本.54


───── ちっきしょおぉぉぉぉぉギンちゃんのバカヤロオォォォォォォっ!

そんな心の叫びを内に秘めたアタシは現在、何処で何をしているか?というと。

「聞かせてもらおうか。おぬしは市丸ギンとどういう関係じゃ?」
「杏子!お前俺の知らない所で何やってんだよ一体!何であんな奴とっ!」
「斬魄刀の事も聞いた方がいいんじゃないの?」
「そうだな…俺達の斬魄刀とはどうも違うようだし。」

山じぃ、一護、京楽さんと浮竹さんに囲まれて(しかも正座させられて)詰問されてる真っ最中でございます。
それもこれも全部ギンちゃんの所為だ!
名言残して行くシーンは眼福モノだったけど…けどっ!
何で余計な置き土産置いて行くのよどんな嫌がらせよコレはっ!
と、愚痴った所でアタシの心の叫び(訴え)がギンちゃんに届く筈もなく。

「っだからさっき言ったでしょ!偶然現世で知り合っただけだって!」
「信じられっかよんな事!」
「何よバカ一護のクセにっ!」
「んだと!?」
「えぇい止めんかっ!」
「「ジジィは黙ってろっ!」」
「まぁまぁ三人とも少し落ち着いて。」
「そうそう浮竹の言う通りだよ。それより…杏子ちゃんだったっけ?君の斬魄刀の事なんだけどねぇ?」
「それが何か?」

一護の攻撃を軽やか(?)に交わし、山じぃの制止を口汚く制止し、新たな敵となる京楽さんと浮竹さんという
尸魂界一曲者っぽいオヤジ二人と戦闘開始となる。
キッと京楽さんを睨み上げ、浮竹さんも睨み上げて”文句あんなら言ってみやがれ”と目で訴えつつ戦闘態勢を整えると

「君の斬魄刀なんだけどねぇ、さっき…君が気を失ってる時に具現化したんだよ。」
「…………へ?」

アタシの知らない事実らしき事を言い始めた。
さっき気を失ってるっていうのはギンちゃんに置き土産を頂いた直後、
力を出し切った疲労と取り合えず事が終わった気の緩みから意識を手放した時の事らしい ────────── けど!

「君が意識を失った後、君を守るように現れたんだ。朱と蒼を纏う二人…がね。」
「ほっ、本当に?」
「本当だよ。近付こうとしたボク達を威嚇してねぇ…危うく気絶させられる所だったよ。」
「っそれは…すいませんでした。」

っていうか何それ聞いてないんだけど一体どういう事よそれっ!

───── お前には言わなかったからな。
『何シレっと答えてんのよ!』
───── 話したら怒るでしょう?だから黙っていたんですよ?
『後で聞いたら余計怒るでしょ普通っ!!!』
───── だから今言っているだろう。
『っ開き直った…!』
───── 反省はしているんですよ?けれどを守る事が最優先なんです。
───── 杏子を守る事が我等の最優先事項だ。

何なんだ一体…。
ギンちゃんもカンちゃん&アッちゃんも良かれと思ってやってくれてるんだろうけど
回りまわって結果としてアタシを追い込んでどうすんだ!?どうしたいんだっ!!
それに、だ。
アタシとギンちゃんがどんな関係だろうと誰に何かを言われる筋合いはない。
百歩譲って一護は許すとして、こうなるまで都合の悪い事の全てに蓋をしてきた死神に言われたかない。
そりゃ?京楽さんも浮竹さんも十分OKだけどそれでも大きなお世話だ。
大体こんな事態になったのは藍染の本質を見抜けなかった護挺十三隊の怠慢だ。
おまけに一護まで巻き込んでくれちゃってホントどうしてくれようか。

───── それだけじゃない…。
「何で喜助さんを追放したの?」
「………何?」
「喜助さんを永久追放しなかったらこんな事にならなかったんじゃないの!?」
「浦原喜助と此度の事は関係ない。」

アタシが知る”知識”の中にそれは無い。
喜助さんの過去や、藍染との関係まで至ってなかったから知らないけど。
何かがあって誤解が生じてそうせざるを得なかった事くらい余程のバカじゃない限り誰だって判る。
それを『関係ない』の一言で済まそうとする事が許せなかった。
穿界門に拒まれる事が喜助さんにとってどれほどの事か?
その、自分を拒む穿界門を無理やりに通ろうとして傷付く事がどれ程辛い事か?
アタシはどっちも知っている ────────── 知ってしまった。
知識として見、現実として見せられ知ってしまった。

