本.30 アタシはひたすら歩いていた。 一護に口裏合わせを頼み、喜助さんに一護の事をもう一度お願いして浦原商店を後にしてからずっと。 「しっかし一護も過保護だよねぇ…。」 そして、さっきの一護の剣幕を思い出し、喜助さんの様子の不自然さに苦笑せざるを得なかった。 「喜助さんも結構…怖かったよね?」 一護はともかく、まさか喜助さんまであんなオーラを発するとは思ってもいなかった。 ─── 白状しないとどうなるか?判ってますよね? そう口にはしなかったけれど、見えないオーラがそう語っていた。 長年(?)の経験からすると、あれは絶対フォローを入れておかないと後々ややこしい事になりかねない。 「目的物発見して落ち着いたら電話しとこ…。」 ともかく、先ずは探し出さなければならない。と、アタシはそれを一旦思考の片隅に追いやり、 目的物(っていうか建物?)目指して迷う事もなく寄り道する事もなくひたすら歩き続けた。 そしてお昼前、ようやく目的の場所に辿り着いた。 空座町の外れにある、廃工場後地。 「うん、多分ここ…よね?」 彼等が潜伏しているだろう場所は、アタシの中に残る記憶と今のアタシの記憶とを統合して導き出した。 だからアタシは迷わずここまで辿り着けたんだけれど。問題はここからだった。 上手く彼等を見つけられたとして、さてどうやって取り入る(利用する?)べきか。 「下手な小細工だったり下手な言い訳しても仕方ないしなぁ。」 それ以前に、不器用なアタシがそんな小ざかしいマネをした所で無意味っていうか無駄!? 「よし、ここは当たって砕け散る前に向こうに当たらせてんでもって…。」 と、一人脳内で出会いから突入(?)までをシュミレートしていた真っ最中。 「何やお嬢ちゃん。こないなトコに一人でおったら危険やで?」 「ぬおっ!?」 アタシの衝突事故相手(しかも加害者)が飛んで火に入る夏の虫は想像していた以上に流暢な関西弁な上に イイ声で後ろから衝突してきてそんでもって、ああああああああアタシはどうすればいいんだ!? そう、アタシは思わぬ後方からの追突事故にテンパり、 「真ちゃん逢いたかったっ!!!!!」 確認もせず、振り返りザマに相手にしがみ付き思いきり素で叫んだのだった。 「………………。」 そして、アタシは非常に居た堪れない状況に立たされていた。 思い返せば数秒前、うっかり”真ちゃん(シンジだからシンちゃん?)”と叫び確認もせずに抱き付いたのがマズかった。 冷静に考えれば、平子真子が単独行動とかあんまし考えられないよねー…なんて出立前は思ってた筈なのに。 アタシが思いっきり抱きついた相手は、平子の真ちゃんではなく、もーちょっと厚みのある六車拳西さんで、 んでもって回りにはズラーっとギャラリーまでいたりして? ようするに、フォローもクソもない状況に自ら陥ってしまったのだ。 さて、ここからの起死回生はなるのかアタシ!? 「俺は平子じゃない………。」 「で、ですよね〜あはは。」 改めて言われなくても見りゃわかるっての! 「離れろ。」 「どうもすいませんです…。」 と、言われるまで自分が抱き付いたままだったのをすっかり忘れてたアタシは、 慌てて六車さんから離れ、そして視線を宙に漂わせる事数秒後 「真ちゃんっ!」 「ちょ!待てっ!」 ターゲット補足、ロックオン完了の後再び20秒前からやり直そうとして ───── 失敗した。 アタシの攻撃を華麗に交わし、確実に距離を保つ平子真子。 「お前…誰や?」 「酷い真ちゃん…あんな事したくせにっ!」 主にアタシの脳内で。 「オイオイ勘弁してくれや。オレにそんな覚えないわっ!」 「嘘だったの!?”お前はオレのモンや”って言ったのにっ!」 アタシの妄想の中で平子真子は確かに一護にそう言った。 