻腔を突いた。 思わず立ち止まり、その香りの発信源を探せば 「あー…今日特売日じゃん。」 このグルメ(?)なアタシを唸らせたケーキ屋が目に留まり更に、 店先ショーウィンドウに張られた ”特売日!新作も取り揃えております♪” っつぅチラシも目に留まる。 わーい!特売価格で新作食べられるかも〜って思うアタシは決して悪くない。 「よし、寄り道していこう!おいでウルルちゃん!」 「え?あのっ…早く行かないとてんちょ…」 「いいからいいから!」 アタシは焦るウルルちゃんなどお構い無しにその手を引いて強引にケーキ屋へと突入したのだった。 「美味しかったねぇ…」 「とってもおいしかたです〜…」 アタシの手には家族へのお土産ケーキ。 ウルルちゃんにもお土産ケーキを持たせてアタシ達は手を繋いで再び道を歩く。 新作ケーキはかーなーり美味しかった。 どれくらい美味しかったか?っつーとだな? 「あ…もうこんな時間じゃん!ウルルちゃん一人で帰れる?」 「大丈夫…です。あのっ…杏子さん…」 「なぁに?」 「ご馳走様でした、ケーキ美味しかったです…。」 「また行こうね?」 「はいっ!」 「じゃ、気をつけて帰ってね〜!」 「これ…お土産まで買ってもらって…ありがとうございました!」 アタシを捕獲する使命を担っていた筈のウルルちゃんが、 さようなら〜!と、本来の目的をすっかりド忘れしてご機嫌で帰宅してしまう程にウマかった。 が、この時点でアタシ自身ウルルちゃんと一緒にいた理由を忘れてたんだけどね。 「ん〜…何か忘れてるような気がすんだけど…まいっか。」 結局、アタシがそう片付けて帰宅したのもまぁお約束って事だ!! -------------------- 2008.11.04 ← □ →