本.46


念願の死覇装を無事入手したアタシは移動はせずそのまま四番隊敷地内の木陰で着替えた。
そして脱いだ自分の服を死覇装を包んでた風呂敷に包み、

「よーし準備完了!これで第一関門はクリアだわ!」

その風呂敷を腰に巻き付けて意気揚々、堂々と瀞霊廷を闊歩する。
とはいえ、一応死神の気配を感じたら顔を合わせないで済むよう相手の気配とは逆方向に移動したり、
逃げ場のない場所では俯いてすれ違うよう心掛けてた。
ちなみに意気揚々、堂々と闊歩ってのはまぁ言葉のアヤっていうかちょっと大げさに言ってみただけだったりする。
だって見つからないに越した事は無いし、何処で誰と出会うかは判らない。
下っ端死神なら適当に誤魔化せても三席・副隊長・隊長となると誤魔化しは効かない筈だ。

「気を付けなきゃね…。」

単独行動してる今、これまでみたいなついうっかり…で余計な事に巻き込まれたり仕出かしてもアタシは自分で対処し切れない。
だからこそ、夜一さんと合流するまでは絶対気を抜いてはいけない。

「迂闊な行動は絶対止めて慎重に行動。うん、これでいい。」

注意すべき事をあえて言葉にして口にして、改めて気を引き締め直しながら ────────── 歩き続けた筈が。

「何で……。」

夜一さんの霊圧が途切れた事が原因なのか?それともアタシの単なる不注意なのか?は
解りたくないっていうか考えるのも恐ろしいから考えるのを拒絶したのも失敗かもしれない。
アタシは確か、瀞霊廷の道路?みたいな場所を慎重に歩いてた筈だ。
なのに何処をどう通れば辿り着いたのか解んないし何時景色が変わったかも覚えてない。
けど、ふと気付いた時(今)何故かアタシは建物内の廊下を暢気に歩いてた。

「やっ、やばい…。」

近くはないけど遠くもないあちこちから感じる霊圧。
その霊圧の雰囲気が一気に変わってた。
下っ端死神なんかお呼びじゃないっていうか、比べるは失礼千万な?大層な霊圧があっちこっちに感じられる。

───── お、落ち着けアタシ!!

おまけに結構な霊圧が近付いてくる今、慌てて逃げたら怪しまれる事間違い無し!状況だ。
俯いてすれ違って、その霊圧が離れてから何処かに身を隠してやり過ごして改めてここから逃げ出せばいい。
そう自分に言い聞かせ、汗ばむ手のひらを握り締めて逸る鼓動を必死に落ち着かせて近付いてくる相手の目に触れないよう、
目を合わさずに済むよう礼をするよう頭を下げた。

───── はっ、早くどっか行っちゃって!!

相手がアタシという存在を気にも留めず、早く通り過ぎてくれるようただ必死に祈る。
その、必死の祈りはどうにか届いたのかもしれない相手はアタシの存在に気付かなかったように足早に通り過ぎた。

「っ助かった…。」

ホッと一息…どころじゃない、はぁ〜〜〜〜〜っと息をついて胸を撫で下ろし、

「ったく誰だったのよ今の。寿命が縮んだじゃない!」

愚痴りながら後ろを振り返ったのがそもそも間違いだった。
足早に通り過ぎた筈の誰かさんが何故か立ち止まっている。
そして、ゆっくりとこっちに振り返るのが見え ────────── た時点でアタシの運命は決まった。

「ってめぇ!?」
「げっ!?れっ ────────── 恋次!?」

よりによって誰かさんが阿散井恋次とはどこまでアタシは運がないんだ!?
面識の無い誰かならどうにかなったかもしれない。
けれど、恋次とはバッチリ面識がある上に思い出したくもないけどアタシは恋次に喧嘩を売った覚えがある。
あー思い出さなきゃよかった。
っていうか何でこんなとこウロついてんのよアンタっ!もしかして今から一護んトコ向う途中だったり?
はともかく今恋次と対峙してるのはアタシだったアハハ ────────── って笑っちゃいるが笑ってる場合じゃない。

「やっぱり旅渦はお前らだったのかっ!」
「だったら何さっ!」

売り言葉に買い言葉っていうの?絶対やっちゃいけないのについうっかりキャンキャン吼えてしまった。
ちきしょう大型犬め!子犬相手に吼えんじゃねぇよ!

「丁度いい、今ここでお前を捕まえりゃ…。」
「だっ、誰がアンタ何かに捕まるかっての!」
「上等だっ!」

ジリジリと縮まっていくアタシと恋次の距離は一瞬でも気を抜けば手が届く距離だ。
アタシはその距離を少しでも保とうと、ジリジリ後ろへ移動しながらどうにか距離を保ったけど。

「逃げ場はねぇぞ。」
「うっさい!あっ、アタシには最終兵器があるんだからっ!」
「口だけは達者じゃねぇか!やれるもんならやってみろっ!」

大型犬に小型犬が敵う筈もない。
ならばアタシは今この瞬間子犬の皮を脱ぎ捨てて猫を噛む鼠になる。
窮鼠猫を噛むを実践してやるわ追い込まれたアタシを甘く見んじゃないわよ目にもの見せてあげるわっ!
と死覇装の両方の襟を自分で掴んで勢い良く思い切りよくガバッと左右に開き

「いやあぁぁぁぁぁぁぁっだれかあぁぁぁぁぁぁっ!」
「ちょ!お前なっなっなっ!?」

声の限りに大声で叫んだ。(絹を引き裂くような悲鳴とはこの事である、ウフフ。)
そして慌てふためく恋次には目もくれず、ナイスタイミングで近付いて来た足音の相手にしがみ付いて涙を零しながら訴えた。

「阿散井副隊長がっ…無理やりっ…うぅっ…。」
「違いますっ!ソイツはっ…。」

アタシは今、女優になった。

「この騒がしい中で見習い死神に懸想やなんて笑えん冗談やなァ阿散井副隊長さん。」
「だからコイツはっ!」
「この子、ウチの新人さんなんや。心配せんでもええよ、今回だけは見逃してあげるさかい。」
「なっ!?」
「ほな、行こか?ちゃん。」
「………………………。」
「市丸隊長っ!!」

が、地獄に仏とは所詮迷信だと気付く。
よりによって近付いて来た足音の相手が何故ギンちゃん!?なギンちゃんの手によって恋次から救い出された上で
捕獲されたアタシは手際よく俵担ぎされ、何処かへ連行される羽目になったのでした………。




















その頃の現世 ──────────────────── は割愛させて頂きます。
(破壊した盗聴受信機を修理中、復旧進展率85%)





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2010.03.22