02.


一体何の呪いなんだろうか?
そりゃ確かにアタシにはオカマヘビの呪いの印があるけど、どう考えたってそれとこれは別問題じゃね?と思う。
思うのは主に右脳限定で、左脳では現在対面中の相手の考えてそうな事を考えてた。
はて、アタシは何時からそんなに器用になった?っつぅか右脳と左脳の使い方間違ってねぇ?

「単刀直入にお伺いしてもよろしいです?」
「出来れば遠まわしでお願いします。」

今はちょっとでも時間稼ぎして、整理しなきゃならないアタシの頭ん中を。
いくら二度目ったってアタシも人の子。二度目だろうが三度目だろうがテンパるものはテンパるのだ。

「何者っスか?アナタ。」

そんな、テンパってるアタシに直球ど真ん中のストレート投げるとは、流石は浦原喜助。

「何者って見たままデスヨ。人間に決まってるじゃありませんかオホホ。」

それでも慌てず騒がず声を震わせる事なく冷静を装って答えるのはもはや矜持の成せる技だろう ───── が。

「見たまま…っスか。アタシの見た限り、アナタ人間じゃありませんよ。」
「はぁ?」

縦横斜めどっから見てもアタシは人間だっつぅの。この野郎、アタシがゲロしないからって適当な事言って動揺させて
混乱させて思い通りに事を運ぶつもりに違いない。と、思ってたんだけど。

「限りなく人間に近い ───── けれど人ではない。一見すれば人間に見えますがね。」
「 ───── 。」
「アナタ、ウチの庭に倒れてたんスよ。小さな子供の一緒に。」
「っその子は何処っ!?」
「消えました。ただ ────────── 」
「っ何?」
「あの子供とはお知り合いで?」
「お知り合いっつぅか何っつぅか。」

冗談と思いたい。けれど冗談とは思えない浦原喜助の台詞の一つ一つがアタシの中に落ちてくる。事実として。
つまり、アタシの希望は完全に絶たれ、これは夢じゃなく現実って事になる。

「アタシ、人間じゃないなら何?」
「それはアタシがお伺いしたい事なんスけど?」
「アタシが判る訳ねぇし。」
「ならアナタと一緒にいた子供は何者で?」
「知らん。ただあの子が…助けてくれたのは確か。」
「ではウチの庭に倒れてた事で何か記憶している事は?」
「何もない。」
「そうっスか。」

そして、アタシは自分が口にしようとした台詞で気が付いた。
アタシはあの場所で死にかけた。そして、人ではない存在でここに居る。

「幽体離脱みたいなもん?」
「近いっス。ただ、幽体…霊体といいますか魂魄といいますか、それと言うには余りにも人に近すぎるんスよ。」
「どういう事?」
「通常、そういう状態の存在は全ての人間に見える状況には無い。けれどアナタの場合…。」
「誰でも見えるって事?」
「ええ、誰にでも見える存在っス。けれど…人じゃない事は確かっス。」

つまり、アタシはめちゃくちゃ中途半端な宙ぶらりんな存在って訳だ。
何の理由があってここに居るのかも判らなけりゃどうやったら戻れるかも判らない。
ただ一つ、判ってるのはアタシはあの子 ────────── 水鏡に連れられてここに来た、という事だけだった。
結局アタシにはどうしようもない。となると、どうにかなるって思わなきゃやってられん。

「あのさ喜助ちゃん。」

開き直ってこのまま居座ってやろうと先ずは交渉から始めようとしたが。

「何故アタシの名前を?」
「えっ?」
「アタシはアナタの名前を伺った覚えもアタシの名前を告げた覚えもないんスよ。」

余りにも会話がスムーズだった所為か、それともアタシが冷静さを欠いてたからなのか?
初めての体験時はうっかりよりも驚きが先でそんなヘマはしなかったけれど今回はそうもいかなかったらしいアタシは
指摘された通り、聞いてない筈の名前を口にしちまった。が、騒いでも後の祭り。

「もう一度お伺いします。何故アタシの名前をご存知なんスか?」

目深に被った帽子の奥で、アタシという存在を見極めようと目を光らせる浦原喜助。
アタシは浦原喜助というヘビに睨まれたカエルと化す ────────── 訳がない。
疑われる立場ってのは経験済みだ。現状を多少なりとも把握した今、テンパった程度でカエルに成り下がるようなヘマはしない。
さて、ここはどう切り返すが得策か?
アタシをジッと見つめる眼を怯む事なく見返した時、

「ちわーっ。テッサイさん、浦原さん居る?」

聞き覚えのある声が表から聞えてきた。その声の主は恐らく主人公である黒崎一護だろう、と思った瞬間だった。
頭をズキズキとした痛みが襲う。そしてその痛みはズキズキを通り越し、

「どうしたんスか!?」
「何だ?何があったんだよ…ってこの人…。」

訝しんでた浦原喜助と部屋に上がりこんで来た黒崎一護の声が聞えてきたと気付いた時には爆発すんじゃねぇ?って激痛に変わり

「浦原さんっ!俺はこの人見てるから直ぐ杏子に連絡してくれっ!」
「黒崎さん、この方ご存知なんスか!?」
「いいから早くっ!」

二人のやり取りがどんどん遠くで聞え始め、アタシは痛みに耐え切れず意識を手放し ────────── そして。


意識を取り戻したアタシを待っていたのは信じられない相手との再会だった。





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2009.12.21〜2010.01.15