本.47


恋次から逃れる為に巻き沿いにした”通りすがりの誰か?”がギンちゃんだった不具合に脱力し、
抵抗する気力も歩く気力も失ったアタシは担がれたまま隊舎内を移動していた ────────── とはいえ
行き先が不明となると不安も沸くってもんで、行き先の決定権を持ってるギンちゃんに

「何処行くのー?」
「せやなぁ何処行こか?」
「アタシに聞いてどうすんの…。」
「それもそやなぁ。」

聞いたのが多分間違いだった。
ギンちゃんがあの場に現れたのは単なる偶然だったとして。
偶然その場に遭遇しただけのギンちゃんにアタシは運良く救い出されただけだ。
そう、全て偶然の上に成り立ったラッキーな出来事に過ぎない。

「あ…言い忘れてた。ありがとねギンちゃん。」
「どないしたん改まって。」
「恋次から助けてくれたお礼?」
「そんなん気にせんでもええのに律儀やねぇちゃんは。」

だからお礼を言うのは当然だし俵担ぎされたままの移動も楽っちゃ楽なんだけど。
行き先不明のままってのも困るし行き先が明確だったらもっと困る。
それでなくても”市丸隊長が俵担ぎする死神”にすれ違う死神さん達が興味津々な視線を投げかけてくる始末。
アタシはここから目立たずひっそり抜け出す予定だった筈なのに、目立たずひっそりどころか思いっきり目立ってるじゃん!

「もう大丈夫だから降ろしてくれていいよ?アタシ行きたいとこあるし…。」

このまま晒し者で移動し続けたら面が割れるとも限らないし、アタシにはあと一人避けなければならない死神がいる。
バカ恋次からは”市丸隊長”のお陰で逃げられたけど、あと一人が今現れたらそういう訳にはいかない。
つまり、ギンちゃんと一緒だとはいえアタシは堂々と隊舎を移動してる場合じゃないのだ。

「ボクと一緒におるのががそんなに嫌なん?」
「そうじゃないけど…さっき『何処行くの?』って聞いたら解んないって答えたのギンちゃんでしょ?」
「せやねぇ…。」
「あのね?ギンちゃん。アタシあんまり目立ちたくないの。なのに今思いっきり悪目立ちしてんだよね…。」

なのに、ギンちゃんはアタシの事情を知ってか知らずか飄々としてる ────────── っていうか多分ワザとだなこれ…。

「で?ホントは何処行くつもりなの?」

はぐらかしてるっぽい事ばっか言ってるくせにギンちゃんの足取りは確かに何処かへ向っている。
それはつまり、目的地があるって事だ。

「ここやったら安心して隠れてられるやろ?」
「ここって…………。」

堂々闊歩するギンちゃんに俵担ぎされ、悪目立ちしながら到着したのは

───── やっぱりここかっ!

確かに安心して隠れてられるお約束な三番隊隊舎でございました………。





三番隊隊舎到着後、アタシはギンちゃん直々にお茶とお菓子を貰って隊首室に匿われた。
おまけに無断立ち入り禁止っていう念の入れようで、アタシとしてはとぉーってもありがたいんだけど。

───── これって………。

これって保護されたっていうより軟禁っていうか監禁されてるんじゃない?ってちょっとだけ思ってしまった。
けどギンちゃんに限ってそんな事する筈ないし?
本気でそうするつもりならここじゃなくてあそこに連れてかれてるだろう。
だから此処にアタシが居るのは身の安全の為…だよね?

『心配せんと昼寝でもしてたらええよ。イヅルも許可無しで入ってはこれへんから。』
『昼寝はさせてもらうとして、ギンちゃん何処か行くの?』
『ちょっとお出かけしてくるさかいに大人しい待っててや?勝手に出て行ったらアカンよ?』

念押ししたのは勝手に出歩いたら危険だから…だよね?

───── ヤだなぁ…。

場所が場所、状況が状況だから疑り深くなっても仕方ないとはいえ、
アタシに対して嘘の無かったギンちゃんを疑ってしまった自分の余裕の無さが嫌になる。

───── ちょっと焦りすぎてんのかも…。

スタートで躓いた時点でアタシの中から余裕は無くなり焦りばかりが大きくなって。
それでも漸く確保した考える時間も束の間、ちょっと復活した余裕はいきなりのアクシデントでまた無くなった。
余裕もへったくれも無い状況だったとはいえ、仮にも命の恩人であるギンちゃんを疑ってしまうという
一番やっちゃいけない事をやらかしてしまうなんてまるで喜助さんと和解と決裂を繰り返してた時のようだ。

───── 反省しなきゃまた同じ事やっちゃいそうだわこれ…。

疑心を抱くのは悪い事じゃないけど過剰な疑心は暗鬼を生む。
疑心暗鬼に陥ったアタシはその結果、自分も傷付きそれ以上に喜助さんを傷付けた。

───── 大丈夫…ギンちゃんはアタシに嘘は言わない。

だからこれ以上同じことを繰り返さない為にも自分を信じるしかない。
一護と恋次の衝突を遠くに感じながら、その身を案じながらアタシは自分に何度も”自分を、相手を信じるのだ”と
言い聞かせ ────────── てた筈が何故かウトウトし始め。

「何でこんなに緊張感無いのアタシ…。」

ドップリ夜も更けた頃に目が覚めて、ウトウトする前反省した以上に反省したのだった。





「おはようちゃん。ほな行こか?」
「へ?何処に?」
「それはボクも知らんよ。ちゃん何処か行きたいとこあるんと違うん?」
「あるけど…。」
「昼間より夜の方が他に見られる事も少ないやろし…取り合えず行こか。」
「あ…うん。」

そして、アタシが目を覚ますのを待っててくれたんだろうギンちゃんの眩しい笑顔に更に反省し、気遣ってくれてる
ギンちゃんの心遣いに更に更に反省し、土下座 ────────── するのは思い止まりとにかく必死で反省したのだった。

───── ゴメンねギンちゃあぁぁぁぁんっ!

顔には出さず、主に心の中で。




















その頃の現世 ──────────────────── は割愛させて頂きます。
(破壊した盗聴受信機を修理中、復旧進展率98%)





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2010.04.07