本.44


「…………………………。」
「…………………………。」
「…………………………何よ。」
「何よ…ってお前なぁ!いきなりおバカはねぇだろっ!」
「だってそうでしょっ!この考え無しっ!」
「おまっ!」

尸魂界に来るまでの色んな出来事も含め、アタシは悩み考えてやっとこの場に立ってる。
なのにそれを一護に邪魔されるとは思わなかった。
一護がアタシの為を思ってやってるのは十二分どころか嫌って程解ってる。解ってるけどっ!
尽くアタシの斜め上を行ってくれるからアタシの段取りも含めてそれまでの全部が頭から吹っ飛んで、思った
ことを留め置く事もせず叫んだ。 こ の お バ カ ! と。

だってよ?アタシは決断が早い方じゃないから結論を出すのに時間が掛かる訳で。
余裕の無い今の状況で何とか考える時間を捻り出して回答を導き出して行動しようって思って行動してるのに。
何が悲しゅうて一護に邪魔されにゃならんのよ!!

「もぉダメ…。」
「だから何がダメなんだよ!言わなきゃ解んねぇだろっ!」
「アタシは一護の邪魔しないよう必死にやってんのに…。」
「お前ら俺の事忘れてんじゃねぇだろうな。」
「あっ、いやその…………………………。」
「(忘れてた……………………………。)」
「上等だ。お前ら二人纏めて掛かってこい!!」

オマケに、湧き上がる怒りに存在をすっかり忘れてた一角が怒り出した。(そりゃそうだ)
二人纏めてとか冗談じゃないって!アタシの何処を見て戦闘要員と勘違いしてんだこのつるりんはっ!

「じゃ、一護後は宜しくネ☆」
「杏子っ!?」
「仕方ないから離れて待っててあげる。話はそこのつんつるりん黙らせてからよ。」
「解った。」
「解った。じゃねぇよ!それにそこの女!俺はつんつるりんじゃねぇ!!!」
「頑張れーいーちーごっ!」
「おう!」
「だからお前らいい加減にしねぇと…っ!?」

アタシはさっさとこの場を終わらせてもらって自分が取るべき行動に路線変更しなきゃならない。
と、いう訳で一人安全地帯へ移動しておっぱじまる戦闘の巻き添えを喰わないよう座り、
その様子を傍観 ────────── 出来たのは最初の暫くの間だけだった。

力と力のぶつかり合い。容赦のない”斬り合い”という行為を、目の前で一護が繰り広げている現状。
それはアタシが思っていた程甘いものじゃなかった。
けれど、現実問題としてアタシは傍観する以外何も出来ない。
一刀ごとに血を流す一護と一角の様子をただ黙って見てるしかない自分の力なさに毎度の事ながら凹む他なく。

───── ならせめて。

この先に訪れるであろうアタシがムリをしてでもこの尸魂界へ来た目的を果たす為に、アタシが居合わせた
戦いだけは目を背ける事無くこの瞼に焼き付けよう ────────── そう思った。






一護Vs一角の戦いは予定通り一護の勝利で終わる。
鬼灯丸から傷薬を無断で拝借して一護と一角の傷の手当てを済ませ、一角が目覚める前に
今後の自分の行動を一護に伝えようと思ってたのに。

「…なんで俺は生きてんだ?」
「目ェ覚めたか?」

伝える前に一角が目覚めた。
一発ブン殴って時間作る?と拳を握り締めてみたが先ずムリだろうから即断念。

「それじゃ…恩に着るぜ一角。」
「着なくていいぜ気色悪い。」

ルキアの居場所を教えてもらい、その事に対して一応お礼を言って、

「…………………………そいつの名前は?」

剣八っつぁんの名を教えられ、改めて岩鷲を探すべく一護とその場を離れて先に進む ────────── んだけど。
歩き出した一護に着いて行く前に、一言だけ一角に伝えたかった。

「…………………………何だ?」
「…………………………ゴメンね。」

何も出来ず、ただ見ている事しか出来なかった事。
何故こうなってしまったか?知っていながら何も出来ず、斬り合わせてしまった事を謝罪の言葉として。

この”斬り合い”は決して無駄ではなく、一護と一角のどちらにも必要だった事なのかもしれない。
それでも、謝る事で自分の中にある折合いが付かない複雑でもやもやしてる気持ちを軽くしたくて、
ただ自分の気持ちを軽くしたくて謝った。それがズルイだけの行為だと解っていながら。

「さっさと行かねぇと弟に置いて行かれちまうぞ……。」
「……………………うん、ありがと一角。」

そして、先に歩き出した一護を追ってアタシは歩き出した ────────── のだが。

「オラァ!!どこだガンジュ ────────── !!!」
「いたぞォオあ!!オレンジ髪の死神だァ!!!」
「しまった…追われてんの忘れてた。」
「このアホーーーーーーーーーーーっ!バカ一護っ!!!!!!!!もはやこの展開はワザとじゃないんだろうか……。




















その頃の現世。

カチャリカチャカチャ
ゴンゴン
カチャリッ

「アタシとした事が…勢いに任せてつい…。」(破壊した盗聴受信機を修理中)





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2010.03.01