本.27


血を流し倒れている石田と、石田以上に血を流し倒れている一護の無惨な姿。
その二人の流す血を、洗い流そうとするかのように降り始めた雨はあまりにも無情で、
来てくれるだろう喜助さんの姿を探すアタシ ──────── というシチュエーションにカチ合う筈が。

「ルキアっ!?」
「あ…んず?」

血を流し倒れる石田と、石田以上に血を流し倒れる一護の姿のその先にルキアを見つけ思わず叫んじゃいました。
そりゃ確かに家を出る前は、もし間に合えば一言ルキアに…って思ってたけど。
現実その現場に遭遇したらそんな思いも一気に消し飛ぶのは仕方ない事だと思う訳だ。
だって人間ってのは想定外の状況に追い込まれるとテンパる訳で?
アタシはこれでもか!って程テンパってた訳で。
だからつい叫んだ。叫ぶべきじゃなかったけど思いっきり叫んだ本能のままに。

けれど、その叫びをフォローする術をアタシは持ってなかった。
時間も状況も何もかも全て不自然なこの現場で、何がフォローになるのか?も判らないっていうか
もうこれでもか!ってテンパってる時点で何が思い浮かぼうか!!

「杏子、何故ここに…。」

そんなアタシに焦りを隠しつつ向き合うルキアと、その後ろで傍観者が如く解錠を待つ白哉お兄様と
解錠しようと斬魄刀突き出してる恋次も当然こちらを振り返るのは当たり前。

「何故…ってそれは…。」

極力恋次と白哉を視界から追い出し、不自然さをどっかに追いやって普通を装い

「こんな夜遅くに…」
「今日泊まる約束だったでしょ?」
「何を言ってい…」
「いつまでたっても来ないから探しに来たに決まってるでしょう?」

ズイとルキアに歩み寄り、ニッコリ微笑む事でアタシはアタシのペースを漸く取り戻した。

「一護もルキアが遅いって探しに出てるのよ?」
「っ!」
─── そこでブッ倒れてるけどね…。
「こんな夜遅くに、ってこっちの台詞よ?ルキア。」
「私は…っすまない杏子。私はっ!」
「言い訳なんか聞かないわよ?早く行きましょう。」

そして、アタシがルキアの腕を取った時だった。
朽木白哉という死神が、一歩ずつこちらへと近づいて来た。

「その者は…。」

もちろんアタシにその姿は見えない、声も聞こえない。
当然阿散井恋次の姿も、血を流し倒れる一護の姿も見えない事になっている。

「兄様っ!この者は無関係です!」

そして、アタシとルキアの間で立ち止まった白哉が無表情に見下ろしているその表情を見てしまった。
手を伸ばせば十分に届く距離で、アタシ達を無表情に見下ろすその顔を。

それが引き金だった。
それだけで十分許せない理由が出来てしまった。

「どうしたのルキア?兄様って…やだなぁ何その冗談。」
「杏子、ともかく今は先に帰ってはくれぬか?」
「だーかーら!迎えに来て何で一人で帰らなきゃならないの?それに一護も…」
「杏子っ!っ一護は…。」
「その者はあの男の身内か。」
「杏子は無関係です!」
「は?何言ってんのルキア?」
「その者には見えてはおらぬようだな…。」
「この者は普通の人間です!何も知らぬ何も見えぬ聞こえぬタダの人間です!ですから兄様!」
「たかが人間如き、興味などない。」
「…………そりゃどーもっ!!」

─── バシッ

隊長とはいえ、たかが人間如きの突然の行動は避けられなかったようで、
思い切り振りぬいたアタシの掌は朽木白哉の頬を相手に素晴らしい音を奏でた。
簡単に表現すれば、平手打ちっていうんだけど。
それでも眉一つ動かさず、微動だにせずアタシを見下ろす白哉の表情にムカついた。

「あ…杏子?」
「なぁに?」
「貴様何者だ?ルキア、その者がこれでも本当に無関係と言い切れるか?」
「しかしっ!この者は今まで一度も…。」
「無関係な人間。ただの人間が何故今の私に触れる事が出来る?」
「ルキアに聞いて判る訳ねーだろ教えてないんだから。バッカじゃないのアンタ?」
「杏子…まさか…見えて…」
「勿論見えてるに決まってるでしょー?そこで転がってる一護もね。」
「っすまない…。」
「隊長!?」
「テメーも同罪だっ!!」
「なっ!?」
「杏子っ!!!」

そして、ついでに油断しまくってた恋次にも蹴りを一発お見舞いし

「ルキア、心配しなくていいから。必ずね?皆で助けに行くから。」
「杏子…私はっ!」
「だから少しだけ我慢してて。約束する、絶対迎えに行くから。」

完っ全に二人を無視する事でルキアに伝えたかった事を言う事が出来た ───── が。
当然これで終わり、という訳にはいかないよなぁやっぱり。
でも、アタシには理由がある。

「貴様、一体…」
「はいストーップ。武器も持たない生身のたかが人間如き相手に本気にならないでよねー。」
「兄様!杏子はタダの人間です!」
「この者の何を見てタダの人間だと…?」
「アタシは一護の姉。アンタ達はアタシの可愛い弟を傷モノにしてくれた、だからアタシは仕返した。」
「テメェ…人間のクセに…」
「言いたい事の半分どころか微塵も言えない死神にとやかく言われる筋合いはねーよ。」
「兄様!杏子は見逃して下さい!杏子は何も…」
「捨て置けぬ、と言ったらどうする。」
「六番隊隊長様とあろうモノがたかが人間如き相手に何しようってんですかー?」
「杏子!それ以上は!」
「六番隊隊長朽木白哉、副隊長阿散井恋次。」
「何故我等の名を知る?」
「さっさと尸魂界行けば?」
「この女っ!」
「何よ!何もしてない何も出来ないたかが人間相手に斬り掛かろうってか!?」
「隊長!この女は明らかに得体が知れません!連行しても問題は…」
「生身で通れる訳ねーだろバーカ。殺す気か!」
「……………捨て置け。」
「しかし隊長!」
「構わぬ。たかが人間如きに何が出来る訳もなかろう。」
「潔いねー流石隊長サン!心配しなくても絶対仕返ししに行くから待っててねー。」
「仕返しだ!?ふざけんじゃねぇぞ!」

ついカッときて勢いに任せて言いたいことの半分はブチ巻けたけど。
このまま長引いたら喜助さんが来ようにも来れないかもしれない。
それ以前に、喜助さん来なかったら一護の身体から血が無くなる!!とやっと冷静になった。
そうなると、だ。今度は白哉とか恋次とか白哉とか恋次とか邪魔なんだよなマジで。

「ていうかー、マジもうキリないから。さっさと行け!で、またねルキア!」
「ちっ…解錠!」

バイバーイまたね〜…と、消えていくルキアに手を振りながら見送り、
何故そこでルキアじゃなくてアンタが振り返る!?な
白哉が振り返ってこちらをジッと見てたけど勿論フンッと顔を逸らし

「はぁ〜〜〜〜〜〜っ。」

完全にその姿が消えたのを確認して大きく息を吐いた。
それを2〜3度繰り返し、実は握っていた掌に相当汗を掻いていた事に苦笑しつつ

「早く来ないかな…。」

完全に意識のない血塗れの一護の側にしゃがみ込み、アタシはあの人を待ち続けたのだった。





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2009.05.20