本.14


うへへへへ。
やっちゃったYO!
アタシやっちゃったんだYO!

何をやっちゃったかっつーとですな?

『なら、どうっスか?アタシ、大人しく一発殴られますんでそれでチャラって事に…』

そう言い出した浦原さんの言葉に従って、一発殴ってチャラにしてやろうそう思って、
思いっきり平手打ちしてやろうって思ってたんだけど。
手を振り上げた瞬間、気付いた時にはアタシの右手はパーじゃなくてグーに変化してた。
よって、予定では室内に響く筈だった音はパシンっ!とかだった筈が。

バキッ!!

こう、柱でもへし折れたんじゃね?って位非常に良い音が響いた訳ですよ。
流石にね、乙女として右ストレート炸裂ってのもどうなの!?と何故か今度はアタシが平謝りするハメに。

「………ゴメン。」
「………いえ。」

何だかなぁ、何でアタシが謝んなきゃなんないの?と、
本来のアタシだったら平気で逆ギレしてたかもしんないんだけど、

「ともかく、これでチャラって事でいいっスかね?」
「うん、約束だしね、これでチャラ…でいいんだけど…その…」
「まだ何か?」
「や、そのね?左頬冷やしたほうがいいかも?」
「大丈夫っスよこれ位。」

さすがにそういう訳にはいかなかった。
だってどう見ても、よ?
浦原さんの左頬っつーかアゴの辺り、不自然に歪んでるんだけどマジで!
義骸だから通常より痛み少ないってことはないと思うんだけど、
本人が平気だって言うんだしいいか。(いやよくない!?)

ともかく、浦原さんが主張する通り、
本当に浦原喜助って奴が疑ってたアタシを信用するって言うなら、さてどう出てくるんだろうか?

「ご存知かとは思いますが…アタシは尸魂界から永久追放された身だ。」
「うん、知ってる…。」
「この先何が起ころうとも、アタシは尸魂界まで行く事は叶わない。」
「うん、判ってる…。」
「尸魂界まで…ってのは違いますね、アタシは穿界門に触れる事すら叶わない身だ。」
「………うん。」

腹を割る、全てをチャラにする。

そう言った浦原さんは、その言葉の通り自分の置かれる立場をハッキリと口にした。
多分、この人にとってとても重要であり、あまり触れられたくない部分であろうそれを。

ルキアを救出する為に尸魂界へ行く一護達の為、浦原さんがこの店の地下で開いた穿界門。
その中へ消えた一護達を見送った後、
触れた穿界門にその手を弾かれた瞬間の浦原さんの表情はアタシの中に強く残ってる。
物悲しさの混じる、浦原喜助という人の素顔を垣間見たその一コマは、
アタシにとって多大な萌えを提供してくれたから余計に…って脱線してる場合じゃねぇ!

えーっとつまり、今浦原さんが語った事は本当にアタシを信用してくれるから口にしたって事だから、
って本当に信じていいんだろうか?
疑いが捨てきれない、捨てたいけど捨てるにはもう少し、あと一押しがアタシは欲しかった。
けれどそれは多分、アタシのその思いっていうのは浦原さんから見ても同じかもしれない。
アタシを信用する為には、アタシの口から他者が知り得ない何かを聞きたいって思ってる筈だ。

「もうすぐ…ルキアが尸魂界に強制連行される事になる筈なんだ…。」
「っまさか!?」
「そうなるきっかけは多分…この数日以内に起きると思う。」
「………そうっスか。」

だからアタシはそれなりの態度で自分の誠意を示さなきゃならない。
先に口を開いて、言いたくないだろう事を語ってくれた事に対して、
アタシは自分の誠意を示して信用を得なければ、アタシ自身浦原さんを信用出来ないだろう。

だからアタシはあまり口にしたくなかった、この先の長い時の始まりになるそれを、
詳しくは語れなくとも口にする事で浦原さんに対してこう何ていうか…よく判んないけどともかく!
互いの信用を得る為の、手持ちのカードを切りあいしたって感じ?だろうか。

「一つお聞きしても?」
「何を?」
「アナタの名前の事っス。」
「それは…」

っつーか、今折角お互い腹割ってってイイ感じだったのに、また蒸し返そうってのかこの男はっ!

「何とお呼びすればいいっスかね?さん、それとも杏子さん?」
「え?」

けれど、表情から察するに蒸し返しというよりは

「どっちでも…構わない。浦原さんの好きにしてくれたらいいけど…。」
「判りました。ならこれまで通り”さん”と呼ばせてもらう事にします。」
「ん、判った。」

アタシの意思を尊重っつーか、アタシが杏子でありであるって事を信じてくれたって事で、
んでもってそれでえーっとともかく?
アタシが口にした””って名を、アタシが””って事を受け入れてくれるって事?