「ええ加減にしてくれ。ホンマオレは知らん!」 「うん、だって初対面だし?」 「…………………オイ。」 「やだなぁ真に受けて。」 「オイィ!?」 と、まぁ脳内変換してたのは昔の話で?今はそれどころじゃないから置いといて。 「単刀直入に申し上げますと、協力して下さいな?平子真子さん。」 「せやから何でオレを知っとんねんな!」 「個人的にはひよ里ちゃんとかましろちゃんとかー、リサさんの方が望ましいんですけどー。」 「ほ〜っ…他のヤツの名前も知っとんのか。」 置いといて言いたい事ツラツラーっと述べた後、平子真子だけじゃないその場に居た全員の空気が変わった事に気付いた。 「お前、何モンや?」 そりゃそうですよねー。いきなり来て言いたい事言って協力して下さいってアタシが言われる側だったら絶対無視する。 「何モン…って言われても、普通よりちょっとだけ体力が無い女子高生としか?」 「そいういう事言うてるんちゃう。お前は何を知って何故此処に来たか?それを聞いとんのや。」 「正直に話したら協力してくれる?」 正直に話したとしても、アタシなら多分協力しないだろう。 だって他人事だし?要らぬ火の粉は被りたくないし。 けれど、それはあくまでアタシがそうなった場合。であって、アタシの要請を断らせる気は断じてない。 断られては困るのだ。何としても、ここで引き下がる訳にはいかない。 「内容次第…とでも言うとこか。」 「黒崎杏子16歳。ピッチピチの女子高生です。」 「死語やなそれ…。」 「で、父は黒崎一心、弟は黒崎一護。世間一般で言うところの真血ってヤツです。」 「…………………………目的は何や。」 アタシが切れるカードはその3つ。それで食付いてくれれば良し、ダメだった場合は ───── ぶっちゃけ何も考えてない。 「協力してくれるの?くれないの?どっち?」 「目的が先や。」 「答えが先。ダメって言われたらアタシは次を探さなきゃならないの。これ以上手の内は見せらんない。」 「強気なお嬢ちゃんやな。」 「こっちも必死なの。」 最悪の事を考えてなかった訳じゃない。 何をどうしても彼等の協力を得られなかった場合、本当に最後の手段として考えてたのは ───── 親父だ。 「オレ等に何をさせたい?それだけ言うてみぃ。」 「特に何も?」 「はぁ?どういうこっちゃそれ…。」 そう、アタシは別に彼等に協力要請したい訳じゃないし、協力っつっても単に場所の提供だとか簡単なアドバイスだとか? 欲しいのはその程度の事だけだったし。 「手っ取り早い体力作りの助言と場所だけ借りられたらなーって?」 「たったそれだけの目的で正面から堂々乗り込んで来たのか!?」 あれって正々堂々だっけ?かなり不意打ちな気がすんだけど。 「何やおもろそうやん。真子、手伝ったれや。」 「待て待て待て待て。このお嬢ちゃんオレよりお前のがエエて言うとるやんけ!」 「あ、うん。真ちゃんよりひよ里ちゃんの方がいい!ちっちゃくて可愛いし〜!」 「不審者を簡単に信用するのはどうかと思うが?」 「細かい事気にしない!単に尸魂界に行くために準備だから!」 「オイそれどういう事や?」 チッ。細かい事言うなよ男のクセに。 っていうか間違いで抱き付いた事を根に持ってんのか?六車さんが妙に細かい。 「判ってるクセに聞くの?」 「お前 ───── 何を知っとるんや。」 「別に何も?」 「まぁええ。どのみちオレ等もボチボチ動く準備せなアカン事や。」 「じゃ協力してくれんの!?」 「条件がある。それ呑むんやったら ───── 協力したってもエエ。」 「何?アタシに出来る事なら…。」 「お前、卍解出来るやろ。それ見せぇ。」 「嫌。」 「ちょ…即答やな。」 卍解するつもりはあった。