03.


「 ───── 。」
「 ───── 。」
「 ───── 。」

目覚めたアタシを待ち受けていたのは、浦原喜助と黒崎一護と少女の三人だった。
(ちなみにこの時点でアタシはまだハッキリ目を開けてはいない。うっすら目で様子を伺ってたんだけど。)
意識を失ったアタシをご丁寧に再び布団に運んでくれたのは誰?と聞きたいような聞きたくないようなそんな気分だったが、
三人がアタシを覗き込んで凝視してる姿に目覚めた開口一番の台詞がそれじゃあんまりにもあんまりだし?
気が付いたことを悟られないよう様子を伺ってて ───── 気が付いた。
浦原喜助と黒崎一護と一緒にいる少女。彼等が存在する世界にこんな登場人物は存在していただろうか?
アタシの記憶があやふやなものになってないとすれば、こんな少女は存在しない。
けれど、アタシはこの少女をどこかで見た気がする。見た気がするってより、知ってる気がする。さらに、

───── 黒崎一護…。

アタシは確かにその名前を知っている。好きで読んでた本に出てくる主人公の霊感少年だが。

───── それだけじゃない。アタシはこの子を…。

二次元にある読み物上での存在ではなくアタシは確かにこの子を知っている。
昔、突然現れたオレンジ色の髪をした小さな男の子は突然アタシ達の所に現れ、一緒の時間を過ごし、
現れた時同様突然消えてしまった。
泣き虫で寂しがり屋で、人見知りだったけれど一緒に過ごす中でアタシ達に懐いてくれた小さな男の子は
確かに”くろさきいちご”と名乗っていた。
忘れていた昔の出来事だけど、目の前の黒崎一護があの時の小さな男の子だと、何故かアタシは確信していた。

「いっちゃん?」

ゆっくり身体を起こし、目の前の少年に昔のように呼びかけてみる。

「俺の事覚えて…?」
「全っ然覚えてるわさっきまで忘れてたけど。」
「何だよそれ…っでも何でここに?」
「さぁ?」

そして”黒崎一護=くろさきいちご=いっちゃん”が間違いではなかった事を確認した後、
もう一つの確認作業を行うべく少女の方に向き直る。

「っていうかそれよりもさぁ、アタシの記憶が正しけりゃ…。」

正面から少女の顔をじっくり観察し、自分の記憶に照らし合わせて答えを導き出すと同時に思い出し、気付く。
アタシの記憶が部分的に幾つも欠けていた事に。
そして意識を失う事になった激しい頭痛によって、アタシは欠けていた幾つもの記憶を思い出した。

「っこのバカ娘がっ!」
「ひぃぃぃぃっごめんなさいぃぃぃっ!!」
「っおおおおお落ち着けって!」
「人がどんだけ探したと思ってんだ!あ゛?」

突然姿を消した幼馴染。アタシと弟にとっては妹同然で家族同然で、何の理由も原因も無く突然消えた。
あの子が居た事実も、あの子が存在した事実も全て持って、あの子はアタシ達の前から居なくなった。
何処を探しても見つからず、誰に聞いても知らないと言われ、それでもアタシ達はあの子を探した。
なのにアタシも弟も、いつの間にかそれ自体をも忘れていたのだ。

「お姉ぇ…。」
「無事みたいだから構わねぇけどさ…取り合えず簡潔に説明してみやがれ。」
「っじつは…。」

一体どんな力が働いたのか?は解らない。けれどこいつもアタシ同様、突然この場所に飛ばされて今に至るという。
ただ、アタシと違う点は、どうやらこの子はこっちの世界と元々接点がありそうな感じがあるという事だろう。

「で?説明は終わってんの?」
「何の?」
「アタシの。」
「どういう意味?」
「喜助ちゃんがアタシの事疑ってんだけど。」
「それなら俺が一応したんだけど…。」
「あんがとね、いっちゃん。」
「っその…いっちゃんっての…。」
「何?恥ずかしいの?」
「そうじゃねぇけどさ…。」
「やぁねぇ。昔は”おねぇちゃぁぁん”って呼んでくれてたのにっ!」
「や、だからそれはっ!」
「何よ、もう呼んでくれない訳?いっちゃんてそんな薄情だったの!?」
「そうよ一護。お姉ぇの事まだちゃんと呼んでないじゃない!」
「だーかーらっ!」

ちっちゃかった男の子とは違って成長した少年に”おねぇちゃん”って呼ばれたい訳じゃないが、
久しぶりに会った事や探してた妹(みたいな子)が見つかった安堵感からアタシはすっかり忘れていた。
暢気にしてる状況じゃない事や、この場にもう一人居るって事を。

「お取り込み中申し訳ないんスが。」
「何だい喜助ちゃん。」
「どうしてアタシが喜助ちゃんなんスか?」
「別にイイじゃんアンタ男だろ?細かい事は気にすんなって。」
「そうよ喜助さん。お姉ぇはそういう人だから!」
「ほほぅ…喜助さん、ねぇ。」
「っ!!」

どうやらこの子は案の定、っつぅか予想通り(いつ予想したんだ)喜助ちゃんとは中々どうして!な雰囲気っぽい。
いやいや姉としては嬉しいようなちょっと寂しいような、でも面白いってのが一番大きいな、コレ。

「サン、と仰いましたか。」
「そうよ。。」
「再度お伺いしたい事があるんスよ。」

もう少し、この子と喜助ちゃんで遊んでやろうと思ってた矢先。
どうも気になる事があるんだろう(そりゃそうだ)喜助ちゃんは話を自分主導に持っていこうとする ────────── が。

「悪ぃ、ちょっとさ?」
「何スか?」
「そのお伺いしたい事、後回しでも構わんだろうか?」
「何か不具合でも?」
「優先したい事があんだわ。どっちみち帰る方法も解んないし?それまでは…。」
「それまでは?」
「ここにお世話になるつもりだから。」
「「「はいぃぃっ!?」」」
「綺麗にハモったなぁ今。」
「や!お姉ぇ!?」
「っこんな奴んトコに居なくてもウチに来ればいいじゃねぇかっ!」
「ん〜…アタシもイロイロ考える事があってねぇ。」
「イロイロって何っスか?」
「それは後回しって事で。」

喜助ちゃんの伺いたいのは多分、アタシと一緒にいた水鏡の事だろう。
ここにアタシを連れてきた水鏡の事はアタシが一番知りたい事なんだが、どうやらアタシは水鏡が何者か?
うっすら気付いたかもしれない。っつぅか多分アタシの予想は当たってるだろう。と、いう事で。

「取り合えず、行くか。」
「何処に行くんスか!?」
「いっちゃん、行くよ?」
「お姉ぇ?」
「アンタも行くの。」
「何処に行くつもりなの!?」
「黒崎家。」
「「「はぁぁぁっ!?」」」
「いーからいーから。ちょっと確認したい事あってさ。」
「ちょっとお姉ぇ!」
「ほらほら〜行くぞ〜…。」
「ちょ!待ってくれって!!」
「じゃ、喜助ちゃんまた後でね〜…。」

アタシはあの強烈な頭痛であと1つ思い出した事があった。
それを確認できるのは黒崎家だけで、それを確認するには黒崎家に行く必要があって。
でもアタシ、黒崎家って何処にあるのか知らないし?って事で、
慌てまくる二人を伴い浦原商店を取り合えず後にした ────────── 。





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2010.01.16