「あの…ね?浦原さん…その…」
「あ、そうそうその”浦原さん”ってのですがね?」
「ん?何?」
「最初、アタシの事喜助さん、って呼んでたじゃないですか。」
「っそれは…」
「それを浦原さん、って呼ばれてるのはこう何か他人行儀だと思いませんか?」

や、他人だから仕方ないじゃん。

「アタシとアナタの間に出来た”疑惑”って壁はもう壊れたんっスよね?」
「多分…。」
「なら戻しませんか?」
「喜助さん…って呼べって事?」
「そういう事っスね、出来ればアナタにはそう呼んで頂きたい…」
「っ!?」

や、やばいっ!帽子脱ぎっぱっての忘れてたあぁぁぁぁっ!
帽子で半分しか見えない表情だとか視線だとか、
浦原喜助って人物にはその帽子ってのが当たり前で、出逢ってから今までにしろ
読んでた時にしろそれが当たり前だったからうっかりしてたあぁぁぁぁっ!

今、目の前にいる喜助さんは帽子脱ぎっぱで、表情も視線もモロ直視可能で。
んでもって、んでもって!
わ、わ、わ、わ、笑ってるうぅぅぅぅぅっ!
クスリっ…っていうか、クスっクスクスっ…っていうか、微笑んでるっていうか?

ちょ!眩しいっ!眩しすぎるうぅぅぅぅぅっ!!!!

「や、やめて…」
「はいっ?」
「ま、眩しいっ…」
「大丈夫っスか?」
「ち、ち、ち、ち、近付かないでえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
「さんっ!?」
「ダメ…絶えらんないぃぃぃぃぃっ!」
「はぁっ!?」

アタシは今、崩壊寸前の自分の理性と必死で戦っていた。
だって!仕方ないじゃん!
浦原喜助よ?相手は浦原喜助なのよっ!?
アタシの推奨CPが浦一じゃなかったら…
一護のお婿さん第一候補が浦原さんじゃなかったら…
アタシが久しぶりに惚れた(萌えた)二次元キャラなんだから仕方ないじゃん!!
(え?聞いてない?)

ともかく、このままじゃアタシの身が持たん。

「あの…あのっ…喜助さん…。」
「大丈夫っスか?具合でも悪くなっ…」
「お願いだから今すぐ帽子被って!」
「帽子…っスか?いきなりどうしたんっスか!?」
「お願いしますうぅぅぅぅ…早く…っ早くしてっ!」
「はぁ……しかしいきなりどうしたんっスか本当に?」
「いいからさっさと被れや!アタシがうっかりアンタに惚れたらどうしてくれんのっ!」
「え?よく聞こえな…」
「ええい貸せっ!」
「ちょ!さんっ!?」

こうなりゃ実力行使!
喜助さんの手から帽子を奪い取り、強引に頭に被せる事に成功した。
うん、アタシはどうにか自分の理性の完全崩壊は寸前で阻止した出来た!

「ふぅ〜っ…。」
「………さん。」
「え?なにー?」
「アナタって人は…」

そう、アタシは自分の理性を守る為に頑張った。
相当我を忘れて頑張った!!!
あんな姿見たら普通はドン引きじゃねーの?
って思う位にアタシは頑張った、我を忘れて。

となると、目撃者は確実にドン引き、関わりは持ちたくないなー!って
思うんじゃないだろうか?
なのにアタシを見る喜助さんの視線には、もう一切の疑いも訝しみもなくて、
何つーか微笑ましくアタシを凝視するってよりは…そのっ…見つめていらっしゃって。

いかん!いかんぞ君ィ!
腐っても乙女、腐った乙女だとしても一応アタシだってオンナノコなんだもん。
そんな目で見つめちゃイヤーーーーーーーーっ!

「ホント、何でアタシはアナタを疑ったりしたんっスかね…。アナタのような人は初めてっスよ。」

なのに喜助さんてばアタシにとっては爆弾発言にも取れる?取っちゃう?
みたいな事をしょれっとスルっと何気なーく言っちゃってくれるし?
今更そんな風に自分のほうが悪いみたいな発言、うっかり小躍りしたくなるからやめてくんねぇかな。
アタシ、大切な弟と一人の男を取り合いするなんて昼メロ展開お断りなんだからっ!!!
と、一人悶絶するアタシを、やっぱり喜助さんは面白そう(?)に見つめてんだけど。



『ニャァ…』



その一鳴きと共に、新たな登場人物がアタシの目の前に突如現れたのです…。





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2008.11.06