「いらっしゃいませ〜。」

こんばんは、ワタクシ(自称永遠の18歳)は現在、
深夜のコンビニエンスストアにてアルバイト真っ最中。
つまり、念願のアルバイトを手に入れたぞ!(RPG風)
という嬉しい状況に頑張っておる次第です。

思い起こせば数日前、黒くてゴツくてムサくてやたら目立つオデブちゃんの中の人が
自分であるという有り得ないとは思いつつも、結果として有り難い現実を知り、
台所事情の逼迫している桜井家の毎日の生活の為、アルバイトをする決意をした訳で。

私としては元々の職業である書店の店員(一応社員)として、働きたいという希望はあったのですが。
如何せん今の私はである前に、桜井侑斗と共に未来の時間を守る為、
正義の味方として活躍しなければならないという深い深〜い事情があり、
選り好みしている場合ではなく、行動時間も含め深夜のコンビニでアルバイトするのが
一番だろうと判断し(それ以上に逼迫し過ぎてる家計が何をも許さなかった)今に至る訳ですハイ。

けれど、毎晩侑斗にバレないようバイトに出るのは中々至難の業で。

--- ごめん侑斗…。

抜け出す事の難しさから、毎度夕食に微量の(本当に微量です)昏睡睡眠薬を混ぜ、
鼻を摘んでも目を覚まさない事を確認してからオデブちゃんスーツを持参でアルバイトに向かうという
結構ハードな生活を余儀なくされているんです。
それでも、嗚呼働くって素晴らしい!何か越しじゃない呼吸って楽!と幸せを噛み締めてます。
それが例え深夜のコンビニエンスストア内限定だったとしても。

昼間、侑斗と共に行動し、バレやしないだろうか?と常にビクビクする状況とは正反対の、
障害のない呼吸そして開放感からか、私はこのコンビニでのバイトで一種のストレス開放を満喫しているのですが。
コンビニという場所は、本当に様々なお客様がいらっしゃいます。
接客という点では書店と何ら変わらないのでは?と思われますが、
客層といいましょうか、不思議なお客様も結構来られるのです。

そして、私はついに遭遇してしまったのです。
オデブちゃんではない、としての私で彼と…。






「いらっしゃいませ〜………。」

自動ドアの開く音に反応し、お約束の台詞でお客様を出迎えた私。
足元に視線を向けていた為、それに気付いたのはそのお客様が入店されてから数分後の事だったのですが。
店内をウロウロ徘徊し続ける事15分弱という不審極まりないお客様の行動に、
ふとお客様の顔を拝見しようと様子を伺い

--- りょ、良太郎くん!?

その不審な動きをするお客様が、我らがライバル(とは違うか)野上良太郎くんその人である事に気付きました。
と、同時に不審な動きを納得してしまうという何とも云い難いといいましょうか、ハイその当たりは汲んでください。

私は、何かを探そうとウロウロし続ける良太郎くんをそっと見守り、
見守り、見守り、見守り…見守り続けたのですがさすがに1時間オーバーともなると、
このまま放置し続ければ3時間とか5時間とか徘徊すんじゃないか!?と思い

「何かお探しですか?」

声を掛ける事にしました。
だって、今から5時間も粘られたら朝になるし帰れなくなったら困るし。(←これが本音)

「わっ!?あっ…あの…えっと…そのっ…」

声を掛けた良太郎くんは、探し物が見つからない事に(というよりも、見つけられない自分自身に)
気落ちしていたのか相当困った表情で。

--- かっ…可愛い!

侑斗とは違う、本当に素直で判りやすくていい子なんだろうなぁ…と(泣きそうになってた表情はヤバかったです)
思うと同時に、彼の持つ特有のありえない不幸っぷりが原因でこうなってるんだろうなぁ…と察し、

「何をお探しですか?」
「ま…」
「ま?」
「ます…っ…」
「升!?」
「違いますっ!っその…マスクを…。」
「マスクでしたらこちらに…。」

何で深夜にマスクが欲しかったんだ?という疑問はとりあえず棚の向こう側に置き、
マスクの売り場に案内し、

「ありがとうございます…。」

素直にお礼を言ってくれる素直な良太郎くんに超感動!となったのです…が。
幸か不幸か(100%不幸)それは起こりました。
マスク10枚を手にレジへとやってきた良太郎くんは、レジ横にあるおでんを発見し

「あの…これもおねがいします。」
「どれにしますか?」
「大根3つと、玉子4つ、しらたきを5つお願いします。」
「はい、」

注文通りの品を専用パックに居れ、マスクと別袋に入れて手渡し、

「ありがとうございました〜。」

帰ろうとする良太郎くんの背を見送る中、起こったのです。

--- ガツンっ

開く筈の自動ドアが開かず、ガラス扉に衝突(激突)した良太郎くん。

「いっ痛っ!」

その衝撃に思わず手に手にあったおでんを手放したのは仕方ないとはいえ、
おでん入りのレジ袋はどうなるか?といえば

「ぁ熱いぃぃ…っ!」

宙を舞い、しゃがみ込んだ良太郎くんの頭上に見事着地、頭からおでんシャワーという
コントじゃねぇんだからいくらなんでもありえねぇだろそれ、な状態へ。

「だだだだいじょうぶですかっ!?」

多分、大丈夫じゃないのは薄々感じてはいたんですが、さすがにこの状況で
『どう見ても大丈夫じゃないですね!』なんて言える勇者が居たらお目にかかりたい。

ともかく、タイミング良く次のバイトの方も現れ、私はダシの香り漂う良太郎くんを
裏へと非難させ、持参していたマイタオルで簡単に汚れを落としてあげてから

「少し待っててもらえますか?」
「はい…。」

シュン、とする良太郎くんが余りにも可哀想で、自腹でおでんを購入し

「これ、どうぞ。」
「でもっ!」
「台無しになっちゃいましたし、どうせ余ったら破棄になりますから。」
「本当にいいんですか…?」

手渡したそれを見て、申し訳なさそうに私を見る良太郎くんの表情に
直視の結果、キュン死した自分を安易に想像出来た彼の破壊力に恐れを抱きつつ、

「はい、遠慮はいらないですよ?」
「あの…っありがとうございます!」

何度も頭を下げて帰路へ向かう良太郎くんの背を

--- 無事に…無事に家に着いてっ!

そんな思いで見送りつつ、心のどこかでこんな風に考えながら、その背が見えなくなるまで見送り続けました。

--- 侑斗の強運と足して2で割ったら丁度いい感じになる…………かもしれない?










-------------------- 2009.02.25