本.38


颯爽と登場した喜助さんは、アタシと簀巻きにした面々を交互に見やり大きく溜め息をついた。
多分、何がどうなったからこうなった ────────── の説明を聞かずとも汲んでくれたに違いない。
だから足元に転がる真ちゃんとか真ちゃんとか真ちゃんだけ軽く足蹴にしてるんだよね?
だから本人以外(アタシも含め)気付かないフリをしてるんだよねアタシ達の反応は間違ってないよね!?

「間違っとるわっ!」
「ちょっと!勝手に人の心の叫びを読まないでよ!」
「サン、それ全部口に出てたっスよ。ちなみに間違いは一つもありません。」
「ほらみろ!」
「やかましいわっ!」

と、簀巻き状態の真ちゃんとアタシの攻防は続く ────────── 訳はない。
真ちゃん達がどうしてこんなにも喜助さんに怯えてるのか?それに至るまでの経緯及び原因理由はどうでもいい。
ともかく今はアタシが嫁に行けるかどうか!?の瀬戸際なんだからこの際それは後回しにする。

「っどうやっても元に戻らないの…。」
「そうっスか。」
「、喜助っちゅーのはそういうやっちゃ。心配してるような顔してるけど腹ん中は何考えてるか判らんで?」
「今すぐその存在自体消して差し上げましょうか?」
「っよぉ来てくれたな喜助。、もう大丈夫や!せやからちゃっちゃと元に戻ってくれ!」

その瞬間、皆の心は一つになったに違いない。真ちゃんの台詞に同意してるつもりなんだろう
簀巻きとなった皆はもげそうな勢いで頷いてアタシを見上げたけれど。
方法を聞いてない現在何をどうすれば元に戻るとかアタシにはサッパリな訳で、
そんなに憂いを含んだ視線の集中砲火を浴びたところでどうしようもない。
と、なると当然本音をぶっちゃけたくなるのは当たり前だ。

「喜助さんが来ただけで元に戻れりゃ世話ないわっ!」

その発言が、一瞬で場の空気を凍り付かせるなんて思いもせずに思いの丈をぶっちゃけた。

「そうっスよ。アタシ如きが来ただけでどうにかなる訳ないじゃないっスか。」

そして、アタシ以外の簀巻き軍団が空気と共に凍り付いた。

「っ、落ち着け。な?」
「落ち着かなきゃならないのはひよ里ちゃん達も同じでしょ!」

この時点で、地下を埋め尽くす程の冷気とその発信源に気付いてないのはアタシだけで、
当然そうなった原因とか発言とか全然気付かないままに八つ当たりし続ける。

「このまま元に戻らなかったら真ちゃん!」
「っ何や…。」
「責任取ってよ!死ぬまで扶養させてやるから。」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっおまっお前いいいいいいい…。」

その結果。

「成る程そういう事っスか。」
「っ誤解や!全然誤解や言葉のアヤやっ!」
「サン、ちょっとだけアタシに時間下さいませんか?一度じっくり話し合う必要がありそうで…。」

何故かアタシをほったらかしにした上、簀巻き状態の真ちゃんを担ぎ上げた喜助さんが地上へ姿を消すという
アタシ的に”そんな事どうでもいいじゃん後回しにして先にこっちどうにかしてよ!”な無駄な時間に突入してしまった。


そして二時間後。


「お待たせしました。」
「あれ?真ちゃんは?」

清清しい表情の喜助さんだけが地下へ戻って来た。
けれど真ちゃんの姿は無い ───── っていうか気配すら無いのは何故だ!?

「平子サンなら”少し一人になって人生を考え直したい”と言い残して星になりましたよ?」
「星になるって…どうせ一人だけ逃げたんでしょ!?」
「そういう事にしときますか。」
「ならひよ里ちゃん達も解いてあげていいんでしょ?」
「構いませんよ?一応誤解は解けましたし。」
「ふぅん…。」

曖昧返事な喜助さんの許可も下りた事で、アタシはひよ里ちゃん達の縄を解こうとしたんだけど。

「っ大丈夫や!自分等でどうにでもするさかい後は任せた!」

と、簀巻き状態のまま器用に立ち上がった皆は脱兎の如く地上へと姿を消した。その、後ろ姿を見送る喜助さんの視線には
明らかに何か含まれる感じがしたけれど既に何時間も待たされる身となってたアタシにとって、やっぱり今はそれどころじゃない。

「元に戻る方法、喜助さんなら判るよね?」
「ええ、お任せ下さい。」

結局、喜助さんが到着してから三時間弱が過ぎた夕暮れ頃、アタシは漸く元の姿(仮面装着前)に戻れたのだった。





ちなみに、浦原商店へと帰ろうとする喜助さんに強制連行されそうになった事、
それを岩にしがみ付いて阻止しどうにか留まる許可を得たアタシを
ボロッボロ状態で現れた真ちゃんが”勇者”として褒め称えた理由は未だ、判っていない。




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2009.09.07



---------- おまけ ----------


「で、何でそんなにさ?喜助さんに対して卑屈な程に低姿勢な訳?」

尋常ではない皆(特に真ちゃんとひよ里ちゃん)の怯えっぷりは鈍感なアタシにですら気付く程で

「大体お前があんな事言わんかったらオレはあないな目に合わずに済んだんや…。」
「確かにはちょい鈍過ぎやな。」
「ちょい…やと!?めっさ鈍いわっ!お陰でオレはなぁ!?」
「あのさ?原因はともかくとして理由言ってくんないとアタシだって判んないし。」
「あんな恐怖体験口が裂けても言えるか!思い出すだけでっ…。」
「お前は一回で済んどるやないか!オレなんかなぁ、今日で二回目や!思い出したら何か目から汁が…アカン前が霞む…。」

と、ガクガク震えるひよ里ちゃんとブルブル震えて目に汁(涙)を浮かべる真ちゃん。
その表情は青褪めるを通り越して透き通る白さになっていた。
そんな状態の二人から事情を聞きだすのは流石に酷というものか ───── と、

「ねぇましろちゃん。この二人さ?一体何があったの???」

第三者ではないけれど、多分この中で一番第三者に近いだろうましろちゃんに聞いた驚愕の事実。

「………………そっ、そうなんだ。っそれは何ていうか…あはははは…。」

何を仕出かしたか?は語られなかったがともかく、仕出かしたらしい真ちゃんとひよ里ちゃん。
それにより喜助さんの怒りの琴線触れてしまった二人は思いもよらない形での報復を受けたらしい。

「同情なんかいらん!あの屈辱はっ…。」
「やり方がネチっこいねん!っ人が忘れた頃にあんな極悪非道な事普通やったら出来へんわっ!」

その報復を思い出したのか、二人はさっきまでとは違う意味で震え始めた。
確かに報復内容を聞いた今のアタシとしては同情せざるを得ないっていうか、
喜助さんってば恐ろしく効果的な報復考えたなぁ ───── と感心せざるを得ないというか。

「数時間前までは確かにオレやったのに…何でやっ!?」

や、そこでアタシに問われても答えようがないっていうか。

「しかも出るに出られへんとか…アイツは鬼かっ!?」

だからアタシに聞かれても判んないし。

「何でオレがっ…オレのっ義骸が女体になってんねやあぁぁぁぁぁぁ!!!」





知らねーよ。



---------- おまけ・おわり ----------