06.


30分程前に説明したここに至るまでの経緯。
二度も三度も説明すんのは面倒だから握り締めた拳内に怒りを留め置いて歯を食いしばって耐え忍んだが。

「一体何があったっていうの!?何でよっ!何でお姉ぇがこんな目に!」

だから説明したじゃねぇかついさっき!!!

「どうしようどうしたらいいどうすればいいのっ!」

と、慌てふためくのはアタシを心配しての事だろうが如何せん”何故どうして!?”を繰り返されると
痛みより怒りが上回ってくる。アタシはちゃぁんと説明したよな?何でここに来るハメになったか?を。

「ちょっと落ち着けよ!確か何とかっていうヘビのオカマだかオカマのヘビだかにやられたって…。」
「ですね。ええっと何でしたっけ?ヘビのくせにオカマの八つ当たりの的になったとか?」
「おのれ大蛇丸っ!呪印の所為でお姉ぇがこれ以上凶暴になったらどうしてくれんのっ!」
「(おぃっ!それじゃフォローになってねぇって!)」
「(そうっスよ!これ以上刺激されてはアタシだって庇いきれなくなります!)」

おまけに身体の心配より先に凶暴化の心配ってさ、どうなの!?

「もう喚くなよっ…流石に疲れてきたし痛いんだから。」
「ごっ、ごめんお姉ぇ。」
「拡がらないよう何かしてくれてあるみたいだから、取り合えずもうそろそろゆっくりさせろや。」

身体の痛みは我慢出来た。けれどこの呪印が齎す痛みはどうにも耐え難く、マジで立ってるのも辛くなってきた。
そんなアタシの様子に漸く落ち着いてくれそうな雰囲気を見せる三人 ────────── と、思いきや。

「あっ、あのさ?」
「何…。」
「いっ、今思いついたんだけどね?」
「だから、何?」

やっぱりどっかソワソワっつぅか?心配してくれてんだから流石にこれ以上は怒れないが約一名、様子がおかしい。
思いついた何か?を言おうか言わまいかモゴモゴしながらアタシの顔色を伺う。

「怒らないから言ってみな?」
「うん、っその呪印なんだけどね?」

そして、その口から発せられたのは”もしかしたらこの方法で呪印がなくなるかも!?”という方法だった。
けれど、いくらなんでもそんな簡単な方法で呪印が解けんのか!?と思わざるを得ない。
そりゃ此処に来てからの自分の存在の半端ねぇ規格外っぷりを振り返れば絶対ムリ!とは言い切れない上に
絶対成功しない!とも言い切れない。が、いくらなんでもそこまで安直に事態が解決したら違う意味で凹む。

「その呪印の構造や仕組みを聞いた上でのアタシの見解を述べても構わないっスか?」
「別に断ってから述べなくてもいいから述べてよ。」
「杏子さんの案、試す価値は十二分にあるかと思いますよアタシも。」
「マジか!?」
「ええ。タイミングさえ誤らなければおそらく可能でしょう。ただ… 」
「何か問題でもあんのか?」
「義骸の作成に二十日程かかるんス。サンの場合特殊ですから…。」
「でも二十日もありゃ出来んだろ?だったらやってみる価値あんじゃねぇ?」
「一護の言う通り!ねぇお姉ぇ、試してみようよ。ね?」

んでもって、アタシは三人のやり取りの真っ最中に落ち込みタイムへと突入した。
(安直にも程がある方法は試す価値アリ!との判断が下された為。)
しかし、マジでそんな方法で呪印が解けたらホント立場ねぇよな。誰とは言わんが。

「もうさ、好きにしてくれていいよ…。」

ホント、どうにでもしてくれ………。










と、いう訳で。アタシは一先ず帰る方法を模索する前に呪印の解放を優先すべく滞在する事になった。
絶対何とかなるから!と勢い付く彼等を前にお前等のその自信はどっから沸いてくるんだ?と
何度も口にしそうになった事実は否めないが、全てはアタシの為に頑張っているんだから ───── と
喉まで出掛かった台詞を何度もゴクリと飲み込んだ。そう、彼等はアタシの為に頑張ってくれている。本当に頑張ってた。
間違いなく確かに絶対頑張ってくれてはいるんだがどうにもどっか面白がってる気がしてならない。
特に、一番重要な義骸作成の任務及びその他諸々(っつぅか全部)担当の喜助ちゃんがあーでもないこーでもない、と
作業する姿を覗き見した時、アタシは確かに喜助ちゃんの眼光の奥に逢った事のない涅マユリを見た。
だからアタシは腹を括り開き直り、ついでに携帯の改造を押し付け二十日という時間を空座町観光及び若者達との交遊に
費やす事にした。どっからか事情を聞きつけてきた黒崎家の大黒柱に半ば拉致という形で黒崎家滞在を強要され、
了承した事を皮切りに小さな従姉妹との交遊からスタートし、高校生の少年少女と恥も外聞も忘れ交遊を深めまくった。
そのついで ───── と無関係の保護者(誰とは言わんが職業は医師)との接触にも強引ならが成功した。
そうなると、今度は誰もアタシを止められない。アタシ自身歯止めがきかなくなってたから別にいいんだけど

「どうせアンタの事だからあっちも餌付け済んでんだろ?」
「何あっちって!餌付けって何!?」
「言わなくても解るわよねぇ…ふっ。」
「(いっそ言って!含み笑い怖すぎるっ…。)」

アタシの予想を裏切る事無く友好を深めていた

「チキショウ!お持ち帰りしてぇぇぇぇぇっ!」
「お願い正気に戻ってよお姉ぇぇぇぇぇっ!」
「絶対退屈させない寧ろ死ぬまでコキ使ってやるから!!!」
「そこまで言われたら流石の僕も迷うなぁ。」
「ギンちゃん迷ってる場合じゃないからっ!お姉ぇに隙見せたら取って喰われるからっ!」

某裏切り者の死神とも接触を果たした。要するに、最初グチグチ言ってた割に充実しまくった日々を送っていた。
だからといって、このままここに居てもいいかな?何て事は考えた事もない。
どんなに楽しくても充実してても、アタシが帰る場所は一つだけ。
アタシがここに居る事で半ば抜け殻になったアタシの身体を前に、
どれ程心配してるだろう彼等の居る場所がアタシの帰るたった一つの場所。

───── 何が何でも絶対帰る。

その想いがあったからこそ、アタシは今ここに居る現実を堪能していた。
直ぐには語れなくてもいつか彼等にここでの事を思い出として語る為に ────────── 。





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2010.01.26