本.23 限界だった。大した事じゃない、と自分を誤魔化し続ける事に誤魔化しきれない部分が悲鳴を上げそうだった。 自分自身の身に起きた非現実的な現実を、納得した上で受け入れて生きる覚悟を決めたつもりが やっぱりどこかで受け入れ切れていなかった。 そして、それ以上に今を失う事が怖かった。 ”家族”のないアタシに与えられた”家族”。 それを失う事が嫌で受け入れきれない部分に蓋をして、誤魔化して誤魔化して誤魔化し続けたけれど…無理だった。 所詮、アタシは異分子なのだ。 この世界には必要の無いirregular(イレギュラー)なアタシが、この世界に居る事自体間違っていたのだ。 探られ、疑われ、疑惑の目を向けられながらここに留まる必要などない。 家族が無くても、本音を隠して全てを隠して生きるよりも、 アタシが居る事を許された世界で絶望しながらも生きていく方がマシだと思った。 「帰るっ…帰してよっ!もっ…ヤだ…。」 全てを吐露する勇気もこれ以上我慢する事も出来ない。 だから、アタシが居るべき場所に帰りたかった。 「帰してっ!アタシが何したっていうの!」 「サン、落ち着いて下さ…」 「うるさいうるさいうるさいっ!」 「落ち着いてください。じゃなけりゃ家に帰る事も出来やしない!」 「違うっ!アタシの居場所はこの世界じゃないっ!」 「何を言って…」 「お願いだからっ…も…ヤなのっ…帰してよ…。」 ─── お願いです、この世界に必要ないアタシを帰してください…。 掛ける言葉すら見当たらず、泣き崩れる彼女をどう扱えば良いのか判らなかった。 全てを話してしまう事に戸惑いが無かった訳じゃない。 ただ、話さなければ彼女の本心からの信頼は得られないと思った。だからこそ軽蔑される事を覚悟し、 それによって崩れてしまうであろう信頼関係を一から築けばいい、そう安易に考えていた。 けれど、それが間違いだったのかもしれない。 軽蔑なんて生温いもんじゃない、これは明らかな拒絶。 彼女はアタシだけじゃない、全てを拒絶しようとしていた。 ─── アタシはまた間違えてしまったのか? 自分の過ちを認め、謝罪すれば片付く程度の事だと思っていた。 アタシと彼女の間に、信頼関係が出来たと思ったからこそ伝えなければならないと思った。 いや、単に許しがたかったのかもしれない。 『お前がアイツに…いや、アイツが関わっちまったんならお前が折れるしかねぇ。』 『アタシにどうしろとおっしゃりたいんで?』 『お前が謝罪するしかない、だろうな。アイツは…』 『アタシが頭を下げて謝罪してどうなるんっスか。』 『謝罪出来ないならアイツの言葉を信じて認めてやればいい。それが出来ないなら…』 『出来ない、と言ったらどうなるんっスか?』 『アイツは何があってもお前を受け入れないだろう…』 一時とはいえ、信じて認めていなかったという事実を隠している事と何かの拍子に知られる事。 そして、それ以上に彼女がアタシよりも 『市丸ギンが彼女に接触してるんっス。』 『それをアイツが許してるって事は…市丸ギンがアイツを信じたってだけだ。』 事情など丸きり知らないであろう市丸ギンを、 アタシ以上に信用し受け入れている事実が許せなかった。 けれど、その行為からして間違っていたのだ。優劣を付けるなどという、くだらない発想が。 『ただもしアイツが…自分から何かを話したらその時は…』 全てにおいて、安易に考え過ぎていた。けれどもし、彼女の方から何かを話してくれたとしたら。 そうなるよう切欠を作り、彼女が口を開いてくれたとしたら? 彼女の心からの信頼を、手に入れる事が出来るだろうか。 ─── もう間違いは許されない。 アタシは、失う訳にはいかないそれを再び手にする為、口を開く決意をした。 「サン、アナタ一体何を隠してるんスか?」 「アンタになんか言いたくないっ!知らないっ!もうほっといてよっ!」 「アタシじゃ頼りになりませんか?」 「もう誰も頼らない!」 「アタシを信用してくれませんか?」 「誰もっ…信じられないっ!」 完全なる拒絶。 興奮する彼女は泣きながら、全てを拒絶していた、自分自身の存在すら。 「アタシの居場所なんか…ない…どこにも…。」 「一護サンがいるじゃないっスか。」 「アタシはいらない…っ一護にアタシは…一護だけじゃない!アタシは必要ない…。」 「でもアタシにはサンが必要なんス。」 「違う!アンタはアタシを利用したいだけでっ…だから…信じて…くれなかっ…。」 「その通りっス。」 「アタシは…信じ…ようとした…っ喜助さんだったら…信じてくれるかもしれないっ…って…。」 「判ってます。アタシはアナタに信用されようと思った。だから…」 「だからアタシを騙したんでしょっ!簡単に信用したアタシを…馬鹿にしてたんでしょっ!」 「そうじゃない!そうじゃないんス…。」 「なら証明してよ!アンタが言ってる事が嘘じゃないって証明して見せてよっ!」 叫ぶ彼女の台詞が痛かった。 そうさせてしまったのが自分である事も含め、自分の存在すら認められない彼女の痛みが伝わるようで。 「判りました。アタシが証明して見せれば…今度こそ認めてもらえますね?」 どうすれば認めてくれるか?信用してもらえるか?は判らない。 ただ、行動を起こし彼女がそれで受け入れてくれるというのならやるしかないのだ。 「行きますよ、着いてきてください。」 「何処にっ…。」 「地下っス。ご存知でしょ?」 アタシに出来る事は簡単だ。 むしろ、それ以外に方法はないかもしれない。という程簡単な事。 ただ、それはアタシには絶対に出来ない事で、最初から出来ないと判っている事で。 判っていながらそれをする事でしか、アタシには証明する手立てはなかったのだった。 -------------------- 2009.02.27 ← □ →