本.50


ギンちゃんと別れ、アタシが一人夜道を歩いていると

───── もしかして…。

まるでアタシがギンちゃんと別れるのを待っていたかのように近付いてくる霊圧を感じた。
真っ直ぐアタシに近付いてくる霊圧は

「夜一さん!」

思ったとおり夜一さんで。
アタシはやっと夜一さんと合流出来た喜びに

「やっと逢えた〜!良かった〜!」

夜一さんの身体を抱き上げて頬擦りしながら喜びを噛み締めた ────────── が。

「夜一さん?」
「…………すまぬ。」

何故か夜一さんはアタシに対して謝罪の言葉を口にした。
その上、どう抱き直してもアタシと目を合わせてくれない。

「何かあったの?」
「何もない!儂は何も知らん!」
「変な夜一さん…。」

夜一さんがアタシに対して疚しい事は無い筈だし?
お腹でも痛いのかしら?とアタシはそれ以上追求するのをやめておいた。

「それよりもじゃ!、お主今まで何をしておったのじゃ?」

だから夜一さんの問いに何を隠す事もなく此処に至るまでの全てを洗いざらい話した。
一護と岩鷲に付いて行く事に体力の限界より先に忍耐力が切れた事や、
チャドと合流しようかと思ったけど喜助さんに注意されてた事を思い出してそれを止めた事。
その上で夜一さんと合流するつもりで一人行動する事にして、安全の為に死覇装を一角から借りて
夜一さんを探してる内に何故か隊舎内を闊歩していた事。
そこでうっかり恋次と遭遇して捕まりそうになったところをギンちゃんに助けて貰った事も含めて全てを
事細かに説明した。(ギンちゃんがくれたお茶菓子がおせんべいで、それがすごく美味しかった事も全部)
但し、ついさっきの手を繋いで歩いたり別れ際の抱擁の事は言わなかったっていうか言えなかったけど。

「っそうか!それは大変じゃったの!」
「そうでもないよ?ギンちゃん凄く優しいし親切だし?」
「っ!」
「ん?どうしたの夜一さん?さっきから様子がおかしいけど…。」

なのに何で夜一さんはこんなに慌ててるんだろうか?
慌ててるっていうかかなり焦ってる?

「まぁ良かろう。儂と合流した以上は心配も無い!」
「そうだよねっ!」

訂正。
かなり…じゃなくて相当だ。
アタシと目を合わさないようにしたり、かと思えばアタシを食入るように見つめたり?

───── まるで…。

目で何かを語ってるから悟れ!って言ってるような???

───── まぁいっか。

いくら月が明るいからといって、黒猫の夜一さんの黒目を見ても何を伝えたいのかはちっとも判らないし。
無事合流出来たからまぁいいや ────────── と、深く追求しなかった事を後悔するのは現世に戻ってからになる。










何はともあれ、無事夜一さんと合流出来た事でアタシの体力は人並み以上一護未満になり、
夜一さんを抱いたまま屋根から屋根を移動して目的地に到着する。

───── ここが…。

浦原商店の地下にある勉強部屋。
あの地下の広大な土地の元になった場所。
アタシは夜一さんと共に、一護がここに来るまでの間身を潜める事になる。
あの夜以来の、夜一さんと二人きりの時間。
あの時とは違って、一方的じゃない会話のある時間。

「、お主に聞きたい事がある。」
「何?」
「お主…何故此処に来たのじゃ。」
「此処…ってこの場所?」
「尸魂界へ…じゃ。」

アタシは多分、聞かれるんじゃないか?って気がしてた。
喜助さんがアタシにそれを聞いたように、夜一さんも聞くんじゃないか?って。

「ルキアを助ける為に来た…って言っても信じてくれないんでしょ?」
「その理由を喜助が納得したと言うのなら信じてやっても良い。じゃが…違う。お主の真の目的は何じゃ?」
「喜助さんに言わなかった目的を夜一さんに話したら後が怖いから言わない。」
「つまり、言えば絶対に止められるから言わなかったという事じゃな?」
「そうでもないけど…。」

アタシがここに来た理由はたった一つ。
あの瞬間の為だけにアタシはこの尸魂界に来たのだ ────────── あの瞬間、あの一瞬を阻止したいが為に。
だからアタシはその時が来るまでは何もしない。
その時を見逃さない為、その瞬間に確実に反応し動けるように全ての力をその時まで大切に温存しておく。
一護と、アタシ自身の為に。

「危ない真似をするつもりか?」
「そうならないように頑張るつもり。」
「そうか…。」
「うん。だって”傷一つでも付けて戻ってきたらどうなるか判ってんだろうな?”的ニュアンスで喜助さんに念押しされたし。」
「…………………そうか。」
「すっごい眩しい笑顔なんだけど全っ然目が笑ってなかったんだよ!?怖いのなんの…。」
「、それ以上は…。」
「まぁあの笑顔もさ?何回目だよっ!って位見たから多少耐性も付いたからマシだったけど。」
「、儂の話をき…。」
「喜助さんてさ?何であんなに過保護なんだろ?まるでお父さんが二人居るみたいっていうか?」
「!」
「ウチの親父程じゃないけどさ?近いんだよね…何か。」
「…それ以上は口を開くなっ!儂は…儂はっ!!」

だから何でそんなに夜一さんが慌てる必要があるかなぁ………不思議だ。




















その頃の現世。

『喜助さんてさ?何であんなに過保護なんだろ?まるでお父さんが二人居るみたいっていうか?』
『!』
『ウチの親父程じゃないけどさ?近いんだよね…何か。』
『…それ以上は口を開くなっ!儂は…儂はっ!!』

───── アタシは…父親扱いなんスか!?

バキッ!(破壊音)



********** しばらくおまちください **********



「店長…今の音はっ!?」
「申し訳ないっス、つい卓袱台を…。」(懲りて二度目は卓袱台を破壊)





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2010.05.08