本.39


勇者の称号を得たアタシのその後は?というと。

「っ助け ───── !」
「アホかーーーーーっ!」

完全に称号負けっていうか相変わらず進歩無し ───── というか。
気持ちに身体が付いていってないけど頑張ってます。的な感じ?で一応頑張ってた。

「右や言うてるやろっ!そっちは左や!」
「右ってどっちぃぃぃぃっ!?」

それがたとえ空回りしてようが何だろうが頑張らなければならないって必死だったからとにかく必死で、
その必死な頑張りが身を結んだ ────────── かどうかは定かじゃないけれど。

「っどうにか…っはぁ…はぁっ…。」
「どうにかやっとこさやないか。どないすんねんそんなんで!」
「っもう…ぶっつけ本番に掛けるしか…。」
「本気で言うてんのかそれ?」
「うぅっ…。」

訂正、アタシの頑張りは一切身を結んではいなかった。つまり

「嘘言うてもしゃーないさかいハッキリ言うたるわ。もう無理や!」
「そんな酷いっ!」
「酷いんはお前の体力や!」
「ガーン…。」
「お前…まだふざける余裕あんのか。」
「っごめんなさい…っでも!」
「諦めとけ、とは言わん。けど普通に穿界門抜けるんは無理や。」

頑張りの全ては無駄に終わった。
最初に比べたら多少は体力付いたかもしれない。けれど、穿界門を自力で走り抜けられる程の体力を得る事は叶わなかった。
せいぜい徒歩で時間を掛けて尸魂界へ行くのが精一杯だろう。

「判ってたわよ…。」
「お前…。」

ホントは心のどっかで判ってた。気付く事も大切だと思うし自覚しなきゃならない事も判ってた。
ただ、それを認める事をアタシ自身が拒絶してた。認めたくなくて気付かないフリをしてた。
けどそういう訳にもいかない事は残された時間が少なくなってきた事で認めざるを得なくなった。

「仕方ないよねぇ…精一杯でこれだもん。」

自分の限界を知れただけでもマシだと思わなきゃやってらんない。

「どないする気や?」
「あと2日あるからどうにか考えてみる。」
「そうか。お前が納得してるんやったらええ。」
「ありがとね。」
「それと、どないもならん思ったら相談したらええ。」
「相談?」
「アイツに相談してみぃ。どないかしよるやろ。」
「アイツ ───── って喜助さん?」
「他に誰がおんねんな。」
「たまには頼ったれよ?頼って困らせたったらええねん。」
「でも迷惑掛けたくないし…。」
「俺等に散々迷惑掛けといて今更やろ。お前の事やからいっこも頼った事ないんちゃうのか?」
「迷惑は掛けまくった気がするけど…。」
「向こうは迷惑とはおもてない思うで?」
「 ────────── うん。帰ったら…頼んでみる。」

それに気付かせてくれて、我侭聞いてくれた彼等に感謝して。
彼等との時間を終えたアタシは別れを告げ、自分が帰るべき場所へ戻った。
そして一度家に荷物を置きに帰り、一護が戻ってる事を確認してあの場所へ向う。 

「こんにちはー!」
「お帰りなさい、サン。」
「っただいま ───── 帰りました。」

笑顔で出迎えてくれた喜助さんに、結果の報告とお願いをする為に。





「あれからどうでしたか?」
「特に変化もなく?」
「そうっスか。一護サンは今朝戻られました。」
「今朝か。一護も頑張ったんだね…。」
「ええ、今出来る限りの事は全て。2〜3日身体を休めれば行けるんじゃないでしょうかね。」
「2〜3日で尸魂界に行けるって事?」
「ええ。穿界門の調整も終わってるんでその気になれば今直ぐでも行けるっス。」
───── 2〜3日っていうのは一護の体調を考えての時間って事かぁ。
「サン?」
───── 喜助さんに頼ってみろって真ちゃんは言ってたけど…。
「どうかしたんスか?」
───── 喜助さんは喜助さんで忙しいんだろうなぁ。
「聞いてまス?」
───── 尸魂界に楽に行く方法か…。