多分出来る自信はあったし確信もあった。 けれどそれとコレとは別問題だ。第一アタシにとって卍解は今回が初めてなのである。 「何でアタシのお初をアンタにあげなきゃなんないのよっ!」 「 ──────────────────── 。」 あ、あれ????アタシもしかして外した!? っとまぁ、軽い冗談を思いっきり顰めっ面でかわされ、どうにか妥協を貰って進入を許可された地下。 そう、アタシの目的の全てはこの場所にあった。 ここなら多分、何をしても早々は気配を悟られる事も感づかれる事もない、そう思っていた。だからアタシは 彼等を選び、この場所を求めた。 「で?何がしたいか言うてみぃ。」 「うん。先ずは、十七日後に尸魂界に行くのね?」 「ふんふん。そんで?」 「そんで、穿界門が…ね。」 「何や?走り抜ける自信無いんか?」 「無い。体力も無いし自信もない!だから…せめてあそこを走り抜けるだけの体力が欲しい。」 「そやなぁ…ほなマズはアレからやるしかしゃーないか。」 早速、交流を深め(?)たかどうか?は定かではないが。ひよ里ちゃんとの打ち合わせが始まる。 他の人は何か言いたげ ───── だけれど口は挟まず、一定の距離を保ってこちらの様子を伺っていた。 が、ポケットに手をつっこんだまま、黙ってこちらを見ていた筈の平子真子がゆっくり近付いてきて 「ひよ里…ホンマに体力無いかどうか確かめるのが先やろ。」 「真子は黙ってぇ!」 「お前、物事っちゅーのは何でも確認からせぇ!言うてるやろ!」 「手伝う気が無いヤツが口挟むなや?」 「手伝う気があったら口挟んでええんか。」 アタシをそっちのけで、何故か口喧嘩をおっぱじめやがった。 当然、アタシはどうすればいいのか二人を交互に見やり、助けを求めるしかなく。 平子真子よりも遠巻きにアタシの様子を伺っていた他の人の方を見ると 「あれは始まったら中々終わらん。とりあえず向こう側へ向って走ってみろ。」 「っはいっ!」 渋々ながら、といった感じながらも六車さんがそう言ってくれた。 「とりあえず、ってのは大雑把すぎるだろ。100mとかの方がいいんじゃない?」 「そうですね。物事にはやはり順序というものがありますし。」 そしてそれを切欠に、リサさんやローズさん達も寄ってきてそう言い始めてくれて。 「あの二人はほっといて〜、頑張ろうね〜!」 ましろさんの励ましを合図にアタシは大きく頷いて、頑張った ────────── んですが。 「犬猫が空飛ぶより難しいんちゃうか?」 「不可能やろ…。」 「…………………。」 どうやら、アタシの体力っていうか運動神経ってのは自分が思っていた以上に他人様の目に酷く、 酷いを通り越して寧ろ哀れ????????という感じなのか 「気を落とさなくても…こういう方法はどうだろう。」 「方法?」 「走り抜ける方法ではなく、拘突をどうにかする方法……とか?」 「そっちの方が無理なんじゃ…?」 「いい勝負だろ。」 「くっ…。」 「ていうか〜拘突は週イチなんだし〜?」 「それさえ避ければまぁ…徒歩でも…辿り着かなくは…ないと思いますが…。」 何だかなぁ。皆さんの視線が凄く可哀想な子を見る目で、恐縮しまくりっていうかもう穴があったら入りたい気分になってきた。 「まぁそんな焦らんでもまだ後十六日あるやろ。」 「せやな、十六日もあったらどうにかなるんちゃうか?」 「どうにかして下さいぃぃぃぃぃっ!」 と、アタシは改めて土下座する勢いで頭を下げ、助力を請いまくったのだった。 そしてその夜。 説明不足のまま後にした浦原商店にいるあの人に、きちんとした説明をすべく電話を掛けた。 それを、誰かが気付き見ていた事も知らずに。 -------------------- 2009.07.27 ← □ →