「何でそう言い切れるの!?喜助さんは知ってた…藍染の目的がルキアの中にある崩玉だって知ってた。」
「何…じゃと!?」
「ふざけんじゃないわよっ!都合の悪い事全部見なかった事にした結果がこれでしょ!」
「杏子お前…落ち着けよっ!」
「もういい。何も話す事なんかないわ。」
「待て!待つのじゃ!」
「うっさい!山じぃなんかハゲっちまえ!!!!!」
「なっ…んじゃと!?」

ハゲてるじじぃにハゲちまえ!はちょっと無いな…とは思ったけど。
これ以上ここに居て不快な思いはしたくなかったから、一護や山じぃの制止の声を無視して一番隊の隊舎を飛び出したのだった。





『ホント信じらんないっ!』
───── 少し落ち着いてください。
『落ち着いてるわよっ!』
───── 全く気が短い事だ。
『悪かったわねっ!』
───── まぁ、は悪くありませんから…。
『あったりまえでしょ!何でアタシが悪いのよっ!』
───── だから止めなかっただろうが。あの場所から出る事を。

何処か目的地があるでもなく、収まらない苛立ちをカンちゃんとアッちゃんにぶつけながら
隊舎の廊下をズンズン歩くアタシに向けられる視線。

『アタシは見せモンじゃないっつぅの!』
───── 杏子、前を見て歩いた方がいい。
───── そうですよ?危害を加える者が居ないとはいえ少し気をつけないと…。
『何よ!言いたい事があるならハッキリ言えばいいじゃないの!』

悪意は無い…けれど不躾な視線は無視を決め込み前も見ずにひたすら歩いていた結果、
カンちゃんとアッちゃんの危惧が現実となった。

「うわっ!?」
「ちょっ!?」

前も見ずに歩いてたもんだから誰かと派手にぶつかってしまった ────────── ってこの声はまさか!?

「アンタ…杏子だっけ?」
「っすいません…。」

やけにクッションがイイとは思ったけどよりによって何で乱菊さんとぶつかるかなぁアタシ。
おまけにここってば今一番向いたくない隊舎No.1の十番隊じゃないか!!!って事でアタシは乱菊さんと正面衝突してしまった。
くそぅこんな事になるならカンちゃんとアッちゃんの忠告聞いとくんだった…!

「ちょうどイイわ、寄ってきなさいよ。」
「えっ…っそのアタシは…。」
「遠慮しなくてもイイって。他にも居るけど気にしないで入った入った!」
「あのっ…ちょ!乱菊さん!?」

人間とは愚鈍な生き物で、後悔をいつも手遅れになってからする。
アタシはそれを地で行ってしまった愚かな子羊です。
だから見逃して下さい!という願いはもちろん誰にも届かない(カンちゃんとアッちゃんは居留守を決め込んでる)。

───── 他にも居るって…。

っていうか今ここに居る他の誰かなんてちっちゃい隊長か某番隊の副隊長しかいねーじゃん!
そんなトコに誰が好き好んで行きたいものですか!な抵抗も虚しく強引な乱菊さんに逆らう事も出来ず腕を捕まれて中に入ると

「………………。」
「ゴメンね〜コイツってホント弱いのよ〜。」
「いっ、いえ…お気になさらず…。」

既に出来上がって意識の無いイヅルが屍と化してた。

「アイツ…ホントどうしようもないよねぇ。」

そして空になった酒瓶とイズルを床に転がし、アタシにお茶を入れてくれた乱菊さんがポツリと零す。
乱菊さんの言うアイツは多分ギンちゃんの事だろうアタシは何となくそう思った…から、
じゃないけどこの世界で誰よりも長い時間を一緒に過ごして誰よりもギンちゃんの事を知る乱菊さんのその一言は凄く重く感じられて。
アタシは何も言えない ────────── 筈だった。

「です…よね。」

なのにアタシは無意識のうちに言葉を返していた。
乱菊さんの言葉に含まれる意味を正しく理解していたのかどうか?は判らない。
けどその時アタシは無意識に、乱菊さんの言葉を肯定するように頷きながらそう答えていた。
そして聞かれるままにギンちゃんと出逢った経過を乱菊さんに伝えた。
ギンちゃんは誰よりも優しくて、決して嘘は吐かない死神だった事を。

「そっか…。」

何を言っても擁護にすらならないのは判ってる。
それでもアタシは乱菊さんにだけは知っていて欲しかった。
アタシの知る”市丸ギン”という死神が、どういう人物だったか?を。

だから嬉しかった。
十番隊の隊舎を後にしようとしたアタシに乱菊さんが

「ありがとね…。」

そう言ってくれた事が。





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2010.09.10