04.


「なるほど、ここが黒崎家か ───── 。」
「おっ、お姉ぇ?」
「杏子!今なら大丈夫だ!」
「解った!お姉ぇ、入るなら今だからっ!」
「ん〜…。」

何でそんなに人目を盗むようにして家に入らなきゃなんねぇんだ?あ゛?と、言いたいトコだが。
あの親父に見つかったら少々面倒臭い事になりかねないので、渋々二人の言うままに従ったアタシ。
キョロキョロ辺りを伺いながら招き入れられた黒崎家に上がりこみ、

「お姉ぇっ!?」
「ちょ!そっちはっ!!」

目的地であるリビングへ真っ直ぐ向かいそして ────────── 見つけた。
リビングの壁に飾られる大きく引き伸ばされたパネルを。

───── 黒崎真咲…。

命を掛けて幼い我が子を守りぬいた母。その魂はもうどこにも存在しないというのに、
写真の中のその人はまるでその場で家族を見守るように、微笑んでいた。
その笑顔から伺い知れる人柄は、あの当時と変わってないのだろう。
あの、アタシやあの子が居た世界から誰よりも先に消えてしまったアタシにとっては姉であり母親代わりであり、
誰よりも大好きだった人。弟やあの子が産まれる前に消えてしまった叔母は、今のアタシやあの子のように
見知らぬ世界へ放り出されたけれど、それでも幸せに暮らしたのだろうそれを想うと知らぬ間に涙が零れていた。

「お姉ぇ…。」
「ねーちゃん…。」

アタシが涙を流す訳を知らない二人の心配する声もどこか遠く感じ、様々な感情が入り混じり、
どこか遠くへ意識が引っ張られるような気さえする。
そんなアタシの意識を留めたのは、アタシを心配するいっちゃんの声でもあの子の声でもなく、

「 ────────── 真咲。」

アタシにとって大切なあの人を守り続けてくれ、
アタシにとって大切な人を今も守ってくれている”黒崎一心”の呟きにも似た小さな声だった。










アタシを見る視線に疑いの色はない、けれど明らかに戸惑いが見えた。写真を見つめるアタシを見て呟いた名前は”真咲”。
アタシはその声に意識を留める事が出来た ────────── と同時にムズ痒い感情が湧き上がっていた。
昔言われた言葉。アタシは母よりも、大好きな叔母に似ている、とよく言われた。
外見は母に似ていたけれど、外見ではない何かがとても似ていると。

「一護、杏子。」
「っ何?」
「何だよ…。」
「その人は一体誰だ?」
「っあのねお父さんっ!」
「っその…っこの人は…。」

そして、大好きな叔母はアタシや弟に大切な者を残してくれた事を知る。
ここにこうして居る事がそれをアタシに教えてくれた事に感謝しつつ、
もしかするとそれを知る為にアタシはここに来たのかもしれない、と思えた事が嬉しかった。
だからこそ、ちゃんと言わなければならない。何も知らない彼等に、アタシが知る本当の事を全て。

「二人とも落ち着けってば。アタシがちゃんと説明すっからさ?」
「っ大丈夫かよっ!?」
「そうよっ!適当な事言って誤魔化したりしない!?」
「うわぁ何それ随分な物言いじゃね?」
「だって!」
「大丈夫大丈夫!」
「で、君は一体…。」
「初めまして。私”と申します。」
「””っ!?」
「お父さん?」
「親父、何驚いてんだよ。」
「っすまん。」

彼は確かにアタシの苗字に反応し、驚いた。その訳はその苗字がよくあるものだからでも珍しいものだから、でもなく
何か思い当たるフシがあったからであり、それは多分彼が”事実”を知っているからだろう。

「驚かれた理由は、アタシの苗字に心当たりがあるからじゃないんですか?」
「 ───── 。」
「そうなの?」
「親父、本当なのか!?」
「 ───── ああ。」
「アタシが8つか9つの頃あの人は居なくなった。まぁそれ自体思い出したのはこっち来てからだけどね。」
「あの人って?」
「”真咲”。忙しいウチのママンの代わりにアタシの面倒を見てくれたアタシの叔母。」
「それってまさかっ!?」
「親父っ!?」
「真咲は言っていた。姉と、妹のように可愛がった姪の事だけが唯一心残りだと。」
「つまりアタシとアンタ達はイトコって事よ。」
「「うそぉぉぉっ!?」」
「間違いないだろう。よく似てるだろう、母さんと。」
「「何処がっ!?」」
「お前等いっぺんシメたろかっ!」

アタシの知る事実と、彼が知る事実が一つになって明らかになる新しい事実。
それはアタシだけじゃない、この黒崎家にとっても良い結果になった(かもしれない)事が、
アタシの中にあったハッキリとしない部分をスッキリクリアにしてくれた。
それだけでもここに来た甲斐がある。

「よし、んじゃ帰るか。」
「何!?」
「ちょっとお姉ぇ!?」
「帰るって何処に!?」
「喜助ちゃんトコ。」
「何だとぉぉぉぉっ!?どういう事だ一護っ!!」
「ちょ、落ち着け!!!」
「状況がハッキリしたんだからウチに泊まればいいじゃないの!ね?」
「でもまだ片付いてない事も残ってるし?それ片付くまでは向こうの世話になるわ。」
「真咲が妹のように可愛がっていたなら俺にとっても妹同然。否、娘同然だ。嫁入り前の娘をあんな場所に行かせられるかっ!」

来た甲斐は本当にあった…が。娘ってアンタ実年齢考えたらそんな歳変わらねぇって。(言いたかねぇが。)

「そうよお姉ぇ!まだ遊子も夏梨も帰ってきてないし!!」
「そっ、そうだよな!二人とも絶対会いたいに決まってるしな?」
「約束は約束よ。とにかくこっちにも来るから。んじゃ後は宜しく〜!」
「ちょっ!」
「待てって!!」
「一護っ!絶対阻止しろっ!!!!!」
「あ、違う。アンタ等も一緒に来て。」
「「えっ!?」」
「まだ話残ってっから。」

と、一人騒がしいオッサンには

「それじゃまた明日ね?お兄ちゃん。」
「おっ、おっ、おっ ───── 。」
「「((うわぁ…。))」」

白々しい台詞で足止めし、呆れる二人を急ぎ連れ出す事に成功し、
再び舞い戻った浦原商店で今度はアタシの状況を説明するべく話を始める事にした。





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2010.01.17