本.40 にっこにこ笑顔なんだけど目が笑ってない喜助さん。アタシはこの笑顔を何度も見た ───── んだけど、 多分その中でも最っ高にイイ笑顔な気がする。怒りも含めて。 ───── 余計な事考えている場合なのか? 『っだって…。』 ───── 表情に出てるんじゃないでしょうか…。 『嘘っ!?』 身震いするような表情の喜助さんを前にして、つい逃避したくなるのはアタシが生きてる証拠だ。 だから仕方ないじゃないか!と思いつつもアタシの神経はそこまで太くない。 たとえワイヤーのような神経だったとしても、さすがにこの状況で開き直れる程根性は座ってないのだ。 という訳で、目を合わさないようなるべく顔を上げないようにして対策会議の真っ最中だったりする。 アタシの絶対的味方であるカンちゃんとアッちゃんと共に。 ───── 先手必勝だろうな。 『っどういう事!?』 ───── 先に折れるべきです。 『謝ったわよ?アタシ。』 ───── そうじゃないだろ。 ───── 、謝罪した後が大切なんです。 『じゃどうすればいい訳!?』 ───── 簡単な事だろう? ───── ですね、彼は存外…。 『存外何!?どどどど…』 ───── 杏子、誰にでも弱みはある。 『弱みぃ!?喜助さんの弱みなんか知らないしっ!』 ───── よく思い出してください?あの方が仰った事を。 『あの方って誰!?』 ───── とても有効的な手段を伝授してもらっただろう。 『そんな手段伝授してもらった覚え無い…。』 ───── やり方としては同じ感じだろう。 ───── そうですね。基本は同じですから。 『っだから何なの!?』 ───── 涙を浮かべて…。 ───── ”お願いっ”ですよ? 大丈夫なのかコイツらは。第一この危機的状況で涙浮かべて何をお願いしろっていうのっ!? ───── 基本ですよ? ───── アレンジ次第だな。 『アレンジってアンタ…。』 ───── 彼は弱いんですよ。 ───── 甘い、が正解だろうがな。 『それって…もしかして?』 滅茶苦茶な手段じゃない?とは思いつつも、カンちゃんもアッちゃんも大丈夫だとウンウン頷くもんだから 『っ本当に大丈夫…かな?』 ───── 杏子だから問題ない。 ───── だから大丈夫なんですよ? 再確認をした後、脳内で作戦を再構築する。 つまり、カンちゃんとアッちゃんが言う事を鵜呑みにするとして、喜助さんはアタシに甘いらしい。 その裏付けは真ちゃんの伝授してくれたアレで、それを基本にアレンジしてそんでもって要するに ───── 。 『要するに、ちゃっちゃと謝って(謝ったけど)素直にお願いしろって事…だよね?』 ───── それで問題ない。 ───── さすがです。 要するに、何を置いても素直になれという事なんですね判ります判りましたよ!!!!!! 「っ喜助さん…っそのっ…。」 「作戦会議は終わりっスか?」 「ひっ…。」 で?更に威力を増した笑顔の喜助さんを前に、アタシにどうしろと。 「アタシを気遣う必要はないんスよ。」 「ハイ…。」 取り合えず最後の手段として考えてたギンちゃんとのあれこれを素直に白状した上で(詳細含む)再度謝罪し、 (何でアタシが謝罪してんだ!?って実はちょろっと思ったとか思わなかったとかは即効思考の隅に追いやったけど) 改めて相談した事で引き続き続くところだった正座させられたままでの対峙という恐怖は回避出来た。 普通に怒ってる時の笑顔の三割り増しだった笑顔は通常に戻り、全く笑ってなかった鋭い眼光も普通になって アタシとしては一安心っちゃあ一安心なんだけど。 「っどうしたらいいか…判らなくて。」 「考えてあるんスよ。」 「へ?」 「こうなる事は最初から判っていた ───── と言ったら怒りますか?」 「それってどういう…意味?」 「さんが平子サン達の元へ行った時点でこうなる事が判っていた、という事っス。」 「アタシが最終的にはギンちゃんを頼るって事?」 「それじゃないっス。」 「スイマセン…。」 じゃどれだ!?と、ブツブツ考えて考えて ───── 考えて捻り出した答え。 「もしかして真ちゃんも…判ってた?」 「ハイ。」 「だからあの時あんなに…?」 「そうっス。」 アタシの斬魄刀 ───── カンちゃんとアッちゃんの事を知った真ちゃんはどえらい剣幕でアタシを怒鳴りつけた。 ”そういう大事な事は先に言わんかいこのドアホがっ!!!”と。 今思い出してもいきなり怒鳴るもんだからムカっきたけれど、もしかしてあの段階で真ちゃんにも判っていたんだろうか? 「アタシには絶対無理だって判ってて…行かせてくれた?」 「言っても聞かないのは判ってましたから。」 「判ってて…っそれでもアタシに付き合ってくれた…の?」 「乗りかかった船から簡単に降りるような人達じゃないっスから。」 つまり、喜助さんも真ちゃん達もこうなる事が最初から判っていて、 その上でアタシの我侭に付き合ってくれたって事になる。 アタシの性格を把握して、止めても聞かないだろう、自分で自分を知らない事には納得もしないだろう ───── と、 好きにさせてくれたに違いない。けど、何でそこまでしてくれるんだろうか? 「言っても聞いてくれないと思ったんスよ。」 「っそれは…。」 確かに、やってもみないでいきなり無理だと言われたらアタシは余計意固地になっていたと思う。 自分でやってみて、必死でやってそれでも無理だとアタシが納得したからアタシは今ここに居て。 「やっぱり迷惑掛けたんだなぁ…。」 「迷惑だなんて誰も思っちゃいませんよ?」 「そっか…ならいいんだけど。」 どんなに努力しても叶わない事だってある。今回それに気付けた事だけでもアタシにとっては良い結果だったかもしれない。 「どうにかなりますか?」 「勿論っス。アタシがどうにかしてみせます。」 自分の限界を知り、それを補う為に手を貸してくれる人がいて、それがどれ程恵まれていてどれだけ安心できるか。 「ありがとう…。」 「最初から頼って貰える方がアタシとしては有りがたいんスけどねぇ。」 「っ今度は…そうする。」 「そうして下さいよ。」 「うん。」 喜助さんとこんな風に ───── 隠し事もなく素の自分を曝け出しても不安にならずに居れる今がある事に、アタシは感謝した。 こうなるまでには色々あったけれど、やっぱりアタシが選んだ選択肢は間違いじゃなかった。 その結果が今を与えてくれてるんだから、間違いじゃなく正解だったんだ。と、本当に心から思え ───── るけど。 「それじゃあ説明しますから。」 「えっ!?」 「足手まといにならずに尸魂界まで行く方法っス。」 「は?や、あの…。」 「どうかしたんスか?」 「もう方法とか手段とか…あるの?」 「当然っス。アタシを誰だとお思いで?」 浦原さん、幾らなんでも仕事早すぎじゃね?あ、アタシの今日までの苦労って一体………。 -------------------- 2009.11.25 ← □ →