本.36 何時に無く真面目な表情の喜助さんの雰囲気に飲まれ、アタシは特に深く考えるでもなく、 ただ何度も頷いてその場を凌いだ。 そして翌朝、店を出ようとするアタシに再度喜助さんが念押しした時も 『大丈夫だって!ちゃんと判ってるから。』 やっぱり深く考えずにキッパリ言い切った。 そんなアタシを喜助さんは当然訝しんだ目で見てたけど、アタシは本当に大丈夫だと思ってたから 喜助さんの言葉の意味を言葉通りに受け取っていた。 本当ならキチンと考えて、その意味を探らなきゃならない筈が、アタシはちょっと焦っていたのかもしれない。 とにかく尸魂界へ行く為にやらなきゃならない事がアタシの頭を占めてて、 何時もなら多分ちゃんと考えてただろう喜助さんの言葉を聞き流してた。 だからバチが当たったのかもしれない。 喜助さんはちゃんとアタシに言ってくれたというのに、それを生返事で返したりしたからアタシは今、 こんな目に合ってるのかもしれない ────────── って反省しまくりなアタシのシャレになんない現状は。 「どうにかしてよぉぉぉぉぉっ!」 「ともかく落ち着け、おおおおお落ち着くんだ!」 「お前も落ち着かんかい!」 「ととととともかくここここここ…。」 「ほら〜、皆落ち着いて?とりあえず海に行けばなんとかなるかもしんないしぃ?」 「何ともなるかっ!や、泳いだらもしかすると…。」 「それはない。いっそ山に登って…。」 「ないない!山に登る位なら絶対海だってぇ〜!」 「いっそアイツに連絡してやな?ほんでどないか…。」 「アカンアカン!それだけは絶対したらアカン!」 「ほなどないせぇっちゅーねんな!」 「もぉヤだぁぁぁぁぁっ!」 「ととととととにかく!おおおおおおお…。」 アタシも含め、その場に居る全員がアタシに起きたありえない状態にパニックに陥り、 どうすりゃいいのどうしろってのどうにかしてよ!な状況に立たされていた。 事の起こり ────────── は遡る事4時間と25分38秒前。 「おー…帰って来たか。どや?喜助にはちゃんとお前のお初とやらをやったんか。」 初めての卍解を済ませた事でアタシの身体は少しだけ変わったのか?予定よりも10分程早く 真ちゃん宅(廃工場)に到着した12時ちょっと過ぎ。 出迎えの大人気ない真ちゃんの台詞は軽く聞き流し、アタシは廃工場内から地下へ降りて 漸く休憩に至ったのだけれど。 「予定してたよりは早い到着やけどまだまだやな。息切れ収まるまでに時間掛かり過ぎや。」 「っだって…っひよ里ちゃんがっ…っはぁっ…はぁっ…。」 上がった息はなかなか落ち着かず、地面に座り込んでゼーゼーハーハーする事30分。 どうにかこうにか落ち着いて、本当の意味で一息つこうと思った時だった。 「そういやアッチの方はどないやねん。」 「アッチってどっち。」 「そやない!」 ひよ里ちゃんの言ってる意味が全然理解出来なくて首を捻る。 アッチ?と自分の思うアッチを見てみれば 「ベタすぎや。」 「ふんっ!」 案の定、真ちゃんがお約束の突っ込みを入れてくるけれど、本当に何を言いたくてのアッチなんだろうか。 「虚化や。」 「んー…多分出来ない事は無いと思う?」 「ほなやってみぃ。」 「いきなり!?」 と、アッチ=ハッチじゃない虚化だったのはいいけど、いきなりやってみろとか言われても やっぱり心の準備とか必要じゃないだろうか。 大体、一護ですら最初は虚化の保持すら微妙だったっていうのに。 「さすがに卍解とは違ってやってみろ!って言われて何となくで出来る気がしないっていうか…。」 「コツならおせーたる。」 「ホントに?」 「気合や。」 「あっそう…。」 座り込んでるアタシの前、ふんぞり返って立つひよ里ちゃんは明らかにコツにはならないコツを伝授してくれるし 「卍解がどーにかなったんや。虚化もどないでもなるわ。ほれ、やってみぃ。」 真ちゃんのひよ里ちゃんを上回る適当っぷりにアタシは言葉も出ない。 なのに、地面に座るアタシを取り囲むように皆様勢ぞろいで。 「仕方ないなぁ…ちょっとだけ待って?聞いてみる。」 「聞いてみる……って誰にや?」 「ひよ里ちゃんや真ちゃんよりはアテになりそうな相手?」 アタシはとりあえず、己の内へと語りかける事から始め 「とりあえずやってみる。」 「早っ!」 此処に居る皆や一護がしていたように、仮面を被る真似をする。 ちなみに、アタシが己の内へと語り掛け、返ってきた言葉は ─── 大丈夫だ。 その一言だけ。 アタシはその言葉を信じ、自分を信じて ───── そして。 「あ…。」 「………出来てるな。」 「ああ、全然出来てるわ。」 「ほんとだぁ〜ちゃん優等生〜!」 そこで優等生って褒められてもあんまり嬉しくなかったけど、どうやら無事仮面が現れ虚化したアタシ。 「その状態やったら案外動けるんちゃうか?」 「せやな…ほな、ちょい向こうの方向いて走ってみぃ。」 「はーい。」 頭の中で”まぁどうせ1分も経たない内に虚化が解けてへばるんだろうなぁ”なんて簡単に考えながら、 言われるままにひよ里ちゃんが指差す方向へ走ったんだけど。 「何か…おかしくない?」 「ん〜…何かおかしいわ。」 「確かにぃ?