本.53 双極の丘の上を目指してえっちらおっちら歩いていた最中、突然力が抜けた。 もしかすると、供給先である夜一さんが戦闘に突入してこっちに回すだけの余分な体力(霊圧?)が激減したのかもしれない。 「多少供給がある内に辿り着かないとマズイかもしんない。」 ここまできて余計な体力を使う訳にはいかないし、僅かでも夜一さんの恩恵がある内に何としても上まで行かなきゃならない。 それも、チャド・石田・織姫達が一護を見守ってるだろう場所とは違う場所まで。 「っていうか抜かされてない?」 霊圧を探れば既にチャド達は上に居るようで、アタシは一体何時の間にあの一団に抜かれてしまったんだろうかなり凹む。 けど今は凹んでる場合じゃない。 一刻も早く上に辿り着いて準備しなきゃならない。 なのに事態は思いのほか ────────── っていうかアタシが想像してたよりもずっと早く進んでいて。 「げっ…まさか!?」 足取りが軽くなった直後、一護が卍解する気配を感じた。 それはつまり、白哉との戦闘が後半寄りの中盤に突入したって事で、それはもうすぐ白哉との戦闘が終了するって事で。 「もたもたしてたら間に合わないっ!」 夜一さんからの供給が再開されたとはいえこのままのペースで山登りしてたら間に合わなくなる。 「いいいいいいいいそがないとおぉぉぉぉっ!」 いくら体力を温存したところで間に合わなければ意味が無い。 散々な目に(?)あって尸魂界まで来て、間に合いませんでした〜…で済む訳がない。 「もういいっ!行くしかないっ!!!」 アタシが決断しなきゃならないのは多分今だ。 今、決断して行動しなければここまでの全てが無駄に終わる…そう確信したアタシは覚悟を決め、 「ダッシュうぅぅぅぅぅぅっ!」 頂上目指して供給分の力+僅かな自分の力を使ってともかく走ったっていうのに もう間に合わないかもしれない!!!と思わざるを得ない事態が起きた。 それは、頂上まであと少しの場所まで来たところで届いた天挺空羅。 それにより藍染の裏切りの全てが知れ渡る事になり…ってのんびり考えてる暇なんか無い。 この時点で藍染達は恋次とルキアんトコにババーンと登場してキャー危ないってトコに一護がババーンと登場になるから このままのペースで進んでたら間に合わない…けど。 「…………っ大丈夫。」 最悪の事態も想定してる。 寸で間に合わない場合も考えて、奥の手は考えてあるぶっつけ本番てのが不安だけど。 「落ち着いてやれば何でも出来る。大丈夫…大丈夫だアタシ。」 イメトレだけは頑張ったから出来る筈だ。 深く長い深呼吸を一つして、アタシは虚化して大地を蹴って ──────────────────── そして。 斬り掛かった一護の刃を指で受け止める藍染。 アタシはその二人の間に割り込むと同時に虚化を解きその刃を残る全ての力を使って受け止めた。 「君は一体何者だい?」 そう、アタシは残る全ての力を注いで藍染の刃を受け止めた。 だから返事をする余力も残ってないっていうのに 「答えたくない…という事かい?」 アタシに答える気が無いと勝手に勘違いした挙句 「そちらの彼同様、イイ目をしている…。」 精根尽き果てて死んだ魚みたいな目してる筈のアタシの円らな瞳を褒めてくださったが実にいい迷惑だ。 が、それよりも問題はここからだ。 ぶっちゃけるとこの後の事は一切考えてなかったからどうしていいか判らない。 ───── 一護の腹は守ったけどこの後のルキアはどうしようか…。 上手い考えも浮かばず、どうしようもないからそのままの体勢を保っていたら意外な所から救いの手が伸びてきた。 「んげっ!?」 「っうわあっ!?」 正しくは刃先が伸びてきた。 その刃先を一護が斬月で受け止め、飛ばされそうになる瞬間アタシを抱えて(巻き添えにして) 二人仲良く吹っ飛ばされてダンゴ状態でゴロゴロ転がって、かなり距離が離れた所で漸く止まったんだけど。 なんちゅう手荒なマネをっ!とギンちゃんを見れば 「藍染隊長、これ以上遊んでる時間は無いんと違います?」 「………そうだな。」 こっちは完全無視で藍染なんかと談笑してやがったちきしょう! 「これ以上邪魔されたら困るんや。」 「んぎゃっ!」 「くそっ!」 おまけに六杖光牢で身動き取れなくされるとかどんだけ情けないかっ! とはいえ、このまま考えも無しに闇雲に藍染に挑んだ所でどうにもならない。 二人仲良くジタバタしたけどそれももう遅くて、そっからの藍染やギンちゃんの行動は通常の2倍を超えていた(かもしれない)。 「恋次っ!」 「ルキアっ!!」 あっという間に恋次が倒れ、崩玉が奪われルキアの命まで奪われようとするまでが本当にあっという間で。 ルキアを寸で守った白哉は当然瀕死、遅れて登場する他隊長や夜一さん達も結局成す術が無いまま時間が来て 「さいなら乱菊…ご免な。」 「私の歩む道こそが正義だ。」 「これからは ────────── 私が天に立つ。」 ギンちゃん・東仙・藍染が名言を残し、虚圏へと旅立つ ────────── 筈が。 旅立つ道中っていうか足元が割れて宙に浮いて上がってく途中、やらかしてくれたのだ。 六杖光牢が解け、身体に自由が戻ったアタシ達が呆然と上を見上げているとバッチリ目が合った。 ───── こっち見てる…? ギンちゃんは明らかにっていうかあからさまにアタシを見下ろしてる。 そのあからさまな視線に気付いた一護や夜一さんやその場に居た隊長達がギンちゃんを見上げ、 その視線がそのままアタシに集中する中で ───── ちゃん…………約束。 ギンちゃんの呟きがアタシに届いた。 決して声が聞えた訳じゃない、口の動きがそうアタシに伝えてくれただけだ。 ───── 約束………ってまさか!? 「また遊びに来てもええ?」 「藍染惣右介にバレなきゃOKよ。」 「藍染隊長にバレんかったらええんやね、判った。」 「ようするに、バレなきゃいいのよ!バレさえしなきゃ。」 約束しよう!って約束した訳じゃない。 ただ、もう一度逢う為の約束じゃない口約束っていうか言い訳っていうか含ませただけっていうかそういうニュアンスで、 あれがあったからアタシはギンちゃんと何度も逢う事が出来た。 それを今ギンちゃんが口にするっていう事はつまり ───── これからも有効…って事? そういう事なのかもしれない。 神槍が伸びてアタシと一護を吹っ飛ばしたのはギンちゃんがアタシ達を藍染から遠ざけてくれたんだとアタシは思ってる。 無視したのは藍染の興味がこれ以上こちらに向かないようにする為で、 六杖光牢で拘束したのもこれ以上向って来れないようにする為で、 全部アタシ達を思ってやってくれたんだってアタシは思ってる。 だからこそ嬉しかった。 あの言葉をギンちゃんが覚えててくれた事や、また逢えるかもしれないって事が。 ───── けどっ!! 大勢のギャラリーが見守る中で言う必要はどこにあるんですかギンちゃん! いくら藍染がとっくに上に行っちゃっててバレないからって下からは丸見えなんすよギンちゃん! ───── どうせなら…っ! そういう事は人目を忍んで伝えて欲しかった。 この場は空気を読んで名言を最後に旅立って欲しかったですよギンちゃん………。 -------------------- 2010.07.16(19) ← □ →