現世と尸魂界を簡単に行き来する方法。それを喜助さんの手を煩わす事なく行えないか?を
昨夜一晩中考えてた。それは、喜助さんを頼りたくないからじゃなくて
手一杯かもしれない喜助さんを煩わせたくなかったからだった。
そして一つ思いついたある意味危険で、けれど非常に楽かもしれない方法。
アタシとしては、その方法は避けたい ───── ある人を頼る方法。

───── ギンちゃんなら…頼んだら連れてってくれるかもしんない。

これから敵として対峙する事になるギンちゃんを頼るのは不本意だと思う。
でも最後にもう一度逢って話ししてみたい気もする。で、もしギンちゃんが逢いに来てくれたら
そのついでに ───── ってのは虫のいい話かもしれない。
けどどんなに考えてもそれ以外、アタシが尸魂界に足手まといにならずに辿り着く方法を思いつかなかった。

「どうしよっかな…。」
「サン、今何考えてるんスか?」
「何って…。」
「まさかとは思うんスけどアタシと対面してる今この状況で他の男の事、考えてるんじゃないでしょうね?」
「うぇっ!?」
「やっぱり ───── 平子サンの忠告通りっスか。」
「へっ!?」

平子さんの忠告って何!?

「何でアタシに相談してくれないんスか。アタシはそんなに頼りになりませんか?」
「や、そういうんじゃなくて…ね?」
「頼りにならないアタシは見限ってあの男を頼るつもりで?」
「あの男って何かなぁ…あはは。」
「笑って誤魔化すおつもりで?」
「っいえ…そうではなくて…っその…あのっ…。」
───── よ、読まれてるっ!?

っていうか、平子さん ───── 真ちゃんからの忠告って事はつまり真ちゃんに既に読まれてて
おまけに先手打たれててモロバレしちゃってる!?

「ごめんなさいっ!ただアタシは迷惑掛けたくなくてそれでっ…。」
「迷惑掛けたくないとかくだらない理由で言い出さないかもしれないだろう ───── と。」
「えっ?」
「今朝平子サンから連絡がありました。サンがきたら問答無用で問い詰めろと。」

あの裏切り者めっ!そんな連絡されたらアタシの考えなんかバレバレになるじゃないのっ!

「正直に話して下さい。どうしようと思ってたんスか?アタシを頼らずにどうやって尸魂界に行くつもりで。」

とてもじゃないがバカ正直に言える雰囲気じゃない。はんなり笑顔浮かべてるけど
喜助さんの目は全っ然笑ってない。笑ってない上にアタシの考えは既に知ってるってか読まれてる訳で、
その上でアタシの口から言わそうって魂胆丸見えで

───── どんだけ鬼畜なんだっ!

ただでさえ喜助さんの前でギンちゃんの事は話しにくいってのに、
ギンちゃんにお願いしよっかな〜って思ったりしちゃいました〜なんてどの口で言えるか!

「サン?アタシには言えませ ───── いいえ、アタシには言いたくないって事っスか?」

言えない。絶対言えやしないよ…って今思ったとこなのに。喜助さんが笑いながら”さぁ言ってみろ”って目で訴え
”言えないなら言わせてやろうか”って雰囲気で威圧してくるもんだからアタシは腹括るしかなかった。

「ギンちゃんに…。」

たとえ小声になろうが仕方ない。

「聞えませんねぇ。」
「ひぃっ!」

トゲトゲしい言葉に怯えても仕方あるまい。

「っギンちゃんにお願いする事をちょっとだけ候補に上げましたっ!」

芽生えた恐怖(?)に打ち勝とうという気力は完璧に削がれ(萎え)、アタシは土下座する勢いでぶっちゃけた。その瞬間

───── 説教確定だな。
───── これもまた運命です。

と、小ばかにしたようなカンちゃんと同情めいたアッちゃんの声がアタシの中に木霊したのだった…。





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2009.11.14