何か変だよねぇ。」 確かに息切れは無い。全然楽勝で動けるんだけどぶっちゃけた個人的見解から述べると、 アタシはアタシなりに普段のように走っている。走れてるんだけど単に息切れしてないだけで早さが普段と変わらない。 全然変わってない歩くように走ってる。そして、そんなアタシの横を涼しい顔した面々が早歩きで付いてきてるっていう 不甲斐無いにも程がある状況だった。 「スピード感が全くあらへんやん。」 「キレもあらへんな。」 「虚化してるだっけっぽい〜?」 「全然役に立ってへんがな虚化が…。」 おまけに役に立ってないとか言われる始末。 『何なのこれ…。』 ─── 楽になっただろう? 『いやいやいやそういう意味じゃなくてね?』 ─── これなら安心して穿界門も潜れますよ。 『いやいやいやいやいやそういう意味でもなくてね?』 さらに、役に立つ?っていうかアテにしてたカンちゃん(神無月)もアッちゃん(神在月)もクソの役にも立たないどころか 全然理解してないっつぅか、意味通じてないし! 「何かこれで安心して穿界門潜れますねーって喜んでるよ。」 「誰がや。」 「斬魄刀のバカヤロウがっ!!!!!!」 「そら…ご愁傷様やな。っぷっ…。」 「くっ…。」 何でアタシの回りはこんなんばっかなの!?って言いたくなるっていうか泣けてくる。 虚化して仮面つけて安心ネ!ってホントに意味判って言ってんのかコイツ等は。 んでもって!それを茶化して腹抱えて笑ってる場合なのかそこっ!!! 『あのね?虚化してみせる訳にはいかないの。判る?』 ─── 何故ですか? 『虚化はまだ早いの!』 ─── お子様に気遣いなんぞいらんだろうが。 『そういう意味じゃないっ!』 ─── 何が問題なのですか? 「ダメだ…全然やっぱり判ってくんない…。」 「まぁ体力付けるには疲れへんやろし十分やろ。」 「だけどっ!何か釈然としないっていうか妙にムカつくんだけど…。」 何ていうか、敵は思わぬ所に居た!じゃない寧ろ直ぐ側に居たっていうか。本当に釈然としないんだけど、 役に立たない呼ばわりされた虚化で多少なりとも体力がつくならって妥協した。 虚化したまま普段よりは運動してちょっと多めにランニングして? 確かに昨日とは全然違うスムーズさで特訓したんだけど。 アタシはそこで気が付いた。っていうか全然気にしてなかったっていうか。 「あのさひよ里ちゃん。」 「何や?」 「どうやったら虚化解けんの?」 「…………………………ぇ。」 時間が来たら勝手に解けると思い込んでた虚化。 役に立たない虚化(力をあんまり使わない?)だから保持出来る時間が長いのかと思ってた。 けれど、解ける気配が全然無いっていうか解ける気がしない気がしてきた。 「あのさ真ちゃん。」 「っ何や…。」 「自力で虚化って解けんの?」 「………………………知らん。」 「えっ?聞えないんだけど。」 「仮面叩き割ってみたら?」 「被った物なら脱げばいいだろう。」 いや、そんな簡単な問題だっけ虚化って…。 「まぁ霊圧から考えたらボチボチ解けるやろ。」 「せや。ほっといたら解けるやろ。」 「じゃ解けなかったら叩き割ってみる〜?」 「だから脱げばいいだろうが。」 と、またアタシ一人置いてけぼりで皆だけで盛り上がり ───── ってスネても仕方ないし、 さすがにちょっと疲れたから入り口近くに一人戻って階段に腰下ろして座って、 完全に部外者の顔してあーだこーだ言ってる人なんか知らない!って休憩しながら時間でも潰そうって じーっと座ってたんだけど。 「まだか?」 「えらい持つもんやな…。」 「もしかして〜凄いのかも〜!」 「矛盾だらけだな。」 「…………。」 かれこれ3時間が経過したっていうのに、アタシの虚化は解ける気配がない。 実は皆が言い合いしてる時、脱げるんじゃないか?ってこっそり仮面外そうとして失敗した(外れなかった)のは 言わずにいる。だって全然取れなくてちょっと焦ったから。 かといって、叩き割られるのは御免被る。 誰をどう見ても手加減なんか知らないっぽいひよ里ちゃんとか真ちゃんとかましろちゃんに仮面叩き割られる衝撃 与えられた日にゃアタシが真っ二つになる。絶対なる! だからそれだけは断固拒否するつもりだったんだけど。 そこからさらに2時間が経過し、一向に虚化が解ける気配が無い状況にさすがに 「どうにかしてよぉぉぉぉぉっ!」 「ともかく落ち着け、おおおおお落ち着くんだ!」 「お前も落ち着かんかい!」 「ととととともかくここここここ…。」 「ほら〜、皆落ち着いて?とりあえず海に行けばなんとかなるかもしんないしぃ?」 「何ともなるかっ!や、泳いだらもしかすると…。」 「それはない。いっそ山に登って…。」 「ないない!山に登る位なら絶対海だってぇ〜!」 「いっそアイツに連絡してやな?ほんでどないか…。」 「アカンアカン!それだけは絶対したらアカン!」 「ほなどないせぇっちゅーねんな!」 「もぉヤだぁぁぁぁぁっ!」 「ととととととにかく!おおおおおおお…。」 と、雁首揃えてテンパってしまったのです恥ずかしながら。 -------------------- 2009.08.18 ← □ →